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告白水平線|ショートショート

「ねぇ、恋って水に溶けると思う?」
僕の質問は、ラムネのビー玉が沈む音にかき消された。瓶から泡が吹き出す。

「わぁー、すごい!」
彼女は滝のように流れる白い泡を見て、手を叩いて喜んだ。海の家のおじさんは、瓶を手早く拭いてから渡してくれた。さっきまで氷水に浸かっていた瓶の冷たさが心地よい。

「さっき何か言った?」
彼女は砂浜を歩きながら訊いた。
僕は慌てて口の中のラムネを飲み込む。喉に炭酸の刺激が広がった。
「えっとね、ラムネって恋の味がすると思わない?」
「何? CMのセリフ?」
「いや、印象の話」
彼女は「ふーん」と言ってまたラムネを一口飲む。ビー玉がガラスに当たる涼やかな音が聞こえてきた。

だってほら、現に君と僕はこうやってラムネを飲んでるし。
僕の言葉は喉の奥で炭酸とともに弾けて消えた。

「どっちかって言うと、夏の味かな」
「そっか。そうだね」

水平線に沈む太陽が、僕たちを照らす。
僕の告白の言葉は、海へと溶け出し、大海原に消えた。

(409文字)

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