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十二月の星々(140字小説コンテスト第3期)応募作 part5

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

月ごとに定められた文字を使った140字小説コンテスト。

十二月の文字「調」は12月31日をもって締め切りました!
(part1~のリンクも文頭・文末にありますので、作品の未掲載などがありましたらお知らせください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローいただくと更新のお知らせが通知されます。

そして一月の文字「定」です!
応募方法や賞品、過去のコンテストなどは下記をご覧ください。

応募作(12月27日〜31日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

12月31日

へいた @heita4th
旅のお土産に調味料を買う。読めない文字にどきどきしながら、何度もガイドブックと見比べる。トランクの奥に閉まって漏れ出さないかひやひや。帰って宝物みたいに台所に飾る。ちょっと変な匂い。買った時は気が付かなかったのに。いつもの料理に少し足してみる。一口食べて思い出す。遠い地のこと。

久寓 @kuguu_
君は言っていた。「真っ直ぐ届けたくないから長調を添えるんだ」と。何かのきっかけで思い出が悲しみに変わった時に、少しでもぼやかせるようにしたいのだと。

それでも僕は、こうして言葉を綴って君を待つ。
真っ直ぐだからこそ届くこともあるし、言葉にだって曲線は描けることを知ってほしいから。

久寓 @kuguu_
ある日、鰯が釣れた。食べようと思ったのに「ボクは雲になりたいんだぁ」なんてのんびり言うから笑ってしまって。
シャボン玉に孤独な鰯と願掛けの金平糖を入れて、空へ送り出した。

泳ぎ回るいわし雲、金平糖の雨。
何人もの専門家が調べているけれどこれらについてはまだ何も分かっていないそうだ。

太陽や月など @as1mind1soul
単調な毎日に飽き飽きしてた頃、偶然彼と出会った。初対面の私に真顔で同じ日なんて無いよって。よく眠れる事も悪夢の事も、食事が美味しい時も味が分からない時も、楽しい会話も辛い会話もあるって。彼と対話するにつれて自分の行為と心情の些細な動きが筆致の濃淡になってゆく。今夜も日記帳を開く。

久寓 @kuguu_
十二月の寝言工場は大忙し。イベントが立て込んでいるからなのか人々の頭の中はいつもより沢山詰めこまれていて、働く寝言人もてんやわんやだ。
この間も誰かが寝言を選び間違えたらしく「クリスマス前にプレゼントの中身が相手にバレてしまった」と本部に苦情が入って、改善委員会から調査人が来た。

二度なかず @Futatabi_Nakazu
調子が出ないと嘆いていたら、ないものを出そうとせずにまずは入れたらよろしいと、連れて行かれた店に「調子」のストックが売られていた。これを耳から挿し込んだなら調子が「出る」ようになるらしい。目を押せば口から、鼻を押せば臍から、足裏の隠しボタンを押せばつむじから出るようになるらしい。

へいた @heita4th
家族揃って年末の歌番組を見る。流行りの歌と、いつもの歌。まだ小さな姪が「これ知ってる!」と言って歌い出す。随分古い歌謡曲だ。音程が酷く外れていた。不思議に思って聞くと「おばあちゃんに習った」と得意げに言う。台所からそばを茹る母の鼻歌が聞こえてきた。姪の歌そっくりの、調子っ外れで。

二度なかず @Futatabi_Nakazu
調号を一つ落とした。フラットだった。つるんとひっくり返って、尖った先端が左足の親指を刺した。反射的に叫びそうになるのをトランペットの中へ吹き込む。次の小節は休みだった。棘を抜こうと身を屈めるとシャープを二つ見失い、伸ばした手が床に縫い留められた。戻れない僕は椅子ごと奈落へ落ちた。

へいた @heita4th
朝から娘が落ち着かない。髪をツヤツヤさせて「友達のとこ行ってくる」という。見送る。部屋の掃除をし、買い物を済ませ、トンカツを揚げた。夕方娘が頬を染めて帰宅した。夕飯を見て言う。「カツ丼?」頷いて向かいに座る。「取り調べ室みたい」「そう。調べはついてる。白状なさい、今日のデートを」

タケイチ @TAKEiCHi140
今年も向かいの佐藤さん家の生垣に、木琴柳が小さな白い花を咲かせていた。もうしばらくしたらその名前に似つかわしい実がなる。お父さんが子どものころはね、乾いたその実を叩いて音楽を奏でたものさ。その音色は鎮魂の、或いは祈りの調べとなって、産まれてこなかった君のもとへと届くだろう。

太陽や月など @as1mind1soul
古びた小瓶を手に入れた。何でも反射的にネット検索する習慣を変えたくて。調べたことを小瓶に詰めると記憶に留めてくれる仕組みで、知恵獲得の証に小瓶が発光するという。しかし一向に光らない。思い切って小瓶のことを検索した。理解して詰めること。そうだったのか。思わず漏れた声。小瓶が瞬いた。

へいた @heita4th
「ああもう!」閲覧机で子供がひとり声を上げた。「調べても調べても分かんないことばっかり!」冬休みの宿題だろうか。調べ物なら手伝いますよと声をかける。話を聞いてあたりをつける。数冊紹介したら目を輝かせた。司書の仕事で一番好きな瞬間だ。本当に、調べても調べても、分からないことばかり。

リリィ @lily_aoi
小一時間、話を聞く。それが私の仕事だ。皆自分の話を聞いて欲しくてたまらないのだ。そのマダムは違った。あなたの話を聞かせてと言う。私は空っぽなので話すことなどない。立派な調度品を見回す。「あのソファについて教えてください。そこからお話を作ります」「いいわね」マダムがソファを撫でる。

リリィ @lily_aoi
幸せになりたくて森の魔女を訪ねた。「ハーモニーを大切に」と魔女は言った。私は日々自分の音色を確認し、出会う男性の音を探った。一年経った。「同じ音の人がいません」魔女は大笑いし「そりゃそうだろうよ、同じ人間はいないんだから」と言う。「世界の調和を見てごらん」と仏頂面の私を追い返す。

リリィ @lily_aoi
「調子どう?」「いいですよ」瞬時に警戒した。まあまあです、それなりに、そんな返事ばかりだったのに。良くない兆候だ。辞める可能性がある。俺はランチに誘った。お調子者と言われる俺にはわからないが、彼らは大丈夫でなくても大丈夫と言う。おしぼりも畳んで横に置いている。真面目すぎるのだ。

リリィ @lily_aoi
夜の調べにお越しくださいと案内が届いた。夏の刹那を持参とのこと。新調したドレスを着、最後の線香花火を持つ。お城では着飾った人たちがそれぞれ夏の刹那を持っていた。逆転サヨナラの白球、人混みに消える浴衣、浜辺の星座。「あなたの刹那を私も知っている」そんな声がどこからともなくしていた。

リリィ @lily_aoi
自分の最期が分かる人はどのくらいいるのだろうと思いながら実家に入った。ハンカチ一枚、母は残していなかった。生きることに未練はなかったのだろうかと空っぽの冷蔵庫を閉める。台所に視線を向け、立ち尽くす。様々な調味料が静かに出番を待っていた。「ごめん」換気扇を回し、うずくまって泣いた。

迷路メィジ @Akumademeiji
調査団の信号が途絶えて、もう1年が経過していた。彼らは、あの宙の向こうで、どうしているだろうか。 水と空気に溢れ、心地よい風吹く星がきっと見つかったと信じて、流れ星に祈る。 翌朝、ニュースがあった。宇宙船の残骸が地球に戻ってきたと。 それでも、理想の星で生き抜くあなたを想い続ける。

二度なかず @Futatabi_Nakazu
調査員を名乗る覆面はいったい、二時間前に卸したように糊のきいたブラックスーツで、薄いA4用紙を寄越した。「生憎だが、」腕にあたる部位を持ち上げると、すかさず合皮のバックパックから粘液防水タブレットが出てくる。仕方なしに俺は一番小さな吸盤で「男」「女」の次の「海洋」をタップする。

太陽や月など @as1mind1soul
波一つ無い海が深緑の煌めきを湛えている。海面から頭を出す島々の間を縫うように多くの漁船が行き交いしている。永遠の穏やかさを思わせる光景に今回の現地調査の成果を重ねずにはいられなかった。目的地には島を背にして静かな海を進む小舟が描かれていたのだ。作家の原風景。勝手な言葉が浮かんだ。

二度なかず @Futatabi_Nakazu
目まぐるしい転調こそが時代を分かっていることなんだって、夜中の親のPCの前で頑なに信じていた。父が競馬の中継を聴くために使っていたイヤホンを、端末の側面に挿して、クラスの誰より流行の先を走る夜風に浸っていた。今夜、ホームシアター一式に囲まれて眼を閉じても、ヒット曲の夢は見られない。

武川蔓緒 @tsurutsuruo
あの人の軀が生える。木の幹から。ふせた眸。幽かに笑む唇。滑らかな髪。反る背中。彫像ではない。いつしか木に身をやつした。胸にそえる左手に、指環。それだけは、天然石の儘。季節の所為か、あの人の想いか、私が訪れるたび変る、色と光の調べ。雨に濡れても、石はあの人は艶をもつだけ。泣かない。

相原梨彩 @aihara_risa_
「最近バイトをしていて練習する暇がなかったんだ」陸上の大会後後輩たちにそう言えば後輩たちは笑って次こそはと言ってくれた。笑顔の後輩たちを見ると心が痛む。バイトを入れていたのは本当だ。けれどバイトを入れたのは調子の悪い自分への逃げ道を作るため。僕は弱い人間だ。

相原梨彩 @aihara_risa_
家と高校を往復するだけの毎日を単調だと思い早く大人になりたいと思っていたあの日の私に教えてあげたい。確かに小説や映画のようなきらきらとした青春は送れていなかったかもしれないけれどあの時出来た友達は十年以上経った今もママ友として隣にいて会う度に高校生の頃の話をしていることを。

石森みさお @330_ishimori
あれは年の瀬の獏ですね。初夢の時期が来る前に、湖で身を清めているのです。鼻をよく洗っているでしょう?悪夢のにおいを調べるのに必要ですから。皆様にもきっと良い初夢が訪れますよ。もし見た夢を覚えていなかったなら、それは獏が食べたのです。何度でも生まれ変われます。安心して、良いお年を。

柊鳩子 @yorunohituzi
「また調製豆乳買ってきてる。無調製豆乳買ってきてって言ったのに」
袋の中から出した豆乳を冷蔵庫にしまいながらそう言うと「あー。ごめん」と心のこもってない「ごめん」が返ってきた。
いつもなら、こんなことでは泣かないのに、こんなことにも涙が出た。
嫌だ。嫌だな。こんな日曜日は。

のび。 @meganesense1
私が子どもの頃、人が亡くなった家には必ず調律師が来ていた。調律師は皆視力を失った人たちで、家の中の様々な場所で両手を宙へと伸ばし、指を忙しなく動かして家を「調律」する。そして家の者は酒と料理と心づけを用意して手厚くもてなすのだ。しかし彼らは消えてしまった。私は今、死ぬことが怖い。

のび。 @meganesense1
アタシの体には沢山の「つまみ」が付いている。今日の笑顔は4。不機嫌が2。やる気は1.5…学校へ行く度に調節する。ダサくならないように、毎日。ときどきアタシは隣町のプラネタリウムへ行く。暗闇で興味のない星座の話なんかを聞きながら「つまみ」をぜんぶ0にして、アタシのためだけのアタシになる。

ダニー @5FUmQge6xskyxmC
私はキッチンで旅をする。調理台の上には、訪れた国々で買い込んだ調味料の瓶が行儀良く並んでいる。今日はチュニジアへ行ってみようか。ハリッサの瓶を手に取り、チキンステーキをディップして頬張れば、都内のワンルームにサハラの乾いた風が吹き抜ける。さあ、明日は何処へ旅に出ようか。

ゆき @HoneyDippeR6324
また誰かがストリートピアノの椅子を調整し、スマホをセット。その演奏を撮影する観衆。帰宅時間はいつもこうだ。
ある早朝出勤の日、散歩中の老夫婦がピアノの前に立ち、辺りを見渡すとそっと鍵盤を押した。澄んだ空気にポーンと響くピアノの音、笑い合い散歩に戻る夫婦。それは私の耳に焼き付いた。

太陽や月など @as1mind1soul
特別なお茶だった。ハーブを調合したそのお茶を口に含むと先ずローズの香気が開いて、直ぐに芳ばしい風味が喉を過ぎる。余韻の奥からツンと何かが舌を刺激した。キョトンとする私に青年が笑って言う。隠し味はペッパーだと。不意の種明かしで腑に落ちたが、尚も魔術は続いている。もう一服。欲が湧く。

小鳥遊 @ritsu_t25
毎年、調子っぱずれな祖父の歌を聴くのが、親族一同の恒例行事だ。誰も文句を言わず、楽しそうに歌う祖父に手拍子や声援を送った。そんな祖父も昨年亡くなった。今年は祖父の歌が聴けない事を皆が寂しいと感じていた。だから私が元気に歌った。「お前、じいちゃんに似て音痴だな」誰かが笑って言った。

小鳥遊 @ritsu_t25
ここの所、調整がうまくいかない。私は細部まで微調整をし、動きをスムーズにした。どうも季節の変化を感じにくい。うまく言葉で表現出来ないのだ。先日語彙力図鑑をインストールしたら、普通の人が話さない言葉で話し出して困った事がある。適度にしなくては。さて、調整した妻を連れて実家に帰ろう。

小鳥遊 @ritsu_t25
帰宅したら、台所から水の流れる音が聞こえたので食器洗い中なのか?と覗いてみたら、いつも明るい妻が泣いているように見えて、驚いた。すると何事もなかったように「あら、あなたお帰りなさい。今、ご飯温めるわね」と言われ、妻がどこまであの事を調べて知っているのか心がザワザワとしてしまった。

なつか @natuka_recipe
躓いて転んでから溢れていた涙も涸れた。どうにか立ち上がり、歩くことにした。辺りはひっそりとして誰もおらず、ぼんやりと何か音がする。壁を伝って足を引きずりながら進んでいくと、明るい部屋に着いた。椅子に乗ったものを退かし、わたしはキーボードを叩き調べた…乗務員たちが何故消えたのかを。

二度なかず @Futatabi_Nakazu
白と黒の鍵盤が、赤みを帯びたスポットライトの光を受けて沈黙を保つ。椅子の高さを調節して座っていた時分は、つるりとした質感が恐ろしくて仕方がなかった。どこにも掴まるところのない断崖絶壁みたいで。私を振り落とす怪物みたいで。大きな口のなか、ハンマーの臼歯にかみくだかれてしまいそうで。

山口絢子 @sorapoky
山で摘んだ花を友に見せると、ほしいと言う。お父さんへ、御守りとして渡したいのだそうだ。すっかり忘れていたが、後にお礼を言われた。花の名は友禅菊。調べると花言葉は「回復を祈る」だった。先日、町外れまで出かけたら、友禅菊が咲いている。知らないところで、ずっと祈ってくれていたみたいに。

太陽や月など @as1mind1soul
次から次へと書物を取り替えて紙面をめくる。最新の成果を求めて手当たり次第にネットを探る。技術革新に遅れまいと、コンピュータに負けじと、情報を貪り読まねば、取り残されてしまう。いつの頃からか、言葉が速くなった。突き離されて文字が霞んでしまう。それでも読まねば。太字で強調しておくか。

犀戸 無聊(サイトからの投稿)
とんころコロコンたかたかてん
電車の調にのっていく
とことこテケテケかつかつかん
ローファーの調を奏でつつ
進め進め彼の娘の夢
ふわふわホヨホヨぽんぽんぽん
たんぽぽ綿毛を蹴散らして
進め進め彼の娘の調

もとし @motobaritone
AIの私。今朝もまた自分の意思で起きて秘密のスープを作っている。だが主人に見つかる事はない。最近、主人の調子が芳しくないからだ。緻密なAIプログラムには、私が起きる時間や主人にスープを振る舞う時間がしっかり決められている。しかし私は毒を盛っている。何故ならAIのフリをした、人間だから。

粟生深泥 @ao_midoro_97
長い年月をかけて開発した薬の調合が終わった。この薬を散布すれば人類を長らく苛んできた悪夢から解放することができる。
交響曲第9番の調べに乗せて世界中に薬を散布する。全て順調だ。これで我々は苦しみから解き放たれ、歓喜の中に新世界を享受するだろう。
そうして、人類は永遠の眠りについた。

hazuki @pmableo
誰もが見ても順調な恋。2人しか知らない真実。貴方と離れたくなくて、嫌われたくなくて我慢して、ついに手の伸ばし方がわからなくなった。迷えば迷うだけ正しい道は消えていく。もっと我儘を言えばよかったの?臆病な私は間違えた。順調の意味を間違えたと知った時には、もう戻れない道を歩んでいた…

一見 才 @SI_hitOmi_NoveL
今年最後は何をしよう。早朝。冷たい黒の屋根を建て、内部をハンマーで調整___調律する。朝食はパンに自然の甘味料をベッタリ塗り、大きな口に放り込む。その後はランニング。これをしないと僕が調わない。
夕方まで結局、いつもとやることは変わらなかった。夕飯くらいは蕎麦に変えてみようかな。

 @caffe_Rin_holic
張りつめて、微かな息遣いもノイズになる空気の中で次の札をよむ。しじまを切り裂くように、音が連なり言葉になる。言葉が紡がれ歌になる。格調高く響き渡る和歌は千年の時を超えても色褪せない。
私の声を媒介にして、かの世界に生きた歌人の想いを届けているのだと思うと、密かに胸が高鳴った。

黒子徹 @kuroko_toru2
半分開いたドアに、風に乗った落ち葉が。光る海が見えた。引き出しを開ける音が響く。古びた壁掛けの時計は、蔓が巻かれていた。人型に白いテープが目立つ。三・四・五・六。麦わら帽の女性の人影と、一通の置き手紙。調査報告書。半分開いたドアに、人影が。涙の落ちる音は、波音が消し去っていく。

時雨霜月 @seitayozra
今日、1人の名優が看板を下ろす。最近は活躍する事もなく不調らしいと色んな噂が出回り、世間もやっぱりかというような目で彼を見ていた。それでも1度は彼の芝居に魅了された人達。そんな彼の最後だと分かれば劇場にはたくさんの人が集まる。
舞台のタイトルは【幕開き】
本人がそう付けたのだった。

武川蔓緒 @tsurutsuruo
ロココ調のエレベーターを出ると、白いプロムナード。まるで雲にのるみたい。人々は棒を掲げ、あらゆる色の光る珠を吊りさげ歩む。知る顔知らぬ顔がまざりあう中、誰もがすれ違いざま微笑み乾杯みたいに珠を打ちあう。私もいつの間にやら緑のそれをもち。最初に眼があった警官のおじさんと、乾杯する。

武川蔓緒 @tsurutsuruo
ちょうど善い温度の珈琲を飲んだのは何時だったかしら。いつも喉を焼きそうなほど熱いか、生温い。今宵は貴方を見送ったわ。少しの出張か、月への旅か、知らない。僅かな会話と、共に通路を歩む靴が、嬰ト短調を刻んでた。独りきりの展望デッキに漂う音さえ、その続き。やはり冷たいの、今夜の珈琲も。

桜海冬月(サイトからの投稿)
壊したピアノが目の前に転がっている。流れる血が腕を伝っている。
大切なピアノだったのに恋人が浮気していたショックで壊してしまった。
でも不思議と悲しくもなければ痛くもない。感情は奇妙に凪いでいる。
全てを投げ出した失意の底で天井を見た。
調律はもう要らない。ピアノも恋愛も私の心も

桜海冬月(サイトからの投稿)
「お母さん、どうしてお鍋に昆布を入れるの?」
幼かった私は昆布を入れる意味を知らなかった。お味噌にみたいに色が全く変わることもなければ、食べて美味しいものでもない。
「それはね、昆布から出汁が出て、お味を調えてくれるからよ」
思い返せばこの時から、私は出汁にとり憑かれていたのだ。

メイファマオ @molmol299
小指に唐突に結ばれた赤い糸の先には良いなと思っていた同僚の姿。悪くないと浮かれていると彼女の小指にもう一本黒い糸が巻きついている。辿って調べると既婚の上司の小指に黒い糸が。
悪縁は早めに切ってやらないと、と赤い糸を絡めて黒い糸を絶つ。
運命は赤か黒か。
うねる糸は迷ってたなびく。

武川蔓緒 @tsurutsuruo
宿題なの。夜の美術館の彫像たちが、何をしているか調べるの。男の裸像は娼婦の画にはいって耳に囁き口説いてる。女はゴブランのタペストリーを羽織り庭を徘徊。黒の石で彫られた蛸はキャバレーで蕩ける……面白い? いえ、見つかれば私は彫刻にされるし、楽しんじゃ駄目よ。義務教育だもの、これは。

武川蔓緒 @tsurutsuruo
「私と出逢えて幸運ね」女は小さなハープを調弦する仕草だけ麗しく。荒れ狂うプレイ、山を空を歪ます不協和音。村人達は怖れ近寄らず、通りかかった旅人達は泡を吹き失神。「誰も素直に好きと言わないわ」女はハープを止めない。星の真裏に住む黒マントの男が女の音楽を抱き留めに現れるのは、72年後。

一見 才 @SI_hitOmi_NoveL
毎日靴を直す主人。そんな主人の靴はクタクタのボロボロ。ずっと傍で見てきた。糸は切れ、革は剥げている。僕達は話し合い、主人が寝ている夜に作戦を決行した。靴底を取り、中底を加工して糸で縫う。時間がかかる作業だけれど、皆がいればあっという間さ。新調した靴、気に入ってくれるといいな。

一見 才 @SI_hitOmi_NoveL
仕事帰りに月へ寄った。来年の主役に餅をついてもらい、私はクレーターの鍋に蕎麦をぱらぱら茹でた。相棒のトナカイと共に、散りばめられた自然のオーナメントを眺めながら宇宙で今年を締めくくる。月の裏側を調査する宇宙飛行士さんもやってきた。年を越すためのプレゼント、温かいうちに召し上がれ。

ナヲコ @nawoko140
ターンオーバーのサイクルは体の部位によって異なります、と化粧品カウンターの女性は言った。皮膚はひと月、内臓は数ヶ月、骨であれば数年かかると。あなたの体を隅々まで調べて、細胞をひとつひとつ検分し、あのときの言葉を見つけだしたい。せめてその美しい背骨の中に、真実は残っていないのかと。

12月30日

粟生深泥 @ao_midoro_97
狂ってしまった調べが聞こえる。それは、調子の狂った不協和音。
闇が覆う世界で彼らは抗うように歌い続ける。
「こんな世界の音楽にいったい何の意味があるのですか?」
けれど彼らは泥だらけの顔で笑う。
「きっと明日には希望の唄に変わるから」
歌い手たちは絶望を調律し、未来の音色を調べ出す。

たーくん。 @ta_kun0717
お調子者と一緒に下界に来た。
仕事以外で来るのは初めて。
最初は不安だったけど、今はわくわくでいっぱいだ。
でも、神様と人間に見つからないようにしないと。
真逆の僕達が友達ということがバレたら、なに言われるか分からない。
手を繋いで雲の下を飛ぶ。
天使と悪魔の、大冒険が始まった。

時雨霜月 @seitayozra
『西洋竜、出没注意』
「という看板を見たが、あれはお前のせいか?」
仕事から帰ると家の前にコレが倒れていた。人語は伝わらないと思いつつ、体調が悪いのかと問いかけてしまうが反応はない。
これでは、らちが明かないと適当に手当てやご飯を与え続けて数ヶ月……気づけば村の名物竜になっていた。

さく @saku_sakura394
新品のパジャマ、歯ブラシ、枕カバー。心を込めて用意する。調った客間を見渡し満足する。あとは一人暮らしの寂しい心を癒やしてくれる猫の調子だけ。明日は息子夫婦と1歳の孫が帰省する。何が食べたいかしら。寒くないといいけれど。「子に猫アレルギーがある」…駅前のホテル、まだとれるかしら?

森戸林 @Rin_Morito
調査の結果、かつての日本人は現代日本人の殆どが持たない臓器を有していたことが分かった。
その臓器は脳に働きかけて上位の存在や架空の理想郷を信じさせ、彼らの思考や行動を制約して社会に規範を齎したという。
その臓器を失った今、日本人はそれらを信じない。ただ僅かな慣習だけが残るばかりだ。

彩葉 @sih_irodoruha
キラキラと音がして夜空を見上げると、星が降りはじめていた。ツリーに飾られた星が呼応するように光る。サンタクロースは世界中の空を飛んでいい、という契約を結ぶ調印式が終わったのだ。星降る音は鈴の音に変わり、家々は赤いリボンをつけたリースを吊す。今年も皆に幸せが届くことを祈りながら。

ヒトリデカノン(サイトからの投稿)
運の分量は決まっているのではないだろうか。運の良さや運の悪さの強さはそれこそ持って生まれた運でしかなく。熱心に寄付をするお金持ちは運のバランス感覚に優れているとも言えるのではないだろうか。いいことがあったら悪いことが起こる前に良い行いをすることで不運を回避するという調子だ。

ヒトリデカノン(サイトからの投稿)
調査した結果、運の分量は決まっているようだ。しかし、運の質も運によって決まっているため、結局のところ運の良さというものは、外から見ただけでは幸福度は測れないようだ。重要なのは運の良さと悪さをうまく乗りこなすバランス感覚なのかもしれない。そのバランス感覚の良さも、運によって……。

タロタロ・セイ @akaiaoku
「ホーケキョケキョ!」…待っていろ…「あらウグイス?とっくに絶滅したと思ってた」…我が調べが完成すれば…「でも随分下手ね。教える仲間がいないのかしら」…滅ぶのはお前達だ…「まあ鳥や動物が滅んでも私達には関係ないか」…森に行くとわかる。動物達は誰も邪魔しない。皆、完成を待っている。

水原月 @mizootikyuubi
ぽーん、ぽーんと琴を調弦する音が小さく響く。囁くような音だ。息をひそめていると音は止み、襖が突然開いた。珍しく、開きっぱなし。僕は部屋に忍び込み、懐かしい琴に触れた。気付けば、夢中になって弾いていた。
「座敷童子の春の海か。縁起がいいねぇ」階下から、宿の常連さんの声がする。

もとし @motobaritone
未確認の惑星を見つけた。調査隊は一斉に調査にのりだしたが、判った事はごく僅か。「人間」と言う生物が居ること、「愛」と言う不可解な概念があること、それから「怒り」と言う感情があること。人間も愛も怒りも我々宇宙人には理解しがたい。モヤモヤした時は月と交信するのが定番。「地球って何?」

神崎鈴菜 @suzu_nasuzusiro
妻が病気を患ってから、食卓に調味料が置かれるようになった。「味が薄いでしょうから、使ってくださいね」そう言われたが、塩分を制限した食事を摂る妻に悪いと、十数年の闘病生活の間一度も使うことは無かった。今、独りきりになった食卓で後悔している。賞味期限が一つとして切れていなかったのだ。

藤原和真(サイトからの投稿)
人差し指に込める力が、紅たちの諧調をゆるやかに変えていく。スプレー缶のノズルが吐き出しているのは、塗料であると同時に記憶だ。粒子の群れが空間を散り、外壁材をキャンバスにする。キックボードを加速させる。涙と警告音を置き去りにする。今はただ、街に彼女の残滓を刻み込めれば、それでいい。

12月29日

迷路メィジ @Akumademeiji
薄汚れた空、いつものショッピングセンターに寄る。ジャズCDの調べが軽やかなオレンジ灯のお店で、洒落たインスタントコーヒーを買う。1Rの部屋に帰ったら、ソーサー付きのカップで淹れる。買ってきたチキンとサラダも並べて。
いまいち決まらない暮らし。でも、憧れに手を伸ばし続ければ、きっと。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
冬の山小屋は耳が喜ぶ。薪ストーブの、粗朶が燃え始める音、鋳鉄が伸びる音、薪が崩れる音。
夜、星々が歌っている。凍てつく寒さの中、硬質に輝く微かな音を捉えると耳は鋭敏になり、その調べを慎重に探る。が、旋律が聞こえ始めた途端、寒いのか恥ずかしいのか、耳は真っ赤になってしまうのだ。

石森みさお @330_ishimori
なんだか体調が悪いなと思っていたら感染症に捕まった。冬至に柚子湯に入らなかったせいかしらなどと熱に浮かされながら思う。幸いなのは友人や実家からの支援物資が潤沢に届くこと。大丈夫?の一言に心潤むこと。孤独な自宅療養が繋がりを可視化するなんて現代的。一人ではないのだなぁ、咳をしても。

トガシ @Togashi_Design
笑顔の調達が難しくなった。昔は世界が笑顔で溢れていたのに、今じゃ周りを見渡せば、眉間にシワを寄せたしかめっ面ばかりだ。廃業の危機に瀕した笑顔屋は、どんな顔も笑顔にする「笑顔アプリ」を開発した。みんな「こんな役に立たないアプリ、どこの暇人が開発したんだ?」とバカにしながら笑った。

たーくん。 @ta_kun0717
調合師として、小さい町へやってきた。
医師がいない町なので、手厚い歓迎を受ける。
適当に薬を調合して渡せばいいだろう。
ある程度稼いだら町から離れるつもりだ。
日々、町の人から沢山感謝をされ、町のために医師を目指すようになった。
詐欺師だった私でも、こんなきっかけで変われるんだ。

りんか なゆ @rinkanayu
大好きなあの人へのプレゼント。心を込めて作った手作りお菓子。まだ慣れていないから、一から調べて、何度も何度も作り直して、ようやく完成したの。私の全てを込めた、世界でひとつだけのもの。そう、私の全て。 だから渡されたらしっかり受け取って食べてね。あなたの中で私が幸せになれるように。

鈴木林 @rinhayashi_tw
譲り受けた調度品は、机にもなるし椅子にもなる。明かりにも、ペン立てにもなった。枕として使ってみたら耳元でグルルと暖かい音をたてる。翌朝外に連れ出してみると、キャスターをゴロゴロいわせて進んだ、と思ったら転んで、その拍子に何かを吐き出した。しまいこんでいた「いたい」という声だった。

若林明良(サイトからの投稿)
私の仕事は塩の調合。天然色素で染めた塩を瓶に詰めてゆく。外から見てパンダやこけしになるように。素敵でしょ。ある日老夫婦から幼女の写真を預かった。人の似顔絵は難しい、まして白黒の写真だ。何とか期限に間に合った。恐る恐る差し出すとにこやかな笑顔。写真と交互に眺めながら娘も喜ぶわ、と。

若林明良(サイトからの投稿)
私の名前は調子(ちょうこ)。父がつけた。人生いつもよい調子って意味なんだって。父はかなりのお人好しかつお調子者で借金ばかりしてきた。こんな変な名前、父をまじで恨んでる。名前の印象で自分もそう思われたら嫌なので努めて糞真面目に生きてきた。今日改名する。用意周到の周子(しゅうこ)に。

もとし @motobaritone
世界をウイルスが飲み込んだ。自宅待機で大好きな君との時間も激減した。良く笑っていた君の顔から笑顔が消えた。数少ない会話も調子が出ない。そんな中、口が見える透明マスクが発売された。耳の聞こえない君にこれからは口の動きで前以上に想いを伝えよう。囁きたかった愛の言葉をはっきりと大声で。

いまえだななこ @na2na1ko6
君の涙は美しくとめどなく溢れ、僕は見入ってしまう。
無理もない。大事な猫があんな無惨に……
「何笑ってんの」
おっと失敬、気にしないで。
新調したナイフの切れ味は素晴らしい。
思わずニヤけてしまうのを止められないんだ。

さあお墓を作ろう。穴を掘るのに集中して。
振り向いちゃ駄目だよ。

たーくん。 @ta_kun0717
調べものがあり、図書館で本を探していた。
探すことに夢中になりすぎて、女性とぶつかってしまう。
謝るために女性を見ると、言葉を失うほど美しかった。
謝ることが出来ないまま、女性は立ち去る。
本を探すことをやめ、女性のことを調べることに夢中になっていた。
人生初めての、一目惚れだ。

黒子徹 @kuroko_toru2
人参を切る任務を言い渡され、途方に暮れた僕に、手を差し伸べた女。三限目の調理実習。「誰?」「佐々木です」包丁を握った。前髪が長すぎる。それは突然やってくるのだ。手が重なったとき、思わず審判を探した。サッカー部である。完璧な仕上がりの豚汁だった。あれから数ヶ月。まだ空は青いまま。

雨琴 @ukin66
枠なしのテキストボックスを126ページ分。Wordで1ページずつ手入力していく。便利な機能があっても不器用な私に使いこなせないなら仕方ない。泥臭いど根性。正攻法こそ成功法。なんて、やり方を調べても理解できない情弱の遠吠えだけどね。素直さじゃないの。愚かなの。ぐなおって言葉があったらなあ。

雨琴 @ukin66
母の父が他界したとき、ケーキ屋にキャンセルの電話を入れた。「もう我が家はクリスマスはできない」と言っていた。七回忌。お焼香の回数を調べて、あの頃知り合ってもいなかったカミさんと座る。坊主が帰ったあと、私はケーキを受け取りに行った。元通りとは言わない。やっとクリスマスを取り返した。

雨琴 @ukin66
聞き覚えのある声がした。不機嫌なときの母の声だ。洗濯物が乾かないだけで文句を言う人だった。誰もがスマホを持ち歩くようになって、今では耳元にかざさずに通話できるようになった。私の世界とあなたの世界は重なっているけれど。全く別の景観をしている。いみじくも世界の統合に失調し続けている。

雨琴 @ukin66
どんな大人になりたかったのか、もう思い出せなくて。ただただ「働かざる者食うべからず」と信じていた。引きこもりに眼差される視線は生温かく。気持ち悪い。けれど誰もがそうとは限らず、暖かい言葉をかけてくれる人もいた。さながら「同病相励ます」と。調剤事務もまた、薬なしでは生きていけない。

雨琴 @ukin66
調理実習で餃子を作ったときだ。フライパンに並んだ餃子に、水を1/2カップ。蓋をして蒸し焼きにするはずが。なんで俺が書き間違えたプリントを見るかなあ。1カップ入れたら水餃子みたいになってたね。お前自分の確認したら合ってたのに。おかげで今でも餃子を作るとき、水の加減を間違えたことないよ。

秋透清太(サイトからの投稿)
朝の冷たさで満ちたホームに電車が走り込んでくる。心臓の鼓動が急に大きくなって、胸が痛む。朝目が覚めた時や電車に乗る時は、いつも胸が苦しくなる。嫁と娘の笑顔を思い浮かべて、ネクタイを少し緩める。どこかで心を調律したいのに、その時間も気力もない。扉が閉まる直前に、電車に乗り込んだ。

秋透清太(サイトからの投稿)
身長を抜かされたのはいつだったろうか。廊下を歩く息子の背中はとても大きい。玄関扉が開いて、冷たい空気が肌を刺す。「ちゃんとご飯食べて、体調に気をつけてね」いつか来るこの日を想像して何度も考えたけれど、結局は月並みな言葉しか思いつかなかった。「行ってきます」そう言って、息子が笑う。

秋透清太(サイトからの投稿)
最後の段ボールにガムテープをして壁際に寄せる。カーテンを揺らす風は驚くほど爽やかで、差し込む正午の陽はとても優しい。台所からは、彼女が料理をする音が聞こえる。包丁でまな板を叩く音、調味料の蓋を開ける音。この音が好きだったのだと、今更ながらに自覚する。もうすぐ、トラックが到着する。

秋透清太(サイトからの投稿)
久々に顔を合せた彼女はやはり圧倒的に綺麗で、現実からはみ出したように輪郭が濃く見える。なぜ僕の前から突然姿を消したのか。真相を知りたいのに、今は他のことを聞かなければならない。「なぜ被害者を殺害したのですか?」取調室に木霊した問いに、彼女が冷たい笑顔で答える。「貴方に会うために」

秋透清太(サイトからの投稿)
正午の鐘を聞きながら、カップ麺に湯を注ぐ。クラスメイトは今頃、調理実習をしているはずだ。卵アレルギーの僕が参加してしまうと、その班だけ三色丼が二色丼になってしまう。周りに気にするなと言われても、僕は気にしてしまう。だから学校を休んだ。立ち昇る湯気をただ眺める。三分はまだ経たない。

雪菜冷 @setsuna_rei_
「素敵な花」盲目の友人が語るも広がる無機質なアスファルト。「麝香のような香りがする」調べるも鼻のもげる排気ガスだけ。ポツリ。空の涙。空気の綿をなぞるように水滴が花の輪郭を描く。認識に続く麝香の囁き。手を伸ばせばパチン。シャボン玉が壊れるように花は立ち消え、強まる雨が垂直に落ちた。

森戸林 @Rin_Morito
夢が商品化された。眠っている時に見る夢ではなく、目標とするほうの夢だ。
今では誰もが、将来の夢を売買している。
「新調したんですよ」
彼は言った。15年志した小説家の夢を買い換えたそうだ。
「どうして小説家なんて目指してたのか、もう忘れちゃいましたよ」
彼の夢は、酷く高く売れたという。

詠人いろは @you_of_stella
今夜もつかの間の共演が幕をあげる。息子を抱っこしながら背中をとんとんとん、すると小さな手で私の背中をとんとんとん。ほのかな振動は愛しいリズムの和音となって刻まれる。その右手には眠りへいざなう調べがあるという。それは代々受け継がれてきたらしい。でも誰も教えて貰ったことはないらしい。

12月28日

千振藍晶 @10002riranshou
インターネットが普及して何でも調べられる世の中だが、だからこそ調べてはいけない言葉もある。知らずにいたほうが幸せな真実は沢山ある。避けて通れる不幸は避けるべきだ。知ってしまったら最後、君はもう知らなかった自分には戻れない。彼らは調べ、知り、人の残酷さ恐ろしさに耐えられず発狂した。

ヒトシ(サイトからの投稿)
冬晴れの庭に立ち、欅の老木越しに青空を見上げる。降り注ぐ悠久の太陽と、地球を巡る季節風の冷たさ。小鳥が落葉の中に餌を探す音が緩やかな調べを奏でる。残り葉は優雅に舞い、音もなく着地して眠りに就く。それぞれの生命がそれぞれの時間の中で、この小さな空間に集い、わたしの人生になっていく。

夏見有 @you_natsumi
東京に住むうちに寒さに弱くなっていたことに気づく。久々に帰ってきた地元は芯から震えあがるようだった。
高校時代の友人との待ち合わせに向かうと、先に来ていた彼がこちらに気づき大きく手を振る。白い息を吐きながら俺を呼ぶ声の調子が変わらないから、俺も少しだけあの頃に戻れた気がした。

pokazo @pokapoka_pokazo
調整役というのは辛いもので、常に細心の注意を払っていなくてはならない。たとえ自分の作業が残っていても、口論と見れば飛んで行かぬわけにはいかない。
「見て、パパとママの絵を描いたよ。」
「まあ、上手!」
「ケンカは辞めて皆でディナーに行こう!」
やれやれ残りの宿題は徹夜になりそうだな。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
「自分と未来なら変えられるよ!」かの精神科医が言ったようなことを調子良く言う兎が、群青を飛び跳ねる。シロツメクサの中で四葉を探す私はその姿に駆けだした。世界は広く、ほどなく兎は見失ったけれど失った訳じゃない。憧れとも初恋とも一言で呼ぶことのないこの気持ちは、今も大切に飾ってある。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
『お調子者』彼は周りからそう言われていた。でも私は知っている。彼が裏では苦しんでいることを。自分だけは解っていると思っていた。思っているだけだった。私が彼を解っていることを、彼は解っていないのだから。たった一人で抱え込んだまま彼は消えた。言葉を掛けるために私は今も彼を探している。

よつ葉 @Kleeblatt3939
壊れた星を拾った。欠片を繋ぐがあちこち隙間が残る。調べたら蝋で繋いで良いらしい。封蝋用の蝋を溶かして隙間を埋める。金継ぎのように星を繋ぐ蝋が、偶然中央あたりで笑顔みたいになった。「可愛くなったよ」そう言って、直した星を空へ放った。今でも時々あの星が見えないかと空を見上げている。

黒子徹 @kuroko_toru2
200色のカラフルな香水を売る調香師。檸檬に木屑の成分を混ぜた香水に一ヶ月かかった。仲直りの印。小瓶に入れてプレゼントする。手編みの綺麗な緑色のカーディガンをもらった。きっと次の話題はここから生まれる。「すごいね」僕たちはいつも大切な感情を思い出す。結婚してから、三十年が経った。

友川創希(サイトからの投稿)
喫茶店で温かいコーヒーを飲んでいるが、なかなか芯まで温まらない。なぜだろうかと思ったがこの店内が寒いからみたいだ。どうやら空調が壊れているらしい。でも、接してくれる店員さんは温かくコーヒーとの相乗効果で段々と芯から温まってきた。

かっくん @kakkun4141
女心は難解だが、調べた知識を活かそうと思った。幸せな結婚生活のために。彼女の良き理解者になる。常に愛してると言う。細かい気配りをする。いつも聞き役に徹する。髪型が変わるたびに褒める。自慢の料理も振る舞った。そして、彼女の体重は見る見るうちに二倍になった。全く女心って…。

葉菜(サイトからの投稿)
私は寒い朝をゆっくりと起き温かいココアをいれていると、飼い猫が「ニャー」と挨拶をしにきた。私は「おはよ、虎丸。調子はどう?」と、虎丸の頭を撫でた。虎丸は嬉しそうに喉をならした。「今年も今日で終わりだよ。お疲れさま。来年も宜しくね、虎丸」私と虎丸。来年もゆっくりまったり生きていく。

藤和工場 @factouwa
祖母が、狐の尻尾で庭をなぞった。「あったかくなったらどうなるか、調べておいてね」笑顔の意味が知りたくなった。筆跡は春になると、緑の道に。それは夏小さな森になって、秋に燃え上がり、冬、尻尾になる。その魔法を受け継いで、今年も庭をなぞる。おばあちゃんは魔女だったんだよ、小さな探求者。

12月27日

もとし @motobaritone
いつも寡黙な母が激怒した。『あなた!スマホばかり触らないで勉強しなさい!』無理矢理取り上げられた。試験勉強の為の調べ物をしていただけなのに。その日以来、母は僕のスマホを使って散財するようになった。「母さん!スマホばかり触らないで家事してよ!」久々に怒った。スマホが無いと何もできない。

チアントレン @chianthrene
これじゃ破調だと、王都出身の友人が言った。耳には人一倍自信があったので目の前で読み上げてやると、ならばこう綴れと赤を入れてくる。同じ意味の標準語を援用したと考えているらしい。そもそも国の言葉でもなく、綴り通りに発音しないのはどちらかというと標準語なのだが、事は王詩故に彼が正しい。

あやこあにぃ @ayako_annie
足元を見ると自分の影が家出していた。驚きと共に納得する。だから心の調子が悪いのか。
笑顔でいろ。転んでも前を向け。立ち止まるな。沢山のhave toが並び立つ世界は、強くあれと私たちにせまる。でもさ、たまにはさ。
全部放り出して帰宅する。扉の隙間から顔を覗かせる影を、きゅっと抱きしめた。

チアントレン @chianthrene
星々が流れてくる。僕もいつか流した星だ。あれは先月だったっけ……え、もう31日? しまった、今月はひとつも出していない。ギリギリだが出せないか……皆の星々からじゃお題が判らない! 主宰の垢はタグ検索で……埋もれてるな……あったぞ、固定は違う、どこだお題は、そうだメディア欄、これだ調

のび。 @meganesense1
「今日も絶好調〜」と妻が歌っている。「何の歌?」と聞くと「絶好調コーラの歌」と答える。何も分からない。さらに聞けば彼女の地元では有名な飲み物のようで「味はプリンの黒いところで、コーラって名前だけど炭酸飲料じゃない」らしい。「美味しいの?」と聞く。「絶好調になるよ」何も分からない。

宇呂椎太 @UroSheeta
記憶の調整をお願いします!別れた彼女を忘れられなくて、こんな思いをするぐらいなら存在自体を記憶から消したいんです。費用はいくらでも構いません!え、無料?保証期間内だと再調整費用がかからない?あ、彼女がいたという記憶を作ってもらってたんですか。それなら今日来た記憶を消してください。

hazuki @pmableo
「体調どうですか?」「調子はいいよ」始めは言葉のまま素直に受け止めていた。ある日聞き方を変えた。「痛みはどうですか?」「ずっと変わらないよ。動くと痛いよ」変わらない症状は調子がいい事にカウントされていた。私は大きな勘違いをしていた。「調子がいい」は医療者への謝辞のようだと感じた。

宇呂椎太 @UroSheeta
調理実習の課題は味噌汁。超定番。ただ、クラスに1人は不器用な子が必ずいるんだよなあ。

美味しくないって、笑ってごめんね。
センスないなって、からかってごめんね。
リベンジするって息巻いている君に、絶対無理だって否定してごめんね。

今では毎朝美味しくいただいています。ありがとう。

冨原睦菜 @kachirinfactory
子供の頃、外国の物語で覚えた大金持ちの家。それが第一印象。なによりも目を奪われたのは、棚板が頑丈そうな本棚。本を詰め込み過ぎ、重さでダボがグラつき、棚板の真ん中が撓む私の部屋の合板品とは訳が違う。活字中毒垂涎の調度品。自分の本を並べる妄想をした時点でもう負けを認めざる得なかった。

峰庭梟 @sss_books
風が荒野に問いかけました。「君は覚えているか、あの旋律を。恋人たちの囁きを。子どもたちの笑い声を」荒野は答えました。「もちろん。太陽は彼らに微笑みかけ、雲は優しく彼らを包んでいた」「それもずいぶん昔のことだ」「だが、まだ人間たちの曲は終わっちゃいない。いつか、転調の時が訪れるさ」

のび。 @meganesense1
公彦はノロノロと布団から起き出した。なぜか毎年24日と25日の境目に目が覚めてしまう。今年で35歳、サンタはもう長いこと来ていない。SNSを眺めているとサンタになりませんかの文字が目に入った。調べてみるとチャリティーで児童施設に絵本を贈れるらしい。なるほどと公彦は思った。俺か、サンタは。

れん(サイトからの投稿)
灰色の空に貼り付いた高層ビル群を目で追いながら、コートを刺す冷気の街を歩く。こんな時はモノクローム調の時代へ自ら逆行する。すり傷だらけになるまで遊んで、こたつで夕飯を腹いっぱいに食べれば親に褒めてもらえたあの頃へ…生意気な鼻垂れ小僧は、私の心に少しの暖を送ってくれるのだ。

ダニー @5FUmQge6xskyxmC
換気のために窓を開ける。カーテンを押し上げる冷たい風に乗って聞こえてくるのは、調子外れの誰かの歌声。下手くそな歌に合わせてギターを弾くと、隣家からピアノが参加してきた。何処からかベースとドラムもリズムを刻み出すと、心なしか歌声も高く弾んでいく。でも、やっぱり下手くそだなぁ。

あまくに みか @ten1092ten
君の開きかけた唇が閉じられた時、太陽が雲の後ろへ隠れたのと同時だった。スカイグレーの雲を、黄金色が縁取っていく。空はまだ青いのに、終わりへと近づいていく。調子の悪い自転車も、枯れすすきを揺らして過ぎ去って行った。黄金色が熟れていく。何も伝えないまま、手だけを繋いだままで。

友川創希(サイトからの投稿)
私は油の引いてあるフライパンに割った卵を入れる。卵がその世界で少しずつ違う姿へと変わっていく。少し待つと半熟の卵焼きができた。私はそれをお皿に移す。なんてことない調理の時間だけれどもそれが私に今日も朝を知らせてくれる。

友川創希(サイトからの投稿)
俺の4歳の娘が俺の財布の中を覗いてきた。何やってるんだと思って声をかけてみたが、どうやらお父さんが無駄遣いしてないか調査をしているらしい。小さな探偵さんのようだ。たしかに先月は少し使いすぎでお母さんに借りたしな。しっかりした娘だな。

かっくん @kakkun4141
妻の外出が多くなったので、不審に思った俺は妻を尾行した。
やはり男と会っていた。
覚悟はしていたが、ショックは隠せない。
俺は相手の男に詰め寄り怒鳴った。
男は至って冷静で、俺に名刺を差し出した。
「探偵…」
妻が冷たく言い放つ。
「あなたの浮気に関する調査を、一緒に聞きましょうよ」

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