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北欧ウォーク 4 水上バスで訪れる音楽劇の世界 コペンハーゲンのオペラハウス 3つの王立劇場②

ニューハウン港の全景。奥の左手が水上バスの乗り場

コペンハーゲンの3つの王立劇場
コペンハーゲンの王立劇場は、ここで取り上げる音楽劇芸術中心のオペラハウス、150年の歴史を持つバレエ芸術の古典劇場、デンマーク語の演劇芸術劇場の3つ。どれも17世紀に掘られたニューハウン港の近くにあります。古典劇場はコペンハーゲンの劇場①を、演劇劇場はコペンハーゲンの劇場③をお読み下さい。
劇場のシーズンは8月末から長くて6月初めまで。

南から見たオペラハウス。水上バスは左の屋根の下に着く

★オペラハウス
この劇場は、デンマークの海運会社のエーピー・ミラー・グループ(日本でも港湾地区でMAERSKと書いたコンテナーを見かけますが、あの持主)が建造費を負担して、国に寄贈したもの。場所は、女王と皇太子家族が住むアマリエンボー王宮から幅180mほどの海峡を挟んだ対岸。4つの建物からなる王宮の、東側2つの建物の間の道を東へ向かうと、海峡の向こうにオペラハウスの正面入口があります。舞台デザイナーであるマルグレーテ女王を支える王室と、劇場文化との結びつきを感じさせます。それでいて建物は、船の後部をイメージさせる設計で、海運国家デンマークをアピールしています。設計はヘニング・ラーセン(デンマーク建築界の巨匠で2012年に高松宮記念世界文化賞を受賞し、2013年に没)ですが、エーピー・ミラーが注文をつけて、原案とはかなり違ったものになったといわれています。注文がどうであれ、とてもきれいに仕上がっています。

王宮前から見たオペラハウス

入口は、船の後部の部分で、一面のガラス張りです。2階に上がると、ガラス越しに海峡の向こうに王宮が見えます。行き交う船の姿も楽しめて、幕間のシャンペンの味がひときわおいしく思えます。古典劇場の2階にあるバルコニーをヒントに、広く大きく、高く明るくしたのでしょう。
建物は14階建てで、リハーサル室、衣装室など、全部で1,000の部屋があるそうです。劇場の観客席はオーケストラ・ピットの大きさにより1,492席と1,703席になり、王立劇場の中で最大です。2005年1月に「仮面舞踏会」、「オセロ」、「トスカ」からの抜粋でこけら落としが行われ、以来オペラとコンサート、時折バレエが上演されています。

水上バスから見たオペラハウス

わたしは、オペラを見る機会に恵まれていませんが、バレエを楽しんだことがあります。デンマーク王立バレエ団が育てた2人の振付家による、オリジナルの『白鳥の湖』。ロマンティック・バレエの伝統を大切にまもった作品で、最先端建築の広い舞台で伸び伸びと舞ってくれました。見やすく設計された座席で、首を横や上にせずにゆったりと最後まで楽しめました。

オペラハウスとニューハウンを往復する水上バス

オペラハウスへは、ニューハウンの端から水上バスが運んでくれました。わずか8分の航海ですが、岸から船に入る動きで、ああ違うところに行くのだと感じます。人が乗るごとに小さく揺れる。バランスをとろうとして、どこかをつかむ。至福のときへの期待がふくらみます。船は埠頭を離れ、水を切りながら回転し、波に乗りながら、向こうに浮かぶオペラハウスを、少しずつ大きくしていく。水面の上にキャンドルライト・カラーがふんわりふくらみ、わたしたちを迎えてくれました。
美しい建物で、2時間余の夢のような恋を満喫し、再び船に乗ります。ニューハウンの人工的な明かりが目に痛い。酔客たちの喧騒が聞こえてくる。現実の世界に戻ってくる。オペラハウスでの白鳥たちの群舞がよぎり、リズミカルな楽の音をくちずさんでいます。
船に乗ることで日常生活から切り離され、ゆっくりとアートの世界に入る。こんな設定の劇場に、わたしははじめて出会いました。いやあ、素晴らしい演出です。
 

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