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十二月の星々(140字小説コンテスト第3期)応募作 part1

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

月ごとに定められた文字を使った140字小説コンテスト。

今月の文字は「調」。

12月31日までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去のコンテストなどは下記をご覧ください)

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応募作(12月1日〜5日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

12月5日

言の葉のハナ @kotonohanohana1
目の前がチラッと光る。目を閉じたが、続いている。今週に入って三度目。恋人が繋がりを求めるから流行りで目を交換したが、嫉妬する。、、感度を調整してもらうか。そういえば、前の調整は何をしたっけ。たしか思考の共有システムを入れようと提案された気が、、あれ、、、今、何を考えていた、、、。

 @tatami_tatami_m
調べものをしていると、本と本の隙間から液体がだらだらだらだらと流れ出してくるのがわかった。青緑色のどろどろした液体が背表紙と背表紙との間から溢れてくる。窓から入る光が本棚と本棚に挟まれた通路を照らしている。私が本を棚から引っこ抜くと表紙に穴が開いて、腐った頁がボタボタと床へ落ちた

黒野綯路 @High_Delight
調度品に混じって佇立するサーベルタイガーを、私はそっと撫でた。剥製用として遺伝子合成によって復元、処理されたものだ。——そろそろ扉が破られる。そうして手当たり次第に再生させた化石の一つが、よもや悪魔のそれだったとは。せめて彼が人類に、保存するだけの価値を見出してくれるとよいのだが。

秋助 @akisuke0
優秀な選手は優秀なコーチの下に育つという考えにより、スポーツ界は打倒世界に向けて新たなシステムを導入した。選手の発掘や調整はもちろん、コーチ自身にもコーチをつけ始める。すなわち、指導者の指導だ。更なる高みを目指すために、コーチを育成するコーチを育成するコーチを育成するコーチを──

草野理恵子 @riekopi158
「思い出してくれて嬉しい」彼女はスカートの中が見えないように膝を立てた。夕闇が押し寄せ辺りは暗く空調の音だけが響いていた。彼女は長い耳と黒い目に姿をかえていたが声は変わっていなかった。彼女はいい?と聞き僕は頷いた。最後に細長い窓から三日月が見えた。彼女は長い爪で僕の目を潰した。

草野理恵子 @riekopi158
海岸沿いのブランコが燃えていた。鎖も燃えるんだね。君が静かな口調で言うので驚いた。消防車呼ぼうって言うと、もう少し見るって言った。ここ何になるのかな?って楽しそうだった。ブランコ嫌いなの?って聞くと別にって答えた。その後「別に」の人がどうなったか一通り話すともう火は消えていた。

草野理恵子 @riekopi158
市の手首園がつぶれた。珍しいものは引き取られ、ただの手首は置き去りにされた。穴の中からへろへろになった手首が顔を上げた。手首なのに顔なんだねって言うと目玉を二個取り出した。こんな風に進化するんだね。目玉から涙が出ていて、いいねその調子って言ったら笑った。笑ったのが分かるっていい。

 @AoinoHanataba
「私ね、こじれた人間関係の音を治す調律師なの」
 なんだそれ。その言葉は涙で詰まって言えなかった。たった今、親友が私の彼氏と付き合ったという写真が送られてきたからだ。
「それ、合成写真よ」
 
 あの時、友達が親友の罠だと教えてくれなかったら、彼氏とゴールインなんてしてなかったなぁ。

12月4日

酒匂晴比古 @sakoh_haruhiko
わからないことがあったら、決してそのままにせず納得行くまで調べるのよ。そう教えてくれた担任の先生が失踪したのは、僕が小学五年生のとき。「カケオチ」の噂も流れた。でも、僕は見たんだ。先生の車が港の堤防を猛スピードで走り抜け、夜空へ消えるのを。先生、僕は30年間、謎を抱え続けています。

酒匂晴比古 @sakoh_haruhiko
問い合わせるたび、判で押したように同じ答えが返ってくる。「何もかも順調ですよ。ご心配には及びません」。昨日も、今日も、たぶん明日も「何もかも順調です。ご心配には及びません」。窓の外を吹く風は日に日に激しさを増し、太陽の光が届く時間は確実に短くなっている。だというのに……。

右近金魚 @ukonkingyo
冬の夜、銀河の畔で白鳥が死んだ。首をしなやかに折り畳み、最期に銀の調べを震わせ目を瞑った。翌朝は雪になった。村の子どもは家を飛び出し橇遊びを始めたけれど少女はただ一人椿の花を拾っていた。遊ぼうと言われると少女はほろり、涙した。今日の雪は羽根のよう。きっとお空の白鳥が死んだのよ。

久保田毒虫 @dokumu44
彼は台所の窓から入ってきた。固定観念に守られながら。僕はびっくりしたさ。そりゃもう。何故彼は、僕がこの時間台所にいるって事前に調べなかったのだろう。何故台所なのだろう。困るなあ。今日は日曜日だってのに。ああ、怠惰な日曜日が終わってまた月曜日が始まるんだろう?強迫観念とともにね。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
辞書が旅に出た。空になった定位置に書き置きがあった。難解な言葉が並んでいるのは流石だが筆記には不慣れとみえ、解読するのに苦労した。つまりは「語彙調査旅行」らしい。
辞書は元の定位置に収まらないほど厚くなって帰ってきた。新たに収録された言葉と出会うため、今度は私が辞書に潜る旅へ。

Jasmine(サイトからの投稿)
私の祖父は、よく炊き込みご飯を作ってくれた。レシピは調べないスタイルで、全て自己流だ。なので、同じ材料や調味料で作っても、毎回少しずつ味が違う。それも楽しみであった。炊き込みご飯は、たこ、こはだ、とりの3種類。祖父亡き後も炊き込みご飯を食べると思い出す。じいちゃんの味がすると。

秋助 @akisuke0
人生アプリがインストールされる。無料でも楽しめるけど、課金するほど豊かになっていく。ある日、公式から「ハードモードに強制変更されたり、幸福度の格差が広がるバグを調整しました」と告知が入る。それでも、人生が良くなることはなかった。結局、バグじゃなくて僕自身の生き方の問題だったのだ。

チカ @_akihc
あなたはハ長調、わたしはト長調。違うね、と苦笑いするあなたに、わたしはそれでいい、と答える。
違うけれども、音は聞こえる。時々は、合わせることもできるのだから。

作花望(サイトからの投稿)
稼働状況に限界が認められたため、急遽メンテナンスを行うことにした。耐久年数にはまだまだ余裕があり、電源も常に入っている。問題があるとすれば、連続使用時間を超えてしまっているという点か。しかし大丈夫。まだ壊れてないし、作業も終わってない。こんな時はエナジードリンクで体調を戻すのみ。

作花望(サイトからの投稿)
人生で初めて見たステンドグラスの美しさは、小僧の国語力で表現できるものではなかった。彩に魅せられ視線を外せなくなったことを、未だに良く覚えている。以来、その色調に心奪われ何度足を運んだことだろう。どんな教会の作品よりも、祖父が戯れに作った実家の一枠が呆けるほどに好ましかった。

作花望(サイトからの投稿)
父の仏壇に生前の好物を供えた。線香は焚かない。風味を邪魔することになる。「良く味わってくれよ親父」。そう言って表へと向かい、看板を裏返す。親父が亡くなったきっかけは、俺の生き方を見出すきっかけでもあった。「素人が安易に手を出すからだよ全く」。ふぐ調理師となった俺は吐き捨てた。

作花望(サイトからの投稿)
音楽を愛する友人がいた。いずれはこの道で生きていきたいと語っていた。そんな彼が、現在業界から注目されているという。しかし彼を表舞台で見たことが無かった私はこの噂に懐疑的だった。私は彼にメッセージを送った。その回答は彼らしい愛に溢れていた。「今どんな仕事を?」「調律師をしてるよ」

作花望(サイトからの投稿)
世の中が不公平だと思うのは私だけだろうか?自分の様に大真面目に生きる人間が、お調子者で有名な同期に先を越されるなんて。そう気持ちを腐らせていた私は、自身の浅慮を恥じた。彼は人間関係や先方の趣味趣向を、完璧に調査・把握した上で動いていた。私より余程「真剣に」生きていたのだった。

黒野綯路 @High_Delight
都を脅かす妖狐を調伏せよ。勅令を帯びた陰陽師はしかし、麗しい娘に変化した獲物を前に、術を躊躇した。それより数年。安穏なる都で、陰陽師は腑抜けたように暮らしていた。夜毎、褥に潜り込む妻へ、彼は優しく接吻を落とす。同族の血で紅を差した唇を震わせ、裏切り者の妖狐は主人の寵愛に歓喜した。

よつ葉 @Kleeblatt3939
何でも知っていれば愛してもらえると思ったので、多くのことを調べ、学びました。でもそんなことでは愛されませんでした。悲しくなって、思わず涙がぽろりと零れたら、涙を拭うハンカチを貸してくれた人が、私の初めての友人になってくれました。

よつ葉 @Kleeblatt3939
綺麗な箱を貰いました。調べたら寄木細工と言うそうです。「宝物を入れるといいよ」と言われたので、悩んで悩んで、綺麗な朝焼けの空気を詰めました。早朝の一時しか見られない、あのひんやりとした空気が、今も手元にあります。それだけで私は幸せです。

東方 健太郎 @thethomas3
暗幕の後ろで控えていた。スポットライトは、まだその瞬間を待ち構えている。辞めることも考えた。もう何もかもがうまくいっていない。スタッフとも険悪なムードは拭えない。それでも、ここまで踏み留まり、じっと堪えてきた。一曲目は、ニ短調のオペラロック。喉の調子は悪くない。静かに幕はあがる。

鹿内 @shikahakuhuku
彼はぼんやりと手元の紙を眺めていた。プレゼントリストのようでびっしりと埋め尽くされている。今年の町一帯の調査ではゲーム機が多いようだ。彼は決心がついたように一息つくと仲間に電話した。
「Xデーは24日だ。サンタの寝込みを襲うぞ。去年の恨みだ。子供の怖さを教えてやる。ママには内緒だぞ」

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
太古の夢を探る職をしてた父が調査に私を連れて行ってくれた事があった。空近く、人里離れた崖の下。かつて海だったなんて信じられない。卵みたく丸い石を見つけると得意げにそれを上手に割って、中から取り出した光る化石を私に呉れた。大切にしてたのに「貝の火」は、いつの間にか失くしてしまった。

12月3日

モサク @mosaku_kansui
「初雪降った」スマホに届いたのは土混じりの小さな雪だるま。俺は慌てて新幹線の空席状況を調べている。「切符取れた。年末には帰るよ」指が何度も間違える。まだ間に合うかな。いつの間にか「会いたい」と言わなくなった。君の隣は空いているのか。聞いてもらいたい言葉をスーツケースに詰めている。

久保田毒虫 @dokumu44
喫茶店に入る。ネットで調べた感じと少し違う。帰りにサービス券を貰う。「サービス券20枚で火星へご招待!」と書いてある。何が火星だ。俺は、いや、この世に生きとし生けるものみんな、地球で生きることで精一杯なのだ。みんな一生懸命なのだ。それぞれ何かかかえているのだ。邪魔するな。

葉山みとと @mitotomapo
スワイプの魔法で調度品を呼び出し、温かな茶をすする。実物という言葉が輪郭だけ残して消え去った世界では、必要なものは必要な瞬間に取り出せばいいのだ。モノなんてどうせあの世には持っていけない。祖母の形見をデータ化してから、何かが軽んじられている気がするが、それも実物ではないのだろう。

氷室凛 @166P_himurinn
私は優しいと評判の女神だ。対の存在の双子の弟がいる。弟は荒れた性格で、しょっちゅう世界をめちゃくちゃにしている。その度に臣民から「弟を消してほしい」という祈りが届く。
けれどそれはできない相談だ。
弟は大切な家族だ。それに何よりーー混沌が存在しなければ調和も生まれないのだから。

 @AoinoHanataba
調香師の親友が個人経営で香水を売るというので、車を飛ばしてやってきた。久しぶりに会う親友は一層素敵になっていて、胸が高鳴った。……恋人を紹介されるまでは。
その後、
「親友待遇で〜す!」
と、親友はゼラニウムの香水をくれた。

家に帰ってすぐに香水をつけたが、何の匂いもしなかった。

.kom(サイトからの投稿)
僕は身の潔白を必死に説明した。僕の出来る限りの言葉で。
でも信じて貰えなかった。他の人が言う言葉を信じて。
ちょっと調べれば分かるはずなのに、それを放棄して責められたらもう何も言えないよね。
僕はもう口を閉ざした。空回る説明、は虚しさしか呼ばないから。

うぐいす丸3号(サイトからの投稿)
言葉にしなくても通じ合える、そんなロマンチックで単調な関係であればよかった。でも違った、どれだけ言葉を重ねてもきっと足りない。少なくとも私と彼女の2人には。
冬空の冷気を吸い込んで気持ちを調える。美しくなくったっていい、陳腐でもいい。ただ真っ直ぐに伝えたい。
「あなたが欲しい」

イマムラ・コー @imamura_ko
初めてのマラソンレース。スタートから調子を上げすぎた。いつもの駅伝のつもりで走っていた。寂しい。早く終わらせたい。その思いで走ってたらトップでゴールインしてしまった。世界新記録が出たらしい。でもやっぱり襷を渡さないのは寂しい。世界新より区間新の方がいい。マラソンはもうこりごりだ。

黒野綯路 @High_Delight
調子外れのラブソング。マイクは酒瓶、会場はワンルーム、観客はダンボール箱と私だけ。つい先日、武道館を満員にした人とは思えない。こら、そこは「君と一緒に」だ。せっかく書いてあげた歌詞を、勝手に変えるんじゃない。照れ隠しの冗談混じり、私は手を打ち囃し立てる。酔っているなぁ、お互いに。

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
谷あいを夕霧が流れはけて、蜘蛛の網に捕らわれた水滴が月光を浴びて浮かび上がる。それら小さな竪琴はそこかしこに架けられていて、楽団が現れた。天幕の傍ら焚き火の前で、吟遊詩人がギターを取り出して夜想曲を爪弾きだす。旋律のせせらぎが辺りに広がり、蜘蛛たちは長い手足で琴線の調律を始めた。

黒野綯路 @High_Delight
観客のいないサーカステントの中で、ライオンは溜息めいたうなり声を響かせた。虐待だという世間の声に押され、彼のショーは今回の巡業を最後に演目から消える。お役御免だ。だからこそ悔いのないよう、調教は抜かりなく。相棒と目が合う。ライオンが吼える。それを合図に、老人は火の輪に飛び込んだ。

12月2日

久保田毒虫 @dokumu44
青信号とか青汁とか、どうして「緑」のことを「青」と言うのだろう。ネットで調べようと思ったけどやめた。調べたら負けな気がした。そしてこの日本独特の文化にとことん反抗してやろうと思った。青信号を緑信号と言ってやる。青汁は緑汁だ。ざまあみろ。はあすっきりした。しかし青々とした空だなぁ。

メイファマオ @molmol299
調査結果を握りしめ、嗚呼と呟く。 夫が浮気していると知らせてくれた親切な同僚の言葉に 半信半疑で調べたら黒だった。 …貴女は騙されてるんですよ。 潤んだ瞳を思い出す。 いつも何か違うと思ってた。 男とホテルに入る夫の写真にホッとする私。 此で泣いて同僚の彼女の腕に躊躇せず飛び込める。

すゞ乃 @myk714sz
ピアノの調律を見聞きするのがとてつもなく好きだ。普段開かない光った身体の中に、幾つもの精密な木々。オクターブの単音がただただ重なる音に聴き惚れていたら、突然アルペジオが現れる。半音、一音と永遠に続くパターンが心地よくて、高い音に近付く度に切ない気持ちになる。終わらなくて、いい。

若林明良(サイトからの投稿)
曲が長調に転じた。トゥーランドット・誰も寝てはならぬ。ここまではノーミスだ。さあフィニッシュまであと2分、金メダルへ……!と景色が暗転し、はげじじいが現れた。「君が欲しいのは金・銀・銅どれじゃ?」「私が欲しいのは鉄です!」ワーッ。演技が終わった。斉藤千佳メダル逃す。なんでやねん!

藤和 @towa49666
ヘッドホンで大音量の音楽を耳に流し込む。こうしないと周りの音が気になっておちおち調べ物もできない。ハードロックのメロディに合わせて図書館で借りてきた本のページをめくる。知りたかったことは、この本の中に二行ほどしか書かれていない。それでもいい。他の情報も、いずれ必要になるのだから。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
ファドソレラミシが♯の増え方、今度は逆から読みシミラレソドファになると♭の増え方になる。
子供の頃教わったそんな調号の覚え方を今ふと思い出した。
教えてくれたのは、軍楽隊の父だ。先日まで戦地で銃を握っていた。
そして私は、♭と書いた封筒で届いた首相宛の遺書を開く。
『寄せ餌勝ちの意』

せらひかり @hswelt
星だよ、これでも光ってるんだ。モミの木じゃなくて別の素材の造花だけれど、てっぺんに乗って光ってる。薄い金属パネルみたいなものをつぎ合わせた星。誰の願いも重すぎて、ただ光って励ますことしかできない。調子のいいことは言えなくて、綺麗ねと微笑んでくれる人の元で、小さな光を投げかける。

MOTOM(サイトからの投稿)
 小説とエッセイは違うんだよ。小説には起承転結があって、エッセイは思いついたことをそのままに。漱石だって「吾輩は猫である。」から初めているだろう。名調子で、グイグイと読ませる。帝大出の文豪。本名は金之助なのに僧籍、いや漱石にしてるし。「え、俺かい? 裏のドラッグストアの捨犬さ。」

はぼちゆり @habochiyuri0202
病室に天使が舞い降りた。「俺には自分勝手でわがままで、命令ばかりする妻が…」天使は囁く「そんなの知らない」「生き甲斐だったんだ。いなくなってわかった。だから…」天使は俺の口を塞いだ。「だから生きろ」そこで目が覚めた。体調は急速に回復、奇跡だと言われた。「また命令しやがって」

12月1日

pokazo @pokapoka_pokazo
最近、どうも調子が良くないわ。日課の早朝ランニングに加え、専属のトレーナーを付けてのマシントレーニング。忙しいスケジュールの合間を縫って、純文学を読む時間も作っているのよ。食事にも気を遣い、脂肪の多いものは避けて野菜中心のメニューにしているのに、一体どうしたというの、あの子は。

英令目野ピイ @lmnopdesu
朝、早くに目が覚めたので、ランニングをしてきた。ゆっくりシャワーを浴び、さっぱりしているうちに出社時刻になっていた。慌てて同僚に電話で相談。「こういう時は乗り物が原因で遅刻って事にすれ」忠告通り上司へ連絡する。「すみません、遅刻しそうです。なんか、ちょっと、体重計の調子が悪くて」

黒野綯路 @High_Delight
散布した自律ナノマシンによって音波を増減させ、あらゆる音を制御する。「調律師」と名づけられたこのシステムが、騒音と判断した音を残らず排除した。路上ライブ、子供の大声、蝉時雨。静かになった街の片隅で、折れたギターと共に横臥する開発者の遺体が発見された。悲鳴を聞いた者はいないそうだ。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
今日の為に調えた純白のドレスが燃えてゆく。
「白装束なんて嫌だわ、折角彼に会えるのに」
妻は、殆どの記憶が薄れても大戦で死んだ最初の夫の事は忘れなかった。 「天国でドレスを自慢したいの、今の主人の事も」
今の夫の私が目の前に居る事にも気付かず、笑っていた。
滲む視界に、心がこぼれる。

藤和 @towa49666
バイオリンの調弦をする。初めのうちは上手くできなかったこの作業も、もう慣れたものだ。舞台の上で各楽器のチューニングの音が響く中、胸の高鳴りが押さえられない。この名前のない音を何度聴いたのか。数え切れないほど聴いて、ようやくこの舞台に立てた。舞台が静かになると同時に覚悟が決まった。

冨原睦菜 @kachirinfactory
音楽の才能ゼロな私の弟は音楽家。「私は生まれる時、ばあちゃんのおなかに音楽の才能を全部捨ててきたん。それを君のパパが拾って生まれてきたんだよ」「おばちゃん、音楽ダメそうな顔してるもんね」そう言う甥っ子の笑顔は私の幼い頃と瓜二つ。【こいのぼり】の調子っぱずれな歌い方までそっくりだ。

峰庭梟 @sss_books
戦争が終わったとき、廃墟となった広場に集まったのは兵士でも政治家でもなく、音楽家たちでした。広場には一台のピアノがあったのです。「誰か調律してくれ」とバイオリンを持った男が言いました。「演奏しよう。昨日は敵だった君たちも一緒に。これからの僕たちに必要なのは、ハーモニーなのだから」

モサク @mosaku_kansui
目覚めると小さなベッドにいた。コットというやつだろう。「あーまたリセットしちまったか」経験を踏まえ気をつけていたが、またやり直しらしい。毎度違う失敗で終えてしまうのだ。「えっと最初は泣くのが仕事で、次は笑ってみせるんだったか?」この調子だと天寿を全うできるのはいつになることやら。

モサク @mosaku_kansui
葉を散らした庭木にみかんの輪切りが咲いている。「自分の食事もままならないのに」言葉を飲み込んで冷蔵庫の扉を開けた。ヨーグルトや作り置きの惣菜を仕舞い、残り物を確かめる。いつもと変わらぬ流れ作業。ふと美しい調べに耳をすませる。父がみかんを啄むメジロを見ていた。懐かしい顔をしている。

きり。 @kotonohanooto_
今年も、こころの病、脳の病とともに、一年が終わろうとしている。調子のよい日には本を手にとり、すてきな文章にふれる。その瞬間だけは、自由に、異世界に飛んでゆく。いまを忘れられる。来年はもっと外の風に当たろうと、本の天使がささやく。うなずくわたしに、もうすぐ、白い季節がおとずれる。

氷室凛 @166P_himurinn
父は「ととのえよう」が口癖だった。
その割に片付けが苦手でよく母に叱られていたのを覚えている。そして母の葬儀の時も、遺産関係で喧々諤々の中そう言った。なんて薄情な人だ。
「言葉を周して、つまりたくさん会話をして場をまとめるんだ。さあ、調えよう」
父の目からは一筋の涙が流れていた。

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