きんねんまれにみるの現実逃避

(80才、三郎の場合)

近年稀に見る正月を過ごしておる。
ことしの正月は、おもちを食べない代わりに、わしは駄菓子屋の餅を買ってきた。
ほらあの、ピンクの色した小ちゃい餅の菓子で、つまようじが入っているやつ。
孫が食べているのを見て、コレが、わしには合ってるカモと思った。
もちは食べきれないし、もう歳だから
あれで十分じゃ。甘くてうまいし、胃にもたれんし。
なにより喉に詰まらなくて済む。
妻はきなこもちが好きじゃから、1人で普通の餅、食っておる。わしは横でちまちまと駄菓子の餅を食べるお正月。
近年稀に見る正月じゃった。

(31才、太郎の場合)

近年稀に見る年越しと、正月休みだった。
仕事納めの後、何年ぶりかに実家に帰省し、ぐうたらと過ごしていた。
大晦日の夜、あと5分で年が明けるタイミングで、突然腹痛におそわれ、
腹を抱えてトイレへ。
久々の実家の料理によほど飢えていたのだろう 食べすぎだった。
意地でも1分前にはトイレから出るぞと思ったが、ダメだった。
頻繁に襲ってくるはらいたに逆らうことはできず。
トイレの外で聞こえる除夜の鐘。
テレビを見ながらおめでとう〜と盛り上がる家族の声が小さく聞こえる。
俺はそれをしかめっ面で、うなりながら聞いていた。
今年は一人暮らしの孤独な年越しから逃れたく、家族と共に笑顔でハッピーニューイヤーの瞬間を味わうつもりだった。
それが今年はトイレの中で苦しみの中迎えた。新年は腹痛とともに始まったのだ。
その後2、3日は腹をこわしたまま、布団の中で正月を過ごした。母親は不憫に思ってか、
俺にりんごを剥いてくれたり、雑炊を作ってくれたり、母の愛が身に沁みた。
その上、過干渉の母の言葉も身に沁みた
「太郎は今年は結婚できるかねえ」
またそれか、と思うも看病してもらってる身なので反抗できず。
力なく笑うより方法はない。
近年稀に見る年越しと、正月休みだった。

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