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【エッセイ】ゆずの唄とあのころの私

自分の好きなものについて語る、というのは、本当に難しいと思う。どんなに言葉を重ねても、正しく「どうして好きか」を言い表すのは、ひどく困難だ。書き連ねた言葉から、零れ落ちていってしまうものがたくさんあって、結果、上手く言えない自分にがっかりしてしまったりする。それでも今日は心の底からがんばって、かつ慎重に「わたしの好きな歌」について語りたい。

中学三年生のとき、ラジオ「ミュージックスクエア」をながら勉強しながら聞いていた私の耳に、ふいに軽快なギターの音が飛び込んできた。ゆずのデビューシングル「夏色」との初めての出会いだった。底抜けの歌声の明るさと、ちょっと凸凹な、でも耳に残るハーモニーに、思わず聞き入ってしまった。

思春期を通して、ゆずは私の心の中でいっとう大切な場所を占めていた。北川さんの使う歌詞のことばは、ありふれた日常を大切なものとして描いていて、その言葉使いに魅せられた。岩沢さんの書く曲は、孤独を浮かび上がらせるけど、それをあの澄んだ力強い美声で歌い上げられると、とても胸に迫るものがあった。

「くず星」や「境界線」など、岩沢さんの歌で大好きな曲もたくさんあるけれど、今日は北川さんの名曲「いつか」について、それと数年前に出された新しい曲「守ってあげたい」について語りたいと思う。

「いつか」を初めて聞いたのは、たしか15歳の冬だった。こんなに心の深いところに響く歌を聞いたのは、生きてきて初めてだった。あの頃は、上手く言語化できなかったけど、いつかの歌詞は、そのときの自分が心の底から「本当に誰かに言ってほしいこと」で、それをストレートに曲として耳にできることに、本当に、本当に、心を打たれたのだった。

もう記憶はさだかではないけど、何度か、曲を聞いて泣いていた気がする。私には、親だって友達だっていて、どこがそんなに寂しかったんだよと言われるかもしれないが、その頃の自分は本当に、この歌を、この歌に出てくる温もりを、しんから求めていたのだ。

今年話題になった漫画の、永田カビさんの「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」は、稀有な傑作だと個人的に思っていて、レビューを見ても、この漫画が響く人と、ぜんぜん響かない人の両者に分かれるようだけど、私は明らかに、心を打たれた前者なのである。

その漫画の中に「19歳のころ、レジの中からもう誰でもいい、1秒でも2秒でもいいから抱きしめてほしいと思っていた」というモノローグが出てきて、これは「いつか」を何度も何度も聞いていたあの頃の自分と、まったく同じ気持ちだと思って涙した。この感情を「メンヘラ」と一言で片づける人も、世の中にはたくさんいることも知っている。でも、その感情を感じている本人にとって、切実なものは本当に切実なのだ。

永田さんの「さびしすぎて~」は本当に、外れるひともいるかもしれないけど、大当たりの人もいるかもしれないから、ちょっとでも「ん?」ってひっかかった人は読んでいただけると良いと思う。

大人になり、現実の男の人ともいくらか知り合うようになり、結婚もして、男の人だってみんな、女の人だってそうなように完璧な人なんていないし、日々の生活でいっぱいいっぱいな中、簡単に「守ったり」「駆け付けたり」できないことは、もうよくわかっている。

それでも、北川さんが歌にこめた「守る」っていう思いに、私はどれだけ救われたかわからない。歌はすごい。歌詞と曲にこめられた「理想の愛情」が、本当に思春期の寂しかった私に、ずっと寄り添っていて、孤独を癒してくれたのだから。

数年前に出た「雨のち晴レルヤ」のB面である、「守ってあげたい」という曲は、一聴して「いつか」と世界観が似た歌詞だと思う。私はこの曲を聞いて、私が15歳のころからミュージックシーンの第一線をずっと走ってきたゆずなのに、北川さんなのに、その芯は本当に変わっていないんだ、と感じて、本当に嬉しかった。

ちょっとぶっきらぼうな歌い方とも感じられる「いつか」の頃から、声はさらに深く温かくなり、本当に聞いていると、声で包まれるような感じがする。タナダユキ監督のPVも、とても可愛らしく素晴らしい。

ゆずのことを、ずっと書きたいと思いながら、ためらっていたのは、自分の中に「あたたかいことを好きというのが、ものをつくる人間としてちょっとはずかしい、こそばゆい」という気持ちがあったからだった。

でも、もうそう思うのはやめようと思う。人の好みなんて千差万別だし、全員が好きな作品なんてありえない。私はそのことを、ここnoteという場で、改めて知った。自分が、温かい言葉や歌詞が好きなのならそれでいい。そうじゃない作品が好きな人のために、きっと誰か私ではないクリエイターの方が、素晴らしい作品をつくってくれるだろう。私は、私の書きたいこと、つくりたいことを、がんばっていきたい。

もう本当に、真夜中のラブレターそのもので、穴があったら入って埋まりたいくらいなのだけど、こんな長いものを読んでくださった方、どうもありがとうございます。ゆず、私も好きって方がいましたら、どうぞコメントしていってください♪

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