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小説で描こうとするものの大きさに惹かれること――辻村深月さん「ハケンアニメ!」読書感想

ひとりの読み手として、どんな小説に惹かれるか、と聞かれれば『作者が「小説」という文学形態を使って、描き出そうとするモノが深くて広い作品』と答えたい。狭いところにエッジを立てて、独自の色で魅せる純文学的作品ももちろん魅力的だが、あくまで私は、広く深く、自らの小説畑を耕す作家を愛読する。

小説観といえばいいのだろうか。それが大きい作品に、惹かれる。それを言葉で表すのはすごく難しいのだけど、「小説」というものをどのようにとらえるか、によって、描けるサイズや深さは変わって来る。と個人的には思っている。

――ここまでが前置き。

久しぶりに、小説を読んで、泣くほどの気持ちになったので、記念にnoteに書いておこうと思った。

読んだのは、辻村深月さんの作品「ハケンアニメ!」だ。単行本で発売されたときから、おもしろそうだと思っていたが、図書館で二度ほど借りたが当時時間がなくて読み切れなくて、文庫をようやく買って、今日読んだ。

アニメ業界に関わる、三人の女性と、その女性とタッグをそれぞれに組む男性たちの物語。

過去に超話題作をヒットさせた天才アニメ監督、王子千晴に振り回されるプロデューサー、有科香屋子。鳴り物入りで発表した魔法少女アニメ「運命戦線リデルライト」の脚本がまだ三話までできていないのに、当の監督の王子が失踪してしまい、現場は大ピンチ。どうする――?という内容の「第一章 王子と猛獣使い」

若き女性アニメ監督、斎藤瞳は、自分が通した企画作品「サバク」の監督業をボロボロになりながらこなしている。その中で、最初は上手く付き合うことのできなかった、アイドル声優たちや、片腕のプロデューサーである行成とぶつかりながら、彼らの仕事へのプライドに気づき、尊重していくことに――今季アニメの頂点をとるのは、瞳の「サバク」か、はたまた王子の「運命戦線リデルライト」か?という内容の「第二章 女王様と風見鶏」

新潟県選永市にあるアニメ会社に所属するアニメーター、並澤和奈の描く原画は、どうやら一部のファンに「神原画」として称賛されているらしい。当の和奈は非常にオタク気質で、人とのかかわりも苦手。ところが和奈が斎藤瞳監督の「サバク」の原画を手掛けたことをきっかけに、選永市の市役所市職員、宗森と一緒に、選永市をモデル舞台とした「サバク」の聖地巡礼化プロジェクトのために奔走することになり――?という内容の「第三章 軍隊アリと公務員」

私は、第三章の途中で泣いてしまいましたよ。このところ、小説で泣くことはあまりなかったのですが、泣かせどころがあったわけではなく、辻村さんの「小説」に対する志に打たれました。彼女が「小説」を使って書こうとしていることの大きさに、泣いてしまいました。

辻村さんの小説観は、とても広くて大きい。男女の話であり、仕事の話であり、オタクとリア充の話であり、ひいては、どうやって地方都市の町興しをしていくか、の話につながり――ひとつひとつの章が、それぞれの主人公を主役に据えた話なのですが、全話にわたって、みんなが活躍してるんですよね。そして、広げた大風呂敷がきれいに畳まれていく。

そして、やっぱり。
アニメへの愛があるから、みんなこんなにプライド持って頑張れるんだよね。というメッセージが伝わるんですね、最後に。泣けるぜ。

「小説」をどういうものとしてそもそもとらえるか、っていうことを、私は「そのひとの小説の青写真」って勝手に呼んでいるんだけど、青写真がどれだけ魅力的か、で、小説の大きさは決まってくるんじゃないかなって思います。そして、その青写真を魅力的にするには、最終的には山ほど読んで山ほど好きな作家を見つけるしかないんだなって。

あー、いい本に出会ったなあ、って思える、最高の読書体験でした。この秋の大収穫です。







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