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Knight and Mist 二章-5 エルフの森へ

「ふー、お腹いっぱい!」

レティシアお手製のサンドイッチで腹ごしらえをしたあと、ハルカたちは再び歩き始めることとなった。

これまでの整備された(といっても草が生えてない踏み固められている土、といった程度の)道とは違い、完全な獣道だ。

素人のハルカにはその道すらすぐに分からなくなるような、道とも言えぬ道。

スコッティもこういった森へ入るのには慣れていそうだが、もっぱら狩猟のときばかりのようで、人が入らないような森の奥まで行くことはないという。

ということはセシルが頼りだ。

地図を見ながらセシルが言った。

「おそらくこのここらへんにエルフさんたちはいると思うのですが、日暮れまでに着くか微妙なので、このあたりで野営しましょう」

「そのまま行ってエルフに挨拶したほうがいいのではないか?」

「エルフが僕たちに姿を見せてくれるとは限りませんから、安全策でいきましょう。この森でそのまま夜を迎えるのはあまり勧めません」

「でも、何かあったらエルフたちが気づくだろう?」

スコッティの問いかけに、セシルは渋い顔をした。

「エルフたちは森全域を見ていると思いますが、騒ぎなんか起こしたら追い出されますよ」

「わたしは野営でかまわないよー」

大人2人の会話に割り込む子どもの気分でハルカが言った。

スコッティも異論はないらしい。

「午前はあんなに長かったのに、午後って短いのね」

薪になりそうなものを拾いながらハルカが言った。

「それにもうお腹が減ってきたぁ」

「まだまだあるぞ? レティシア製サンドイッチ」

スコッティがまだまだ重そうな包みを掲げて言った。

「ほら、休む前にとっとと歩く!」

ダラダラとセシルについていくスコッティとハルカに喝を入れるセシル。

「喝を入れるセシルって新鮮だな」

「どういう意味だい?」

スコッティが片眉を上げてハルカを見た。

ハルカは森の中をぐるっと見回したあと、肩をすくめた。

「なんでもない。よく分からないの」

スコッティたちにはまだセシルとの話は伏せてある。

「昔の知り合いか何かか?」

「まあ、そんなところ」

そうして行程の半分ほど行ったところでだった。

突然、セシルが止まった。

セシルの頬を掠める矢。

「待ってください!」

スコッティが反射的に剣を抜くのをセシルが止める。

そのスコッティの手元にも矢が飛んできた。

「剣を握りたければ握れ。次は外さん」

森の中のどこからか女性の声が響いた。

「この森の主は我が父。父とあいまみえるに相応しいか私が試させてもらおう」

その人は音も立てずに現れたーー

それも予想を遥かに上回る数で。

「ようこそ、エルフの森へ。我は暁の明星シルディア。それで、何の用だ、人間」

ハルカたちはあっという間にエルフたちに取り囲まれてしまった。

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