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鯉の「ウキ袋」は気持ちいい音がする。

パァーーーン

なんともいい音を立てて鯉の「ウキ袋」は割れるのである。紙鉄砲のあの音に近い。

伯母は築150年というが、実のところ築年数はよくわからない古民家をもうすぐ引き受ける。私の母の実家で明治時代に建てられたらしい。私がこの家で体験した事をもう一度できたらいいなと思っている。

夏休み、冬休み、春休みには両親と一緒に、また冒険の旅で一人でこの「おじいちゃん、おばあちゃんのお家」に行った。耳が遠いおじいちゃんと、お小遣いをこっそりくれるおばあちゃんと、優しい伯父伯母と、イトコと過ごすのはとても楽しいのであった。

この家は、旧塩山市、現甲州市の大菩薩峠に向かう中腹に立地している。近所に肉屋も魚屋もなく、買い出しに行かず食べ物としてあるのは敷地内で育てられたさまざまな野菜と、ゲージに飼われているニワトリが日々生む卵と、竹林の中で飼われている一匹のヤギから絞るミルクと、池で飼われている鯉であった。

おじいちゃんは、休みごとに来る娘とその婿と孫に、最大限の「食のおもてなし」をするのであるが、子供の私にとってはあまり嬉しくない「おもてなし」である。が、一つだけ楽しい事があった。

池から大きな黒い鯉をすくい上げ、池の脇にある井戸のところで鯉の頭に快心の一撃を食らわせた後、脳震盪でクラっとした鯉をおじいちゃんは見事にさばくのである。頭を落とされても鯉の口はパクパクと苦しそうに動く様は子供の私にとっては驚異。恐れおののいた。内臓と一緒にプリプリとした白い「ウキ袋」が取り出された後、きれいにおろされる。

私は鯉の身よりもこの「ウキ袋」が興味の対象であった。おじいちゃんがこの取り出した「ウキ袋」をぽんと放り出すと、私とイトコが争うようにその「ウキ袋」に突進して行く。どちらがこの「ウキ袋」を踏み潰す特権を得るかは、じゃんけんぽんで決める。勝った方は誇らしく思いっきり踏み潰す。思い切り良すぎて足の裏と頭がジーンとする。

パァーーーン

達成感と快感を得られる至福の時間である。ぺちゃんこになった「ウキ袋」はその後、ゲージにいるニワトリたちの餌としてあたえられる。因果応報、弱肉強食、SDGs、食品ロス撲滅大作戦である!(ニワトリたちのその後の運命も後に記述するつもり。)

生き物としての鯉はその日の夕方に「鯉のあらい」や「鯉こく」になって食卓にのぼる。子供の口には全く合わないご馳走であった。

現状、水がないこの池は松の枯れ木置き場になっている。もう一度水を引き込み、とりあえず「きんぎょ」を放つところから始めたいと思っている。

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