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Knight and Mist第四章-3聖堂にて①かくかくしかじか
砦の頂上にある聖堂に一同が会し、おのおの自己紹介するはこびとなった。
なぜイーディスがいるのか?
エルフたちはあれからどうなったのか?
気になることはやまやまだが、まずは話を聞くことにしたハルカであった。
「では私から」
最初に口を開いたのはリルさんだ。
「この砦を預かる身、聖騎士のリリー・ホワイト。みなさん、喧嘩など騒ぎを起こしてレティシアを困らせないように。次、レティシア」
「え、えーと。私はレティシア・ホワイトといいます。みなさん、よろしく」
モンドが鼻血を出しそうな微笑みでレティシアが言った。
「私は姉さんとともにこの砦を守っています。大怪我をしてきた皆さんを看護したのが私です。もう怪我はうんざり。そこのところ、お願いしますね」
「…………」
視線が行き交う。
少し間があり、その間にハルカはセシルをバシバシ叩いた。
「ん? どうしました?」
「何も見えない! あと、こんなカッコで自己紹介はイヤだよ! お尻向けて自己紹介とか! かっこがつかない!」
「カッコがつかないとは……いえ、なんでも」
セシルは何か言いかけ、言葉を止めた。
「じゃあ信者席に……よっと。あまり動かないよーに」
セシルは硬い木椅子にハルカを慎重に降ろした。
その横にセシルは腰をおろし、ハルカを自分にもたれかけさせた。
「そ、それは恥ずかしいっ!」
慌ててセシルから離れると、天井がグニャッと歪んだ。
「言わんこっちゃない」
セシルの呆れた声が降ってくる。目眩で一瞬意識を失ったらしい。気づけば離れるどころか膝枕されていた。
上からマントをかけられる。ハルカは起きあがろうとしたがまたしても目眩がおそってきたので、仕方なくおとなしくしておくことにした。
(さっき変なところでも打ったのかな? それにしても頭が痛い。それに少し熱っぽいみたいだな……)
マントの上から肩を叩かれる。励ましだろう。ハルカは二日酔いのような頭痛を抱えて、聖堂の奥を見た。
ハルカが椅子のところで落ち着いたのを見て、榛色の目の二枚目、スコッティが名乗った。
「僕はスコッティ・プレスコット。一応近衛隊長をしているよ。シルディアとともにハルカちゃんたち三人を回収してここまで連れてきた。エルフも数人いるよ」
「代表として顔を出しているのが我、《暁の明星》シルディアじゃ。皆、我に敬意を払い失礼のなきように。あとれてぃしあは、隙あらば隠れようとしていないで、堂々とおのがふぃあんせのとなりにいなさい」
「ふいっ、フィアンセっ!!」
レティシアが真っ赤になって顔を覆い、スコッティが苦笑する。
「へーえ、そこのふたり、デキてんのか」
イーディスが興味深げにしげしげと二人を見つめた。
「で、デキっ……!!!!?」
もののずばり言われたレティシアのほうは、飛び上がってその場を駆け出した。そして聖堂の後方に座るモンドの椅子の陰に隠れてしまった。
「ハーン、こりゃ面白いぜ」
ニヤリとするイーディス。
「スコッティは我が助けてやったのじゃ。不届き者のスループレイナ人二人がちちうえの裁定から逃げたでな。スコッティはちゃんとパンを食らうたぞ。正式にエルフから祝福を受けた者じゃ。二人の子どもには我が名前をつけてやるからな」
「こっ、こここここ」
モンドの後ろから鳥の鳴き声みたいなレティシアの声が聞こえる。
「シルディア、レティシアがそろそろパンクするから、そのへんで勘弁してやってくれ」
「ここの女子たちは恥ずかしがり屋じゃのう……我はそういうの苦手なのじゃ。はようくっつきなされ」
口をとがらせるシルディアに、スコッティは無言で苦笑した。
「つまり、スコッティは近衛隊長さんで、エルフの騎士ってこと?」
ハルカが尋ねた。
「うーん、エルフの騎士は語弊があるかな。エルフの祝福を受けた騎士だ」
「ふーん……なんかすごいね。そうそう、長老は?」
姿が見えないのでハルカがまた尋ねた。
これにはシルディアが答える。
「不届き者のスループレイナ人二人とハルカが儀式から逃亡したのち、我はスコッティを保護しての、そうしたら一人残ったスコッティはパンを食べるではないか。敵襲のなか、見上げた男じゃ。それから聖大樹のもとにお父様ーー長老を残して我はグレートマザーとスコッティとともにハルカたちを救出に行ったというわけじゃ」
スコッティがつづけて、
「みんなを連れて砦についてから、兵を派遣したんだ。エルフの森は今は鎮火して、襲ってきた敵も片付けた。長老は傷一つなかったらしい。大樹を守るために里に残るそうだ」
あの大混乱の中ーーたくさんの命が奪われたのだろう。シルディアがどこか陰鬱な表情をしているのにハルカはようやく気づいた。
「グレートマザーは見つからなかった。おそらくはーー」
シルディアがうつむく。
ーー《死神》にやられてしまったのだろうか?
(……わたしたちの代わりに?)
グレートマザーの言葉を思い出す。
ーー必ず世界を救いなさい……
「………………」
「まあ、ともかくそんなところだ。ハルカは喋るのが大変だろうから我が代弁する。そこな女子はハルカ。グレートマザーから大切な役目を授かっておる」
「私たちは全力であなたをサポートします、ハルカ」
リルさんが言った。エルフの返答によっては始末する、と言っていたリルさんだから、一応ハルカは安全だということになったのだろう。
安堵していいのか悪いのか、ともあれこれでリルさんは味方というわけだ。
ーー炎に包まれたエルフの館で。
ーー槍を自分の胸に突き立てられた瞬間。
ーー何が起こったのか分からなかったあの一瞬が記憶に蘇る。
リルさんに言われてエルフを訪ねたが、危うく命をおとすところだったーーそう思うと、あらためて恐怖が湧いてきた。
ハルカは気づかれないよう、小さくセシルの服の裾を握ったのだった。
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