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探せなかった「さがす」意味(映画「さがす」を観て)

映画館で観れずじまいだった「さがす」。公開日から約4ヶ月というタイミングでAmazon Prime Videoで配信。早速、視聴した。

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複数の「さがす」視点が交差する作品だ。

娘・原田楓の視点

まずは佐藤二朗さん演じる原田智の娘である、原田楓(演・伊東蒼さん)の視点から始まる。

なぜ父は失踪してしまったのか、何らかの殺人事件に巻き込まれてしまったのではないか。ときに辛辣な軽口を叩いてしまう父だが、その身を案じて奔走する。

自分の味方になってくれない教師、警察官などと決裂しながら、楓は次々と危険な現場へと顔を出していく。父を「さがす」ために、命の危険に晒されることも厭わない。(ちゃっかりボーイフレンドを拵える辺り、なかなかクレバーな女子中学生であり、その辺りを伊東蒼さんは上手に演じていたと思う)

連続殺人犯の視点、そしてタブーを破ることについて

連続殺人犯である山内照巳(演・清水尋也さん)は、殺すターゲットを執拗に「さがす」。

どうやら血に欲情する性格のようで、SNSを通じて「死にたい」とつぶやく人たちをハンティングし、死へと追いやっていく。

山内というキャラクターは、実在の事件の容疑者がミックスされて作られている。以下URLでは座間9人殺害事件への言及があるが、相模原の事件も踏まえていることが容易に想起できる。

これに関して個人的な好き嫌いをあえて述べてしまうが、僕は、片山監督の「悪趣味」に寒気がしてしまった。映画づくりのタブーを破ったことで「異才」という冠を手に入れたのだろうが、片山監督の倫理観はどうなっているのだろう。

何がタブーかというと、

・実在の事件を、観客が想起されやすい形で取り入れたこと
・上記の上で、実在の事件のいくつかをミックスして作品化したこと

という点だ。

もちろん他作品においても、実在の事件をフィクションにするという手法は取られることがある。

例えば今月公開された『流浪の月』。大学生が家に帰りたくない少女を自宅に招き、何日間も生活を共にしたという話。これが世間的には「誘拐事件」として扱われてしまったことによる「生きづらさ」を描いた作品だ。これに関連する事件も実際に起こっており、『流浪の月』の作者は、実在の事件の容疑者を肯定しているのでは?と思われるリスクを背負っている。

ただ「さがす」と明確に異なるのは、事件そのものに焦点を当てたわけではないということ。『流浪の月』で描かれたのは、事件として扱われたことによって、加害者と被害者がそれぞれ世間の「共感」を得られない状況(=孤独)に陥っていくという物語だ。前述した通り、製作陣も含めて、実在の事件を美化しているのでは?という否定意見が出るのも承知で、ふたりの間に生まれた絆に、普遍的な愛という意味を重ねている。

傍道に逸れたが、「さがす」の場合はどうだろう。

事件そのもののショッキングさをトレースし、容疑者の視点をただただ「異常」なものとして描いていく。最終的に主人公・智の視点が混じっていくわけだが、かなりバランスが悪いように思う。

タブーを破るには、タブーを破るための「それなりの理由」が必要なはずだ。だが残念ながら、「さがす」においては、タブー破りの意味も意義も見出すことはできなかった。

主人公の視点、救いがない心情を描くマナー

さて、物語の終盤に、ようやく主人公・智の「さがす」が描かれる。

彼の「さがす」は、様々な要素が複雑に絡まり合う。

ALSに罹患した妻、自殺幇助に加担している自分自身、山内への憎しみ、金銭的に余裕がない状況……。

その葛藤を、佐藤二朗さんが「圧巻の演技」として表現しているのは、この作品における見どころのひとつだろう。コメディ俳優としてのイメージの強い佐藤さんが、涙を流しながら事件に加担していく。そこに「そんな不合理な行動はしないだろう」と断罪するのは簡単だが、最終的に「金」と「憎しみを晴らす」の両面から、あっさりと悪人へと変わってしまった智の心情はどこまでも暗く、救いがない。何度も流す智の涙、どうしようもない状況に同情してしまいそうになる。

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しかし、その「暗く、救いがない」というのは、世相を反映しているはずなのだけど、どこまでも薄っぺらく見える。推測だが、スタッフは、佐藤さん以外の俳優をあまり信用していなかったのではないか。

この作品を「傑作」として評価する人もいるだろう。だが、この作品は映画のタブーを破り過ぎてしまっている。

フィクションだから、血や涙が流されたって構わない。だが、そこには納得できる理由がなければならない。

マナーを守らない作品に、「傑作」という評価を与えるのは、ちょっと早計に思えてしまうのだ。

──

多数の矛盾だったり、警察組織の描き方だったり(そこまで警察とは無能な存在ではないだろう)、フィクションとはいえ見過ごすことのできない粗さがあるのも事実だ。

楓のボーイフレンド・豊(演・石井正太朗さん)の存在感が、後半にかけてまるっきり消えてしまったのも残念だった。

(Amazon Prime Videoで観ました)

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