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Knight and Mist第四章-2焔の騎士イーディス

「イーディス!?」

思わぬ人の登場に素っ頓狂な声を上げるハルカ。

「ああっ!?」

それに対してめちゃくちゃ機嫌の悪そうなイーディスの声がした。

「キンキンした声で叫んでんじゃねえ。ったく、っせえな」

三白眼でギロッと睨まれる。

「てか誰だよテメェ!?」

「え、えっと、あの……」

凄まれてレティシアの背中に隠れるハルカ。

(やっぱりこの人相手に名乗れる名前なんてない……!!!!)

「そろそろ客人の名前ぐらい覚えてください。頭わるいんですか? もうっ」

レティシアがふくれっつらで言う。しかしその声に敵対心はなさそうだ。

「んだとこの聖女気取りが! テメーはレスラーのほうが向いてっぞ! テメーの拳は鋼鉄か!? 鎖巻いて殴るとかヤベーやつだけだぞ!?」

「そ、その話はしないでくださいっ!!」

レティシアが耳まで真っ赤になってモジモジする。

そのせいでハルカはレティシアの背中から落ちてビターンと石の床に伸びた。

「阿呆がおるわ、阿呆が」

背中をしたたかに打ち付けてうずくまるハルカとモジモジするレティシアを交互に見て呆れるシルディア。

「誰かモンドを呼んで来い。あいつまた寝坊だな」

スコッティがハルカを助け起こしながら言う。

「なら、そろそろセシルさんも地下牢から出さないとですね」

レティシアが言う。

ーーセシルまた地下牢に入れられてんのかい。

「僕はここにいますよ」

当然のごとく、柱の影から登場するセシル。

ギョッとして飛び上がったのはイーディスだ。

「おどかすんじゃねーぞ! この陰気野郎! 黒カビみたいなツラしやがって!」

「陰気野郎はべつにいいですけど、黒カビはちょっと……」

ぶつぶつ言いながら、並んだ信者席のあいだをぬってスコッティに支えられながら立っているハルカのもとに来た。

そしてスコッティからハルカを取り上げる。

お姫様抱っこではなく、おんぶでもなく、肩に担がれる。

怪我人にこの扱いである。

ハルカは抗議しようとしたが、イマイチ状況が飲み込めていないのと、頭痛がするので諦めてセシルの肩にぶら下がる格好となった。

ハルカの扱いはともかくとして、見たところセシルに怪我はなさそうだ。

ハルカはイーディスたちに尻を向けた格好になり、入り口の扉が見えた。

するとその扉が開きーーーー

「ミイラ男!!!!」

ハルカが叫んだ。

松葉杖をつきながら、全身包帯の謎の人物がやって来た。

「モンドおせーぞチクショウ。また燃やされてーのか!?」

イーディスがすごんで、ミイラ男がひえっと小さく悲鳴をあげた。どうもこのミイラ男、モンドらしい。

「ヤケド治ったんじゃなかったの?」

「レディに失礼な話をして俺様に燃やされたんだよな、スコッティ」

「おいおい、そこで話をふらないでくれよ」

イーディスから同意を求められ、スコッティが困ったように言った。

モンドが注意深く距離をあけながら、その辺の信者席に座る。

「単になんで一人称が"俺"なのか聞いただけだろ? このなかで自分のことを俺様呼ばわりするのはイーディスだけじゃないか」

「テメー。まだ燃やされたいのか」

低いが、殺気のこもった声。本気だ。

「やめてください、やめてください。僕がまた回復魔導なんかで働かされるんですからー。次は僕が貴方のこと燃やしますよ? 僕攻撃呪文のほうが好きなんです」

言ったのはセシルだ。たぶん顔が笑ってるけど目が笑ってないやつ。

「もうっ! 誰も誰のことも燃やしませんっ! この砦にいるあいだ、そういうのは禁止っ!」

レティシアが怒って言った。

「炎の魔術を使ったモノは順次れてぃしあによる腹パンのち地下牢送りな。れてぃしあにはこの我特性のめりけんさっくなるものを渡しとくゆえ」

シルディアが気だるそうに物騒なことを言う。

「腹パンもしません!」

「はいはい。それじゃ、そろそろ本題といこうではないか、かつてエルフの友であったアリーニの子孫である聖騎士よ」

シルディアに言われ、リルが返事をした。

「そうね……まずはおのおのあらためて自己紹介といきましょう。しばらくは共同戦線を張る者同士。仲良くね」

声には"でないと聖騎士様がしょっぴくぞ"という含みがあった。


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