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ちいさなまつり。

この街にはあちらこちらにお地蔵さまの祠がある。
手を合わせるほど熱心ではないけれど、なんとなく会釈をしてしまうのは、幼い頃に親しんだ癖だろうか。

夏休み、祖母の家に来るとかならずセットになっていたのが地蔵盆。
近所の住人たちが集まり、町内のお地蔵さまのまわりでちいさなお祭りをする。
大縄跳びほどの長さはありそうな大数珠を、子どもたちが輪になって繰る。
ひとつの珠が野球ボールほどある数珠は、右から左へと繰るたびに、その隙間に指を挟まれるのが嫌だった。

飾りつけされた公園には、紅白の幕や、子どもたちが思い思いの絵を描いた提灯が揺れる。
側にある喫茶店のご主人がいつもカレーを用意してくれた。
すこしだけ辛い、昔ながらの味。
最後はお菓子やおもちゃのお土産が付いて、地蔵盆はあの頃の自分にとって、わりと大きな夏のイベントだった。

ところが今や、子どもの数もめっきり少なくなり、世話をする大人も高齢化が進んで。
ここ数年、流行病の影響も追い打ちをかけ、かつての賑やかな祭りの風景はどこかへ消えてしまったようだ。

夏休みだけしか会えない友達。
そんな出会いの場も、だんだんと減っているのかもしれない。



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夏の思い出

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