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難しいからこそ真似できない 「美容室×ファッション」というアイデア

美容室とアパレル、本格的な両立を実現している店がある。

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エザキヨシタカさんが運営している「グリコ」は、原宿に店舗を構えるヘアサロンだ。美容院を運営するのと並行して、店内と独自のECサイト「グリコ クロージング」で洋服の販売を行なっている。

WWD JAPANの記事によると、アパレルの実績は「1回の買い付けで100着くらい仕入れる / 1カ月~1カ月半で完売 / 価格帯は8000~4万円程度」とのこと。平均単価2万円、原価率30%だったとして140万円が月間の利益となる。「現在は、仕入れた服を他のサロンにも卸している」とのことで、順調に売上を伸ばしていると言えそうだ。

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シャンプーやトリートメントなど、ヘアケア商品を販売している美容室は多い。それは美容室が「髪を切る / ケアする」といったコアサービスの「ついで」に、気軽にクロスセルが期待できるからだ。

ヘアケア商品は、おそらく売れなくても構わない。売れなくても、営業活動の中で「原価」として消費されるからだ。

それに比べて「服を売る」というのは全く別物だ。

服は、売れなければ廃棄にしかならない。安価に社販できるかもしれないが「服を取り扱いましょう」という理由にはならない。

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それでもエザキさんは、服を扱うことは「メリットしかない」と断言している。

WWD:好調の秘訣は?
エザキ:好調の秘訣は“美容師ならではのバイイング”にあります。一人のお客さまをイメージし、「あの人に着てほしい」と思える服を買い付けます。実際にそのお客さまが購入してくれなくても、「グリコ」のヘアデザインを気に入って通ってくれている人の嗜好には共通点があるので、他のお客さまが購入してくれる可能性も高い。美容師はお客さまのライフスタイルを熟知しているので、例えば「来月から新生活が始まるのでこれまでとは違うテイストの服を」とか「旦那さんに似合いそう」とか、美容師ならではの提案もできるんです。また、ヘアサロンの最大の強みは、お客さまが平均して2時間近くも鏡の前に滞在してくれること。服を取り扱えばその分会話のネタも増えるし、結果的に会話が服の宣伝にもつながります。服を購入してくれたら、それに合わせたヘアアレンジを提案してあげることもできるんです。
(WWD JAPAN「「美容室で服を売らない理由がない」エザキヨシタカ「グリコ」代表が語るサロンの収益力アップ術」より引用、太字は私)

SNSマーケティングというのがバズワードになり、マーケターの多くがインフルエンサーに(良くも悪くも)振り回されるようになった。

だけどその本質は「お客さんと接点を持ち、相応の接触時間を通じて、信頼関係を築けているか」というもの。従来のマーケティングとそれほど変わるものではない。共通の話題や関連トピックスで盛り上がりながら、美容室で1〜2時間を過ごすというのは、他業種からすれば、羨むほどの顧客体験だろう。

美容業界にいたら「当たり前」だと思うことも、顧客価値を高めていく絶好の機会として捉え、色々な取り組みに繋げていくエザキさんのアイデアは本当に素晴らしい。

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「美容室×ファッション」という組み合わせは「ありそうでなかったサービス」の典型例だ。

だが、それをしっかりと収支が成り立つレベルで実現するには、ファッションとコスメ両方に精通したセンスと、お客さんに満足してもらえるサービス(インフルエンサーとしての影響力も含めて)が欠かせない。

しかし、だからこそ、誰にでも真似できない手段とも言える。

新しいサービスを考える上で、簡単には模倣されないような仕組みを考えることはセオリーだ。グリコの取り組みをみると「模倣されない」というのは、途方もなくアナログだということに呆然としてしまう。

だが結局のところ、他人からいくらクレイジーだと思われても「絶対にやるぞ」と決めること、勇気を持ってリスクを受容することが最初の一歩なのかもしれない。

美容室には無限の可能性がある。エザキさんのアイデアや胆力、見習う点が非常に多いです。

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