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テトリスに愛を込めて。(配信作品「テトリス」を観て)

テトリスを5分プレイしただけで、今も夢にブロックが出てくる。クセになるというより頭から離れない。まるで詩ですよ。芸術と数学がシンクロしてる。完璧なゲームだ

冒頭5分のセリフを耳にしただけで、テトリスの真髄をリマインドさせてくれる。言うまでもなく世界で最も愛されているゲームのひとつ、テトリスを巡る物語が面白くならないはずがない。

そんな物語が、2023年3月末よりApple TV+「テトリス」として配信された。

ソビエトの公務員(当時ソビエトには「会社員」といった概念はなかった)であるアレクセイは、趣味が高じて、暇な時間をゲーム制作に充てていた。

たまたま制作したテトリスが、目利き(だが誠意と商才はない)によって買われ、さらに目利きによって巨大企業へと売られていく。主人公であるヘンクは、ビデオゲームのセールスマン。まだテトリスが世界的人気を誇る前に、日本における販売権を獲得。任天堂と契約するも、実は権利関係が複雑で、アレクセイの出身地・ソビエト連邦を巻き込みながら、様々に利権が移動していくという物語だ。

ヘンクが家を担保に銀行から融資を受け、任天堂と組んでテトリスを売ろうとする。しかしソビエト連邦をはじめ、イギリスのメディア王などと対峙しながらリスク承知で販売権を獲得していくという筋だ。

途中、登場するのは任天堂のゲームボーイ。

作品の時代の後世に生きる僕たちは、ゲームボーイが世界中でどれほど大きな影響力を持ったか知っている。(テトリスとの相性の良さも)

テトリスは大きく、「家庭用ゲーム(「PCゲーム」と同義になることも異なることもある)」「産業用ゲーム」「携帯用ゲーム」と、権利が分かれている。しかも国別に権利保有の有無も変わっている。つまり、

どの会社が、どの国で、どの権利を持っているか

によって、利益を得るポイントが変わってくるというわけだ。

実際のところ、テトリスはゲームボーイの登場によって、加速度的に認知度を上げていく。そのターニングポイントで、いくつもの思惑が交錯するという点に面白さがある。一筋縄ではいかないソビエト連邦の共産主義が絡むことによって、ちょっとしたサスペンスの様相も呈してくる。誰が生き残り、誰が殺されるか。ちょっとした「ハッタリ」も飛び交いながら、テトリスの行方は右往左往していく。

実話をもとにした物語ということなので、テトリス誕生を巡る物語のあれこれに色々な意味で胸が熱くなった。ゲーム愛好家でなくてもテトリスにハマった人は多いだろう。そういった意味で、とても間口の広い作品といえるだろう。

*

比較というか、どうしても頭を過ったのは2023年4月に上映された、NIKEとマイケル・ジョーダンの出会いを描いた「AIR/エア」だ。ビジネスシーンを描く作品として共通していることに加え、どちらも世界中でファンが多いプロダクト(会社)である。

「AIR/エア」もとても良かったけれど、個人的には「テトリス」の方が面白く感じた。共産主義のソビエト連邦も舞台のひとつだが、欧米作品にありがちな「アメリカvsロシア」という描かれ方ではない。(とはいえ、多少のバイアスはもはや不可避的な形で描かれている気はした)

どうして「テトリス」の方が良いと感じたのか。脚本の完成度は「AIR/エア」の方が比べものにならないくらい高い。というか、「テトリス」の終盤は結論ありきなセリフや状況設定によって、若干興醒めしたくらいである。

おそらく、「AIR/エア」の作り手がNIKEへ寄せる愛よりも、「テトリス」の作り手がテトリスへ寄せる愛の方が大きかったのではないか。愛がより大きいからといって作品の優劣が決まるわけではない。むしろ「AIR/エア」が時折示唆するNIKEの滑稽さのようなものは痛快ではあるのだけど、「テトリス」はゲームそのものや、音楽、ディストリビューション、当時の関係者へのリスペクトが随所に散りばめられている。

ちなみに、テトリスで使われているゲーム音楽は、作品の中でほとんど使用されていない。唯一、エンディングで流れた2秒だけ、原曲の面影を感じることができた。(あれは原曲なのか、原曲に寄せたリミックスなのかは判別できなかった)

ちなみに、現在テトリスの権利を管理している(「管理」という言葉が正しいのかは分からない)テトリス・カンパニーでは、Apple TV+での作品紹介をしている。なのでおそらく著作権の問題はクリアできた(原曲も、多用しようと思えばできたんじゃないかな)と推察するけれど、この辺の権利関係はややこしいので定かではない。

──

ということで、Apple TV+の「テトリス」の感想でした。

日本ではあまり加入者は多くないですが、近年のApple TV+はラインナップがかなり充実しています。余裕があれば、契約してみてください。

作品鑑賞後、テトリスをプレイしたくなったのでiPhoneアプリをダウンロードしたことも併せて付記しておきます。

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