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2018年3月の記事一覧
【小説】春をいただく
三月の下旬、ようやく陽射しがぬくもってきた時分、私は息子を連れて港のほうへと歩いていた。さっきからうっすら匂ってきていた潮の香りが、ひとつ通りを裏道に入っただけで、いっそう濃くなった。あちらの家でも、こちらの家でも、軒先にイカや魚の干物が網をかけられて干してあり、独特の生臭い匂いが、漁師町の路地には染みついていた。
「ねえママ、ママったら! どこに行くの。どこまで行くのっ」
さっきから私が手を
【小説】rebirth
花や木が好きだ。可憐な色合い、澄んだ青い匂い。植物は、いつも私の心を和ませてくれる。仕事のない休日、実家の庭に出て、土をいじっている時間が、私にとってはいちばんの至福のときだ。——その反面、ひとは苦手なのだけど。
季節は六月で、今月の庭は薄紫と白を基調に染め上げられている。ラベンダーと紫陽花の紫、クチナシとカラーの純白。ペチュニアやインパチェンスが、そこにさらにこまかな彩りを添える。
寄せ植え