スパイシー・メモリー
給食の時間はずっと好きではなかった。
プラスチック箱入に入ったご飯は、なぜ毎回こんなにもぎっしり詰められているのだろうかとうんざりしたものだ。
お腹が弱かったせいで、毎日腹痛が襲ってこないことを祈りながら、ちびちびと食べる。
そんなふうだから、好きなおかずといえども、おかわりなんてまるで縁がなくて。
それでも、思わず鍋の前に並びたくなるほど好きだった「鶏肉のメキシコ煮」。
ピリッとしたトマト味と、異国感漂う香り。
あれはきっとチリパウダー。
一見彩りだと思われがちなコーンは、鶏肉に次ぐ主役といっても過言でないほどの存在感で。
普段あまり馴染みのないスパイシーな風味がまた、子どもの舌には新鮮だった。
小学校の給食にそれほど辛いものが出たとは思えないけれど、「辛いは美味しい」と教えてくれた。
それから数十年が経ったある日、無性に食べたくなったのである、メキシコ煮が。
字の如く、舌の記憶を頼りにとりあえず鍋に放り込んでみた。
鶏肉、トマト、ニンジン、タマネギ、コーン、ケチャップ、そしてチリパウダー。
「そうそう、これこれ!」
心の中で小躍りする。
案外それらしくなるものだ。
シンプルな料理だけれど、香辛料の風味とコーンの甘さが効いている。
なんだ、意外に簡単じゃないか。
そう思いながらふと気づかされる。
給食というのは手が込んでいるけれど、手をかけ過ぎてもいられない。
それでいて子どもに喜んで食べてもらえるもの。
これがなかなかに難易度が高い。
とはいうものの、未だ見ぬ地、メキシコの香りを拝借しながら、かつての昼餉は今やすっかりビールの相棒になっている。
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