J-POPレビュー#10 懐かしのヴィジュアル系ソング7選

ヴィジュアル系(以下V系)は平成初期のXやBUCK-TICKらに始まり、90年代後半の音楽業界で一大旋風を巻き起こした。シーンのトップを走ったGLAY・L'Arc~en~Cielをはじめ、古株のLUNA SEA・黒夢、新参のSHAZNAらを中心にビッグセールスを記録、また多くのフォロワーとなるバンドがチャートにランクインした。
しかしながら、00年代前半はV系冬の時代に突入、ベテランバンドやブーム終盤に現れたdir en greyやJanne Da Arcなどを除くと青春パンクらに押される形でチャートシーンから退場していった。
00年後半になるとネオ・ヴィジュアル系という形で当時の若手バンドがチャートのトップとはいかなくとも、多くの固定ファンを獲得するようになった。シドやナイトメア、the GazettEなど大きな箱でライブを行うバンドも登場した。

海外のファンも多い日本特有の文化であるV系、長きに渡る歴史の中から90年代後半から00年代後半までにリリースされた曲をピックアップする。


1.「ONE-you are the one-」FANATIC◇CRISIS (1998)


オリコン最高位14位。長寿番組となった奇跡体験アンビリバボーの2代目EDテーマ曲。フォーライフレコードに所属していたバンドは珍しい。V系のボーカルはラルクのHYDEのような中性的な高い声が特徴のボーカルが多いが、FtCの石月努はどちらかと言うと少数派の、GLAYのTERUのような男らしいパワフルなボーカルである。個人的にはV系らしくないボーカルの名前も気になる。
このバンドのブレークのきっかけとなったこの曲は、高音域やファルセットに頼らず、ストレートな歌詞がしっかり耳に入ってくる彼ららしさの溢れる1曲。アルバムには「ONE-one for all-」とサブタイトルを変更して収録されたが、これらのサブタイトルはなかなかV系の曲には登場しないフレーズだろう。


2.「make love」PENICILLIN (1998)

オリコン最高位8位。個々のバンドメンバーも含め、比較的露出のあるバンドであった。前作の「ロマンス」が大ヒット。一般の人にはとっつきづらい曲調ではあったが、アニメタイアッブもあり世間一般の認知度もかなり高かったと思える。V系のイメージに嵌まったパフォーマンスと音でブームに一役買ったが、大事なのはその次である。
次作は、らしさとそうでない部分で勝負した実験作。一見爽やかなロックサウンドと浜辺で演奏するPVの画が入ってくるが、一般ウケが期待できないある意味ストレートなタイトルと歌詞である。結果的に前作の勢いが活かせたとは言えなかったが、ここまで大胆にギャップを狙った曲もあるまい。新境地を開拓した。


3.「With-you」La'cryma Christi (1998)

オリコン最高位10位。この曲で大ブレークを果たし、彼らの代表曲となった。FtCらを含めヴィジュアル四天王と言われていたらしいが、聞いたことがない。キリストの涙という意味を持たせたバンド名、ボーカルTAKAの高音域とまさにV系という要素を多く持ち合わせながら曲もハードすぎずポップさも兼ね揃えている。
"もう君なしじゃ生きられない"というサビ冒頭のフレーズが印象強いこの曲は、パッヘルベルのカノンをサンプリングしたシンフォニックな部分と、バンドやボーカルの力強さという静と動のコントラストが良い。曲全体にわたってTAKAの歌詞の発音の悪さ?が目立つが、そこが逆に癖になって良い。後に「without you」という曲が比較的すぐリリースされ、若干紛らわしかった。

4.「Colors」wyse (2005)

オリコン最高位70位の同タイトルのアルバム収録。V系冬の時代である00年代初期のデビューであり、結果的には世間に名を知られることがなく活動を終えた。個人的には地方局か何かでPVが流れていたことで知り、ブーム終焉後にもV系を追い続けるきっかけとなったバンドである。初期は髪色など90年代後半のバンドのそれと同じような派手なルックスだったが、比較的すぐに落ち着いた。
現在は活動再開しているが、解散当時のラストアルバムのリード曲となったこの曲は、解散の寂しさとは真逆のストレートに背中を押してくれる歌詞をこの界隈で珍しいツインボーカルが歌う。非常にキャッチーな曲が多く、この曲も例にもれず。もう少し早くにデビューしていれば日の目を見ていたかもしれない。

5.「さよなら雨(レイン)」メリー (2006)

オリコン最高位24位。歌謡曲テイストをロックに落とし込んだレトロックサウンドで人気を博した、00年代後半のV系復権時の代表的なバンドである。同時期には同じく歌謡曲テイストのあるシドも活動していたが、ポップに振れていったシドに対し、メリーはポップな曲も挟みながらもよりハードな方向性に進んでいく。ボーカルのガラは喋らず、習字で筆談するという独特のスタイルであった。個人的には昔見に行った代々木のフリーライブで整理券1番を引き当てたものの、FC優先だったため一般枠ではさほど見えなかったという記憶が印象強い。
メリーのレトロックといえばこの曲といえる。どこか哀愁漂うメロディをガラのハスキーボイス、イントロ・間奏と印象の強いギターのフレーズ等、メンバーのキャラクターも非常に立っている。歌詞の言葉選びもメリーの世界観が如何なく発揮されている。

6.「スマイル一番 イイ♀」アンティック-珈琲店- (2006)


オリコン最高位32位。ニャッピーo(≧∀≦)oのご挨拶でお馴染みの可愛らしいルックスの4人組。ファン層も他のバンドに比べより女性に偏っていた印象。2007年にギターの坊が脱退し、替わりのギターに加えキーボードが加入し5人組となったが、このDJ OZMAみたいなキーボードの加入で絵面がだいぶ変わってしまった。結成メンバーの脱退は非常に痛かった。
この曲を筆頭に、ポップな曲もバラードもアンカフェのダンスロック調の曲が多く盛り上がりやすい。タイトルは"いいオンナ"と読む。キャラクターや曲の一部はイロモノ感が否めないが、キラキラした歌詞の世界観は統一されており、よくよく聴くとしっかり曲も作り込まれている。これぞ咲き甲斐のありそうな1曲。


7.「神歌」Phantasmagoria (2007)


オリコン最高位32位。カルト的人気のあったV系カリスマ"神"ことKISAKIのプロジェクトの一曲。脱税など音楽以外でも名前が出てしまったKISAKIだが、ヴィドールや12012ら関与したバンド含め、ヴィジュアルも音楽性も一般のお客さんがつきづらいゴリゴリのV系である。 
幻のメジャーデビュー曲となったこの曲、サビの神々の下~というようなフレーズが延々と繰り返す洗脳ソングで、当時で言えばニコ動のMADなんかに上手く使えそうで、また非常にヘドバンのし甲斐があるだろう。驚いたのは、コアなファンしか手に取らないこの曲がオリコン32位に入ったことである。自分自身含め、確実にCDを買うようなコアなファンを多く確保していたということだ。


90年代のV系アーティストはGLAYのJIROのような派手な髪型や、SHAZNAのIZAMのような過度な化粧をしているメンバーが多かったが、見た目のインパクトは年々低下しているように思える。それでも、見かけだけでなく音楽性を重視しているバンドばかりであり、曲の世界観を表現する一環として化粧等が必要なもので、同じ見た目重視でもアイドルのそれとは異なる。
時代の変化とともに存在感が薄れつつあるV系がまた復権することを期待したい。

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