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十二月の星々(140字小説コンテスト第3期)応募作 part3

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

月ごとに定められた文字を使った140字小説コンテスト。

今月の文字は「調」。

12月31日までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去のコンテストなどは下記をご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローいただくと更新のお知らせが通知されます。

応募作(12月13日〜19日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

12月19日

れん(サイトからの投稿)
僕への瞳が潤んでいたのはずっと感じていた。それにどう答えようか考えると顔が熱くなった。だから僕は真冬のコンクリートの柱に額を付けた。冷やして明確になる。ああこれが相愛なんだ…生前父がよく酔っ払って放っていたセリフ。二人飲みの時、調子に乗って父の真似をすると、母は更に赤くなった。

兎野しっぽ @sippo_usagino
クラスに必ず一人はいるお調子者。くだらない冗談を言ってみんなを笑わせ、バカバカしい踊りで和ませる。まるでピエロだ。自ら進んで道化になるなんて、恥ずかしくないのだろうか。
「笑われるより先に、僕が笑わせてやってるだけさ」
半年前に転校してきたばかりのピエロは、そう皮肉げに笑っていた。

御二兎レシロ @hakushi_tsutan
「次は火星を調べに行くんだってな」そう声を掛けた俺に「おう、お前も頑張れよ」と友人は笑った。今や掃いて捨てるほどいる宇宙探査士の中でも彼は花形で、俺はその逆だ。そして今回きっと差はさらに広がるだろう。現在最も文明の痕跡が見込まれる火星に対し、俺の派遣先は期待ゼロの地球なのだから。

畔出みるひ @kuro1deMilch
今回も性選択はエラー。また掃除機が静かになってる!「coldsleep, coldsleep」母の子守唄も、内腿の吸汁痕もエピソード。なのに部屋を循環する数十億人は、お尻を撫であって隠蔽しようとする。もう何度も死にましたよ。次はいつか調べはついてる。でも私が誰なのかは、目が覚めてみないとわからない。

いえろー @86001yellow
後輩君はかわいい。甘えるところと引くところ。天性のバランス感覚。「どうしました?」今もコーヒーを配って回っている。「君くらい世渡り上手だったらな」「僕、世渡り上手ですか?」彼は丸い目で「僕はただ先輩が好きなだけで他はおまけです」「調子のいい」「照れてます?」「うるさい」頬が熱い。

酒部朔 @saku_sakabe
寝ていると知らないおじさんに怒鳴られる病気。先生は入眠時幻覚と言った。いい幻覚もあった。異国の少女が故郷のうたを歌って聴かせてくれる。高い低い声で。どうにかして話せないものか。しかしその調べで眠ってしまう。彼女の三つ編みはいつも灯油でぐっしょり濡れて先のほうは燃えていた。

クララ @clrbluerose
午後の部屋には柔らかな光が入った。戯れる音。黒鍵と白鍵の追いかけっこ。隅の椅子で耳を傾ける。振り返った彼が言う。調律は定期検診でもご機嫌とりでもない。漂う想いが求める形を手助けすること。だから僕の想いも聴いてもらえますか?その日、彼の指先が紡ぎ出す音が愛という言葉を教えてくれた。

クララ @clrbluerose
丘から見た初めての街に心掻き立てられる。遠く峰々の色、風の調べ、かすかに届く喧騒。足元の石畳の感触さえも。呼んでいるのはだあれ。待っているのはなあに。住んでそれを知ろうと思った。でも求めるものが見つからなくたっていい。探し続けることがきっと生きていくことなんだって胸が震えたから。

モサク @mosaku_kansui
ひさしぶりにペンをとります。私は言葉を慈しむ旅を続けています。地図はなく子の星だけがたよりです。私の歩調は緩慢でたびたび止まってしまうけれど悲しくはありません。先人がつけた道を行くのも荒れた小道に分け入るのも幸せだから。小瓶に詰めた美しい欠片をいつか届けますね。笑顔のあなたへ。

橘しのぶ(ジョバンニ) @kirainarasatte
関所で足止めをくらった。身辺調査されるらしい。男は玉ねぎの皮を剝くように、私の衣服を上から順に剥がした。素裸になったら皮膚を剥がし内臓を抉り出した。その時、黒猫が一匹、蜜のように私から溶け出し、赤い肉片を咥えて走り去った。男のどまんなかに穴が空いている。焼跡の匂いがする。

藤色ぺんぎん @penpen_329
映画を見ていると、ねぇ今の「沈丁花」ってどんな花?と彼女が聞いてくる。調べた画像を見せると、ほー、とまた映画の中に入り込む。その後も何度か質問されて、答えて、気付くと映画が終わっていた。面白かったね!と笑顔で言われたから、調べ屋さんは忙しかったよ、と笑って答えた。楽しかったなあ

旅人 。 @ryoi44
鯨の調べは天井の海から降ってくる。海にまで届く樹の天辺で少年は鈴の音を聞いた。逆さまの海にぶら下がる鈴の連なりは、荒波に揺られ、激しく鳴り響いている。彼は声を上げたが、響く唸りに掻き消された。樹上の村が震えるほどのそれは鯨の歌だった。硬直した少年は、海面から覗く巨大な目を見た。

たつきち @TatsukichiNo3
彼女は「調べる」が苦手。ネット検索はワードが足りず、辞書はいつも見当違いの辞書を持ってくる。そしてすぐ「わからない」と怒る。自分をわからないままにさせておく世界に向かって怒る。そんな彼女につく溜息を隠しながら、僕はそっと彼女に調べた結果を伝えてしまう。よくないことだと思いながら。

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
幸福の夢を授けるとして名高い調香師のもと、場違いに質素な身なりの女は通い詰めた。
彼女には香だけが救いだった。
医者に匙を投げられた恋人の枕元に日々かかさず香を献げ続ける。彼の醒めない夢が幸せである為に。
半分を暗い自室の枕元で焚く。
いつか二人同じ夢の思い出を語り合えるなら、天国。

いまえだななこ @na2na1ko6
ぴしりという音に、ジャックは巨体を震わせた。「大丈夫、ほら薪が爆ぜただけさ。怖くないよ」宥める僕の右手に彼の怯えが伝わる。
『ライオンは調教中にサーカスを脱走し、現在も行方が分かっておらず……』
僕はテレビを消した。
暖炉の前、彼の震えが止まるまで、その黄金のたてがみを撫で続ける。

ゆき @HoneyDippeR6324
降る雪と都会のビル風に震える若き娘の頭上にカサを差し出した。だが彼女は不審そうにその場から立ち去ってしまった。体調を心配しただけなのだがスーツ姿の私がナンパをしたと思われたのだろうか?
まあいい。自分で使えばいいだけ。そう思った時幼児が私を指差し叫んだ。
「かさじぞうのやつだ!」

12月18日

のび。 @meganesense1
お気に入りの公園に寂しさ調査団がやってきた。お揃いの青い制服を着て、ノートを書いたりマイクで音を聞いたりしている。思い切って「ここの寂しさはどうですか?」と聞くと「かなり良いです」と答えた。調査団が去った後、私はいつものように読書をした。ときどき鳥の声がして風が静かに吹いていた。

石森みさお @330_ishimori
布団に忍び込んできた夜空がふるえていた。今夜は寒くて、と一枚しかない毛布にくるまる。ほしけりゃ星の一つも光らせろとつついたら部屋が銀河に染まった。かじかんで調節がきかないんだ、星が爆ぜれば温まるんだけど、と夜空は脅しめいた台詞を口にする。その手足は冷たくて、しょうがないなと思う。

緋芭まりあ @A_Mary_geha
「調べたいんです!」周囲の反対を押し切り、真剣な面持ちで自身のルーツだとされる備前国から戸籍謄本を取り寄せた。いやいやだからと言って、いくらなんでも桃から産まれた桃太郎の末裔だなんて虚言癖すぎるだろう。嘲笑しながら辿った先に記されていたのは──まさかの「××」という二文字だった。

ナヲコ @nawoko140
尺取り虫が上っていく。枯れ枝の表面を丹念に調べるように、等間隔で尺を取る。動きを止め、辺りを見回すように頭を持ち上げる。体の上半分が枝から離れる。風。宙に浮いたままの上体をしならせ、足の吸盤ひとつひとつに力をこめて風に抗う。ふいに枝が折れ、尺取り虫は枝ごと回りながら落ちていった。

夏見有 @you_natsumi
たまに足と足をぶつけあいながら、君とこたつでテレビを見る。金持ちの家には高級なシャンデリアや家具。紹介される調度品はまさに別世界のものだった。ちらりと横を見やる。
「すごいけど、これが当たり前になっちゃったら、いやだな」
いつの間にか胸に沈んでいた澱が、すっと晴れたような気がした。

械冬弱虫 @Wimpy_keter
好きな人の前では良い格好がしたい。それって生きとし生けるものの宿命なんだと思う。調理実習の時、あなたの前で醜態を晒した。私は全く包丁が握れなくて、他の子が手際良く具材を切っていくのを見てるだけ。あなたの奥さんになるためには料理もできなきゃいけないのに。あー悔しいな。揺らいでる。

高羽志雨 @hirotan165
隠し味に何を使ってるか、わかるかって。何だよ、急に。ルームシェア始めてから月一でカレー作るくせに、今日だけ味つけが違うってのか。おもしろい調味料でも見つけたか。ナンプラーとかか。違うのか。えっ、愛情…。お前も俺も男だぞ。あー、まあ俺もお前のことが、な。

羅央 @rao_gaogao
雑音だらけのこの街で、美しい音色を奏でるには、僕1人では叶わない。どう足掻いても、単調であることに変わりないし、変化を伴わなければそのこと全てが無となる。いや、 違う。音は単調でも美しいはずだ。人々の心を打つ音色が僕には必ず出せる。なぜならこの手の中には、希望の光があるのだから。

鈴木林 @rinhayashi_tw
派手な衣装をまとった調教師が、街にひとりで現れた。語るのは自分の失敗について。動物に言葉を教え込んだら、不満や条件を彼らは並べたて、クラウドファンディングで資金を募るとさっさと退団してしまった。最後に去った熊との握手で、彼女の爪が少しひっかかった。その傷跡だよと擦れた肌を見せる。

冨原睦菜 @kachirinfactory
『遅くなりましたが、やっと配達許可が出たのでお届けします』そんな手紙と一緒にクリスマスの朝に届いた美しい瓶。『成分無調整』のラベル。薄衣風のオーロラが煌めく中身がちゃぷんと揺れる。どうやら「サんタさんとおんなじぎゆうにゆウがノみたい」と子どもの頃に書いたお願いが今、叶ったようだ。

白猫 @neconeco70321
「こっちだ」。懐かしい声に導かれ、裏山を登る。黒い海が見え、波の音がする。波の音は大勢の人の声に変わり、暗い唸りとなって押し寄せる。記憶が立ち上がる。あの日、海に消えた命。消えた、人生。幾万もの、無念の調べ。「ご覧」。暗い唸りは会いたい人の形を取った。手を伸ばすと、スッと消えた。

酒匂晴比古 @sakoh_haruhiko
「これは春の調べ」やわらかな風が頬をなでる。「夏の調べ」は目映い日の光、真っ黒な影、蝉たちの大合唱。「秋の調べ」が景色を鮮やかに彩ったかと思うと、気がついたときには、辺りは白一色の「冬の調べ」に変わっていた。ぼくはどうやら、季節を巡る夢の調べの中にいたみたいだ。一本の樹木の前で。

七夕ねむり @nemuri_sleep
白黒の鍵盤の上で、踊る調べが好きだった。君の隣で音に沈んでいる時間がこの世で一番幸福だった。そう、昨日までは。放課後、扉一枚を隔てて流れ込む静かで落ち着いた調べ。私はまるで立ち入り禁止テープの前に居るみたいに動けない。指先から紡がれる音は今日変わった。君は、恋を知ってしまった。

橘しのぶ(ジョバンニ) @kirainarasatte
てんてんてんまり、てのひらから落っこちた。ころころころがったオノマトぺの森。ジンタの調べ流れて、油絵の具の壜が毀れた。彩色された言葉は、枯葉になり、雪片に変わる。瑕だらけの毬。言いなりに歪んでもう毬じゃない。余白に血が滲んでさざんかの花が咲く。

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
凛と彫刻されていくような冷たい冬の空気、意地悪な雲が垂れてきて、毛糸の帽子を落とす。吐く息は白猫になり、老犬が壊れた人形のようにギイギイ鳴いたかと思えば、冬に桜が咲く。予定調和とは無縁の人生は非常に楽しい。予定を立てる事は中々難しいが、命のまま今この瞬間を楽しんで生きられている。

三日月 月洞 @7c7iBljTGclo9NE
との曇る夜に出会った女が、
「貴方は、命を助けた事を後悔した事はありますか」
と、静かに俺に尋ねた。
「レスキューは天職だ。後悔した事など無い」
「私は、あります」
女は、医師だった。かつて連続殺人犯の手術を請け負ったそうだ。
俺が何も聞かず手を離すと、穏やかな声調で女が最期に歌った。

藤瀬喜一 @ki1_11_
調子はどうだい、と囁く。僕はそれなりだよ、と答える。ただの自問自答で、寝る前にする儀式みたいなものだった。調子はどうだい、と明日の僕に聞いてみる。調子はどうだい、まだ生きてるかい。今の僕は生きてるけど、明日の僕は生きてるのかな。それなりだよ、と答えてくれる明日を、僕は待っている。

りみっと(サイトからの投稿)
調子っ外れの歌声がラジオから聞こえてきた。『カラオケ下手くそチャンピオン』とかいうコーナーらしい。それにしても下手すぎて笑える!チャンピオンは誰になるか、気になってそのまま聴いていた。俺の好きな歌のイントロが流れ、ノリノリ絶好調で歌う俺の声が流れてきた。録音した奴、調べてやる!

矢口 てる @yaguteruss
あのなあ…ちゃんと調べろって、いつも言ってるだろ。あの子の家は、右か?左か?よし、右の道だな。このまま進んでもいいのか?だからさ…曲がる時は早めに言ってくれよ。俺は急には曲がれないんだってば。手綱を握ってるのは君なんだぞ。
…ここだけの話、師走のトナカイは口が悪い。

12月17日

梅吉 @tmk2bay
「ねぇ、歩くの速いよ。待って。」私は数メートル先をどんどん進んでいく彼に呼びかけた。慣れないヒールで靴擦れができている気がする。掴まらせてと頼んだら、渋々腕を貸してくれた。以前は隣を歩いてくれたが、今は歩調を合わせようともしない。もう戻れないんだな。踵の痛みとともにそう思った。

にちと @soudasa92chi10
あの建物では、不思議なことが起こると聞く。調査すべく、気を引き締めて身支度する。現金2万円のみが入った財布を懐にしまい、出掛ける。噂の建物に入り、つぶさに観察する。2時間ほど滞在し、帰宅後、財布の中身を検める。そこには2万2500円ある。不思議だ。また調査に赴こう。【行くのは程々に】

藍沢 空 @sky_indigoblau
「おやすみなさい」と扉を閉めた。まさかあれが最後になるなんて…気がつけば高い所から、街を見下ろしていた。あれ?なんでこんな所に?そうだ、タイムスリップして帰れなくなったのだ。帰り方を調べているうちに月日は流れ、愛する人もできた。もうここで生きていこう。そう思った瞬間、扉が開いた。

酒匂晴比古 @sakoh_haruhiko
取調室は清潔だった。塵一つ落ちていなかった。煙草臭くもない。そう、煙草臭くない。灰皿もなければ、机すらない。やがて目の前の壁が明るくなって、人の姿が現れた。「昨日は眠れたかな。まずは住所と氏名、生年月日の確認から始めようか」イケボのAIが喋るのを、俺は諦めにも似た気持ちで眺めた。

峰庭梟 @sss_books
地球滅亡の危機を救うため、ある調査会社が人類に二つのプランを提示しました。「プランAの成功率は51%、プランBの成功率は49%です」人々は当然、プランAの方を支持しました。プランAの方が高い成功率ですから。その結果、地球は滅亡したのです。プランAは、失敗する確率だって49%もあったのですから。

朝本箍(サイトからの投稿)
打ち棄てられた学校は樹々に侵食され、映画のワンシーンになっていた。グランドピアノが主役らしくホールの中心に佇む。君の声はソだった。私の声はシ。触れた鍵盤は歪んだ音で感傷に応える。おかえりを奏でたつもりなのに、最後の調律からどれだけの時間が経ったのか、ピアノはさよならと別れを歌う。

MEGANE @MEGANE80418606
クリスマスの調べにのせて、私はあなたの心臓を撃ち抜く。特別に美しくも、可愛くもない私の武器は愛嬌ひとつ。放課後の教室で、男友達と「あの子の笑った時のえくぼが好きだな」って言ってたの、こっそり聞いてたの。まるで映画のスパイ役になったみたいでドキドキしたわ。必ず撃ち抜いてみせるわよ。

峰庭梟 @sss_books
「世界を音で表現したい」とある音楽家は言いました。それを聞いた人々は、彼の新曲を期待して待っていたのです。新曲披露の日。ピアノの前に座った男は、一つの音を鳴らしました。何度も何度も、単調なリズムで。やがて人々は怒って帰ってしまいました。みんな、もっと複雑な何かを求めていたのです。

みぃ @utubyoutoikiru
猫のヒゲのような花が咲いている、茎には猫の耳が、バラのトゲのように点々とついている。トゲに触るとふさふさと柔らかく、傷ひとつつけなかった。花に鼻をつけて匂いを吸うと安心した。辞書で調べると、「猫バラ 猫吸いのしすぎは中毒になりやすい」と書かれていた。その時飼い猫がニャアと鳴いた。

酒部朔 @saku_sakabe
つらら。つらら。水滴落ちて妙なる調べ。学校帰りの子供が垂れる水に舌を伸ばす。あぶないよ、屋根の雪が落ちるよ。おかえりよ。こどもはあわてて帰ってゆく。水滴はまた氷の穴に落ちる。水琴窟のように響く音。わたしはまた目を閉じて耳を澄ます。わたしは北北西の風、今はここに漂うもの。

酒部朔 @saku_sakabe
冬の日は短調。歌は低く、雲が澱んで光無く、吹きつける雪の暗さ。震えて帰るとあなたが伸びあがって電球を変えるような仕草で雲を掴んでいる。なにしてるの。太陽を磨こうと思って。太陽は熱いよ。そんなことない、いまは冷たいのよ、ほらこんなふうに。手を開くと煤のついた太陽が小さく跳ねていた。

イマムラ・コー @imamura_ko
「さあ、調教してあげるわ」
彼女が妖しげな目で僕を見つめてくる。それだけで僕は興奮してしまう。全裸で四つん這いになった僕の尻から背中にかけてを指で愛撫してくる彼女。僕はもう限界に達しそうだ。
「鞭で、鞭でしばいて下さい」
そう言いたいけどレースでそれをやるのは男性騎手だった。残念。

若林明良(サイトからの投稿)
租庸調、そようちょう。今日社会で習ったんだ。ゴロがいいのでずっと口ずさんでしまう。「そようちょう、そようちょう…」「なんだよお前さっきからそればっかりキモいな」調は繊維製品なんだって。「そようちょう、そようちょう…」木綿のハンカチのような紋白蝶が僕の口から出て窓から飛んでいった。

若林明良(サイトからの投稿)
モーツァルト作曲サルティの歌劇「二人が争えば三人目が得をする」のミンゴーネのアリア「子羊のように」による8つの変奏曲イ長調K.460。二人の女が俺を巡り争っている。俺はピアノ室に避難し子羊のように震えている。やがて野の乙女と愛の交歓をする羊飼いの構想が湧き、五線譜に筆を走らせた。

このおわ(サイトからの投稿)
頭に機械を取り付けられた女と2人きりで、互いに裸だった。
機械を調べたが、なぜか外さない。
俺は襲った。機械で顔が見えないからか、躊躇なくできた。女は急に触られたため逃げ回ったが、なんとか取り押さえた。
やり終えると、機械のロックが外れて顔が見えるようになった。
それは姉だった。

藤色ぺんぎん @penpen_329
調理実習の時間が苦手だった。人とご飯を食べるのが苦手なのだ。でも、料理を作るのは好きだった。一流ホテルの料理人になりたくて、調理師の免許が取れる学校に進んだ。僕は壁にぶつかった。調理実習だ。一緒に作った料理を食べなくてはならなかった。僕は今、ホテルマンだ。フロントで働いている。

藤色ぺんぎん @penpen_329
母が入院して、10年振りに実家に帰った。着替えを鞄に詰め込み、病院へ戻ろうとした時、ふとピアノに目が止まった。小さい頃ねだって買ってもらったアップライトピアノ。母は弾かないはずなのに、埃ひとつない。調律もされていた。病院の帰り、本屋に寄り、母の好きな「ハナミズキ」の楽譜を買った。

春島傑郎 @KeturoHarushima
またキーが変わる。
転調の多い曲は好きだ。
君に誘われて脱サラ、しばらく苦労したけど、軌道に乗ってからは楽しかったなぁ。
そうと思えば、また違うことを始めて付き合わされたもんだ。
明日の葬儀にはこの曲をかけよう。
コロコロ変わる君にピッタリだろう。

12月16日

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
夕陽が赤く斜めに苔の野原に注ぎ、すすきはみんな白い火のように揺れた。お調子者の影は3本の青い陽が降り注ぐ緑青の森へと逃げる。追いかける誰かは疲れはて野原に座りこんでしまう。すると風の音が段々と人の言葉に聞こえてきた。「夜明けまで待ってみなさい。影は1日で死に生まれるのだから。」

森林みどり @midorimidori53
私は静けさを好む。静かに本を読んだり、何か書いたり、考えたり。静かな声で人生に起きる色々な出来事や、今日見た素敵な景色について語り合ったりしたい。静けさを好む友だちと一緒にソファーに座って、静かに時を過ごしたい。静かに互いの中にある愛について調べたい。

いえろー @86001yellow
死んだ母さんは言った。自分より優れた相手を慕うこと。これが大切だと。移動式のとんがり屋根、火の輪をくぐるのが仕事。白いたてがみのライオンは珍しいせいで、他の連中より鞭を振るわれる回数が多い。調教と言うらしい。自分より優れた相手を慕うこと。しなる鞭をかわし、人間とやらに噛みついた。

今村スイ @tsuduru_0716
あの頃は優しさが何かなんてわかっていなかった。大学の講義で聞き逃した箇所を同級生に聞いて回った際、わざわざ図書館で調べて来てくれた君を今時変わっていると思うくらいには。当の本人から片手に収まる端末越しに別れを告げられて考える。あの頃の私には本当に、優しさが何かわかっていなかった。

羅央 @rao_gaogao
ある老人が語り始めた。「人は悪いことをすると地獄に行くよ。そこは真っ暗で音がなく、無の世界になる。1人ぼっちでいなきゃならない」僕は泣きそうになり答える。「嫌だ、暗いとこ怖い。1人ぼっちは怖い」老人は頷き囁くように語りかける。「ならば歩調をあわせるんだ。生きとし生けるもの全てと」

もとし @motobaritone
去年の私ならとっくに諦めているような事。今年なら出来そうな気がして。歯を食いしばってやるなんてカッコ悪いって理由探して言い訳して。違うんだ。可能性を信じたいんだよ。調子が良くても悪くても、やり切った書き切ったと胸を張って言えるように。自分に嘘はつきたくない。物語を書き続けるんだ。

四藤良介 @zTQNFLMWQLRnf35
背中と背中がぴたりと合うまであと少しだろう。互いの距離は中心にある温かい部分の発熱温度でわかる。色々話したいことがある。だけどそれ以上に話を聞かせてほしい。その声を。元々ひとつだったかのように過去と今が結合してゆく。持ち物全てを調合して新しい未来を作ったら悲しいけどまた離れる。

四藤良介 @zTQNFLMWQLRnf35
気がつくと5時間が経過している。熱かった珈琲もとっくに冷えきっている。空調が効いていないのだろうか、革靴の中の爪先を動かすが感覚がない。私は一体何をしているのだろう。何かを待っているのか、それとも独りでいたいのか、珈琲が揺れた気がした。その小さなブラックホールに人差し指を入れる。

きり。 @kotonohanooto_
きみを失ってから目がおかしくなった。視界やピントじゃない、色調だ。全体はグレーがかって見えるのに、唯一、赤だけが鮮明になった。
きみがよく着ていたセーター。口づけを交わしたあとの唇。いつか読んでいた本のカバー。
この呪いはいつ解けるのだろう。それとも、ぼくの血とともに、永遠に…、

12月15日

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
「こりゃ、ほったらかし過ぎたな」地球各所の音の響きを聴いている者がいる。突然肌がえぐられた、汗っかきになった、そんな自然の声に「だいぶ狂っているようだ。特にヒト科がやってるな」と呟いて「それじゃあ始めますか」とハンマーを取り出す。その者のネームプレートには『調律師 神』とあった。

明里水也 @m_iya_o
狂った調律の歌を響かせ、咲いた花を散らす。舞い上がる白花に夜空が染まってしまいそうだ。ねえ待って。どこまで行くの。どこだっていい。僕らがふたりでいられるのなら。花が舞う。星のない夜に月もなく、ただ散った花がさやさやと光っていた。僕らはどこまで行けるだろう。崩れた旋律に指を絡めた。

茅場 秋仁(サイトからの投稿)
「やーいチビ。ずっとそのままだぞ」と友達に笑われる。
その夜、身長が伸びるようにはどうしたらいいですかと調べサイトに投稿した。
数日後、回答が幾つか並ぶ。見ていると新着が1件。「ごめんなさい。言い過ぎました」と書き込みがあった。始めてのベストアンサーは、仲直りの言葉だった。

れん(サイトからの投稿)
歩いているうちにこの橋に来た。向こうの車のライトが米粒のように見える。仕事で凹んだ僕は涙をごまかすために、いかにも流行っている曲のようにデタラメなリズムの口笛を吹く。お隣さんはリズムに合わせ肩を揺らし、そのうち弾むような口調で、帰って死ぬほど飲もうと腕を絡ませる。僕は二回頷く。

花森ちと @sugurio_o
わたし? 誰にも言えなかったけれど、わたしの故郷も毒に晒された春の街。それは屍体の埋まる櫻の木陰よ。あなたは浸らない梅の香り。それでもわたしは透き通って死んでみたい。穢れたこの身では叶わないけど、あなたの澄んだ吐息の調べで溶けてしまいたいの。
それで、あなたはわたしをどうする?

MOTOM(サイトからの投稿)
「もう二度と君とは口をきかない」
あ、また始まった。彼女は些細なコトですぐ腹を立てる。指輪のサイズなんて、すぐ太って合わなくなる。少し緩くて丁度だと言ったのだが、微妙な調整を主張する。世界には貧困で苦しんだり、電気を止められた国だってある。
「誓いも、神や仏やアッラーは嫌だわ」

よつ葉 @Kleeblatt3939
八月は鎮魂の月だと母に教わりました。陽と陰ははっきりと分かれているのに境目が曖昧になった彼岸から彼らが此岸へやって来る。生者と死者の見分け方を調べてもわからず困っていると母が「気を確かに持つのよ」と言いました。そうだ。母はもういない。少し正気に戻って、私は母から背を向けました。

よつ葉 @Kleeblatt3939
人と成る桜言祝ぐ東風が吹く
成人した私に父が分厚い歳時記と共に一句を贈ってくれた。成人した娘に祝いの言葉を述べたら東風が吹いたということか。桜の精のようであった娘が地に足の着いた人にようやくなりましたという喜びの気持ちか。私は贈られた歳時記でさっそく自分の名前を調べ始めた。

畔出みるひ @kuro1deMilch
強風につきジェニファーは店内です。「あたたかな家族の食卓」で包んであります。悪になりきれないアルソミトラが浮かんだり沈んだり、鍋底?キノコのお尻も全種類在庫有り。あかねさす1分待ってからよく責め苛んだら入れ替え完了。噛み砕けば溢れるさみしさ!もちろん完全調理済みの死に物狂いです!

.kom(サイトからの投稿)
今は、どんな情報だってちょっと検索すれば色んな事が調べられる。本当は知りたくないような情報さえも。
でも、本当に知りたい事、知りたい情報は何処にも載っていない。
それは、君の気持ち、僕の気持ち。
きっとふたりで見付けていくしか、知る事は出来ない。と思いながら、自信ないな〜。

畔出みるひ @kuro1deMilch
風が噂する三色すみれ。「耳、落としちゃって」 あしたあさってしあさってぜんぶ落書き。0.3ミリの『調査報告』も事象の外側へ聞き流して、キッチン。おとついのパンがバキバキで、手こずったチュロス、なぜホルモン?つついてる君の親指の傷。「ワタムシって言うんよ」 微笑んでいる。とりあえず。

いえろー @86001yellow
会社の空調が壊れた。「何故この寒い日に」「ストライキですかね?一年中稼働させられっぱなしなのに暑い寒いと文句つけられて」「辛いのは人間だけじゃないのか」「辛いんですか?」後輩君に顔を覗き込まれ、軽く頭を振った。「寒いだけ」「じゃあぎゅーしてあげます」断る間もなく、後輩君の腕の中。

土屋日茉莉(サイトからの投稿)
メトロノームが一人ひとりに備えられているような歩調の合った交信を駅前で眺める。丁度、日が昇って降りるのを3回しっかりと行われたのを確認してから私も目の前の行進に入っていく。
しかし進むことができない。人間の大群は天敵が入ってきたみたいに身構えて、私は入っては追い出された。

たつきち @TatsukichiNo3
キミの作った楽器はなんともトンチキな音を奏でるんだな。調子が合っているのか外れているのかもわからない。でも、聞いていると何だか笑いたくなって幸せな気持ちになる。え?人を幸せにする楽器?なるほど、この少しばかり調子の外れたメロディも人を幸せにするのかい?確かにそうかもしれないなぁ。

12月14日

矢口 てる @yaguteruss
「大丈夫です。」彼女はいつも短く答える。買物中に袋は要るかと聞かれても、何か飲むかと聞かれても、ただ一言「大丈夫」。その答えでは「結局どっちだよ!」と突っ込まれるだけなのだが、彼女にとっては大きな進歩だ。天の邪鬼歴が長かった故に、ノーばかりの答えをイエスに変える調整中なのだから。

本田臨 @ayakobooklog
「ふえん、ね…?」
「フェンネルシード」
「これ知ってる、イオウ!」
「鬱金!」
カレーの匂いの中で、彼は楽しそうに私にスパイスを教えた。
「辛さはカイエンペッパーで調える」
「つまり胡椒?」
「違う」
何度言われても覚えられなかった。だって、いつまでも彼が作ってくれると信じていたから。

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
遠足当日の朝、体調は崩れきっていた。目を覚ますと顔が腫れぼったくて瞼は重かった。
額にあてがわれた母の手が冷たくて心地よい。作りかけのお弁当箱の蓋はそのままに、水筒がわりの水枕。
布団から見上げる窓の空は青く、耳元で囁く水の音。どことなく非日常な天井を眺めていると遠足気分になれた。

羅央 @rao_gaogao
君の心の孤独と、僕の魂の乾きが程よく調和され、互いに惹かれ合うのにそう時間はかからなかった。共に歩むその時間は、光をただ求め続け迷い移ろい絶望しながら、それでも前へと歩みを進め、やがて希望へ辿り着く。影があるから光が眩い。柔らかで優しく温かいその光の中で、これからのSTORYが始まる

芳水柚木 @sleeping_dew
鍵盤の上を美しい指が踊る。亡き王女のためのパヴァーヌ。その調べが、橙と青の混ざった光のなかへ溶けていく。「僕の名前は母がつけてくれたんだ。ピアノが好きで、僕にも教えてくれた」弾き終えると、彼はそう言ってそっと微笑んだ。暖房の切られた音楽室に、コートを着たまま座っている。16歳の冬。

トガシ @Togashi_Design
いつもと違う道を歩いた。いつもと違うコンビニに寄った。いつもと違うカフェに入った。いつもより携帯電話の電源を切る時間を長くした。いつもより1時間、夜更かしの時間を減らした。いつもより1時間、起きる時間を早くした。いつもより大きな声で「おはよう!」と言った。単調な毎日から抜け出せた。

雪菜冷 @setsuna_rei_
正月は毎年祖父母の家で餅つきをする。幼い頃は一緒についたが今は見るだけだ。老いた祖父もこの日は腕まくりして杵を持つ。合いの手を打つ祖母。トン、サッ、トン、サッ。隙のないやり取り。私は彼らの若かりし日を思う。乱れた調子から始まり徐々に息が合い今へ至る長い道のり。私はカメラを構えた。

東方 健太郎 @thethomas3
それは、音楽性の違いだよ。彼の言葉が頭から離れない。或いは、彼は私の中で、まだ生きているのかもしれない。八月の晴れた日曜日、彼は星になった。ニ短調で奏でることが、せめてもの償いに思えたから、私は彼に対する餞の音楽を作り、それからずっと奏で続けている。ある夜、その調性を星と知った。

せらひかり @hswelt
蜜蜂は最近外勤になった。これまでは屋内清掃担当でどこにもいけなかったので、天気の良い日に仕事をサボった。巣には調整のつかない仕事などなく、他の仲間もたまにそうしている。青空の下でむやみに花びらの影で昼寝をするのは、光がちらちらして眩しくて愉快だった。忙しなく足長蜂が飛んでいった。

碧乃そら @hane_ao22
幼い頃の弟はお調子者で、落ち着きのない子だった。窓ガラスを割ったり校長室に忍び込んだり。母親を早くに亡くし、父親は多忙。学校から呼び出され、迎えに行くのはいつも私だった。帰ってきた弟が、フリージアとかすみ草の花束を差し出す。「姉ちゃん、ありがとな」今日は、弟の十八歳の誕生日だ。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
このところチューニングが決まらない。よれよれのbフラット。楽器を温める。リードを替える。焦る。「それ、声変りじゃないか?」隣のテナーサックスからポンポンと肩を叩かれ「フぇ?」と掠れた声が出た。やっと始まった変声期と楽器の調子外れに関係があるとは思えないが、なぜだか気が楽になった。

本田臨 @ayakobooklog
本に出てきた漢字の読み方わかんないからSiriに聞けない、と高校生の娘が言う。漢字辞典あるでしょ、の言葉に、娘は素直に本棚から取り出して開いたけれど、「調べ方がわかんない」と眉尻を下げる。今更教えられることなんてもうほとんどないと思っていたのに、と思いながら、部首のページを開いた。

矢口てる @furumotohon
身体に不調をきたし、私は薬を飲んでいる。先生に言われた通り、一日三回食後にきちんと。お陰で元気になり、通院する必要はなくなった。
モウ、ココニ通ウコトハ ナクナル…?
それは嫌。病気は治ったけれど、先生への恋慕の情をこじらせてしまったよう。次は何科に通ったらいいですか?

森林みどり @midorimidori53
遠距離恋愛中の彼に「元気?」と聞いたら「調子が悪い」と言ってきた。元気づけようと、かわいい猫の写真をメールしたら、自分の変顔の写真を返信してきた彼。爆笑させられる。「心配するな。俺は大丈夫」のメッセージと受け止めた。ユーモアのある彼のことがますます好きになり、早く会いたくなった。

きり。 @kotonohanooto_
月に一度、病院に行って、調剤薬局に寄って薬をもらって帰る。これでなんとか生きている。年末近くなると混み合うので、今月は早めに行った。近くのクリスマスイルミネーションがあざやかで、わたしの心は帰りの電車に揺られながら、束の間なごんだ。たぶん、こうやって来年も、ささやかに生きてゆく。

12月13日

トカク アキラ @sayu_tokaku
ざぁざぁと耳鳴りがするくらい陰鬱な室内で蛍光灯の白々しい光だけが僕と相手との距離をハッキリとさせている。個人という差はあろうとも同じ人間であるはずなのに、この思考や言動の大きな差が狭く冷たい取調室の中にぽっかりと空間を待っているのだ。

矢口てる @furumotohon
「心がけていること…ですか?そうですね、若い頃の体型を維持しているということでしょうか?調子に乗って今も、当時の服を着たりするんですよ。色は抑えてますけどね。あ、そのケーキ残すんでしたら、いただいていいですか?お腹すいちゃって…。」
『体型維持』ー それは、スレンダーとは限らない。

明里水也 @m_iya_o
調律してあげないと、この子は声を出せなくなってしまうから。鍵盤を踊っていた白い指が、金糸を撫でている。甘い声で愛を囁くお人形は、ガラスの瞳になにをも映してはいなかった。彼はなにを見ているのだろうか。ここにいる私は口を開くことができないでいる。まるで、錆びついたお人形のようだった。

せらひかり @hswelt
音色が聞こえた時、迷子の足は自然とそちらに向かった。「やあ探したよ」と笛を吹いていた猫が言い、帰ろうと呼びかける。猫の知人はいないが、懐かしい調べについていく。やがて迷子が数人集まって、桜並木を抜け、各々の家へ帰宅する。道端で瞬く黒い生き物達は、残念そうに息を吐いて姿を消した。

森林みどり @midorimidori53
「恋って何?」と先生に聞いたら「辞書を調べろ」と言われた。辞書には「人をこいしたうこと」とあった。納得できない。恋をしている友人に聞いたら「恋とは、心の空白をその人で満たしたいという思いのことだ。恋しないとその空白に気づかないから、恋した者にしかわからない。」と言う。恋がしたい。

森林みどり @midorimidori53
雨が激しく降っている。夜を水に溶かして、黒い雨が窓を洗い流す。今朝、彼は私を置いてこの家を出ていった。「私の何が悪かったの?」と言っても、彼は何も答えなかった。雨は家の土台に染み込み、私のベッドまでひたひたと浸水してくる。雨の夜の調べは墨汁の音。私の夢と枕をボタボタと黒く濡らす。

トガシ @Togashi_Design
道に迷った。スマートフォンを振り回しながら地図アプリで現在地と目的地を調べる。突然、隣で「カシャ」っとシャッター音が聞こえた。見知らぬ年配の女性が「綺麗な夕日ですね。私も思わず撮っちゃいましたよ」と言う。頭上には燃えるような夕日とグラデーションの空が広がっていた。ゆっくり行くか。

ゆき @HoneyDippeR6324
笙の調の中を進み、玉砂利を踏み締める。役目の終わりを思うとそれら全てが感慨深い。
「久しぶり」
「何せ十二年ぶりだからな」
「また皆で集まって宴会でもしたいが…」
「上の一声がなければ無理だろう」
旧友と短く言葉を交わし、百八つの鐘を撞き終った瞬間、兎は寅の肩を叩き社へと向かった。

みやふきん @38fukin
調理実習の時、班の中で誰よりも手際がいいから、料理好きなの?と訊いたら、親父しかいないからと彼は苦笑いした。変えてしまった空気を取り戻したくて、懸命に話しかけたら、まわりに勘違いが生まれた。友だちが彼のことを調べて教えてくれる。知ることで生まれたこの感情は、勘違いの派生だろうか。

 @Z9hmdBIPGCSspEx
『思い出作ります』
看板の文字に惹かれて入店した。昔話をすると、店主はグラスに液体を注いで思い出を調合した。夢に賭けていた情熱の赤と、現実を思い知った失望の青。グラスの中の思い出は、渋い紫色だった。
「大人の色ですね」
甘さと苦さが混ざり合う思い出を、僕は少しずつ味わうのだ。

naokok @naokokngt
あなたは本当に名探偵ね。わたしのカレはモテるから、不安になって、町一番の探偵という評判のあなたに調べてもらったら、本当に浮気していることがわかって。でもわたしも調べたの、あなたを。そしてわかった、あなたがカレを調べるうちに二人仲良くなったことが。つまり、カレの浮気相手は…。

足立ネコ(サイトからの投稿)
ある日大好きだった教授に、君はマリアのようだね。マグダナのマリアだ。と言われた。青春時代は好きな人が沢山いたのだ。それらの人たちは、今もお付き合いが続いている。発情期が過ぎて訪れたのは、穏やかな友情だった。調子いいこと言ってるかもしれないが、離婚をするほど好きだった彼が1番遠い。

鈴木林 @rinhayashi_tw
「調布」と言うと「え?」と返された。地元にて、友達に住処を訊かれたのだ。地図アプリを立ち上げて見せようとすると、示したい場所が白く表示されている。ガッツポーズをした人みたいな形で、調布はすっぽり抜け落ちていた。今、一応帰りの電車で向かってはいるのだが、まだちゃんとあるのだろうか。

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