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負け犬とは、負けるのが怖くて挑戦しないやつのこと。(映画「リトル・ミス・サンシャイン」を観て)

チグハグで問題を抱えた家族が、アリゾナからカリフォルニアまでワンボックスカーで旅するロードムービー。

勝利至上主義の父、過度な神経症の母、喋らない長男、ダンスが好きで「ミス・サンシャイン」を夢見る長女、そして下ネタ満載のおじいちゃん。バラバラな家族のもとに、自殺未遂をしたゲイの叔父がやってきて、混乱に拍車がかかる中、長女にとって夢の舞台である全国大会への出場が決まるという話。

監督はジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス夫妻。本作が彼らに撮って長編デビュー作となる。

「リトル・ミス・サンシャイン」
(監督:ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス、2006年)


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「全員が敗者」という真実

かつて甲子園関連の記事を読んだとき、「高校球児というのは勝者は1チームのみ」というのを見かけた。確かに甲子園優勝を「勝ち」と定義するならば、優勝したチーム以外は全て敗者ということになる。

人生は甲子園ではないが、胸を張って「わたしは勝者だ」と言える人は少ないだろう。名うてのビジネスパーソンであっても、何らかのハードシングスは経験しているわけで。たくさんの挫折を経て、ひとつの勝ち筋を見出すというのが関の山だろう。

という前提のもと、本作の登場人物はいずれも絵に描いたような敗者である。だが、敗者が主人公ということである種の「共感」を得やすい構図になっているのは間違いあるまい。

アラン・アーキン演じるおじいちゃんの存在感

老人ホームでヘロインをやって追い出されるというめちゃくちゃなおじいちゃん。家でもあからさまに同性愛者を見下したり、一生のうちで女をたくさん抱け!と言い放ったり。

なかなかパンチの効いたおじいちゃんだが、孫へのまさざしは温かい。全国大会を前に弱気になった孫に対して、「負け犬とは、負けるのが怖くて挑戦しないやつのこと」と語りかけ、挑戦することの尊さを説いた。

そう、「リトル・ミス・サンシャイン」は人生訓を示す物語だ。それが退屈に感じる人もいるだろう。

しかし観る者を飽きさせないのは、ワンボックスカーが故障してみんなで押さないとギアが入らないとか、夢を追いかけてモーテルの若者のバイクを借りて飛び出していくとか、そもそも黄色いワンボックスカーが可愛いとか、そういったチャーミングな仕掛けで溢れているからだろう。何かしら観る者の「推し」ポイントが生まれる物語で、ちょっとだけ元気をもらえるホームドラマになっている。

アウトサイダーの美しさ

「リトル・ミス・サンシャイン」を獲得すべく、長女は意を決して舞台に立つ。だが演技指導をしたのはおじいちゃんで、なかなか鮮烈というか、大会に「ふさわしくない」ようなアウトサイダー的な演技に終始する。

でも、大会用に合わせ、演技点をコツコツと稼ぐようなパフォーマンスに誰がエキサイトするだろうか。2006年のトリノオリンピックで荒川静香がみせた「イナバウアー」は技術点には全く関係なかったそうだ。

それでも記憶に残ったのは、その演技がとてつもなく美しくチャーミングだったからに他ならない。

事実、長女の演技は大衆にはウケなかったが、アウトサイダーを愛する数人にはウケまくっていた。アウトサイダーは美しい、楽しい、チャーミングである。

あなたはアウトサイダーを愛しているだろうか。大衆が愛するものを無条件に愛してはいないだろうか。そんなスタンスのことを、一般的には「迎合」と呼ぶのである。

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本作の監督を務めたジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリスは、様々なアーティストのミュージック・ビデオを撮っています。

Red Hot Chili Peppersの代表曲「By The Way」もストーリー調でドラマティックで見どころたっぷり。ぜひ併せてご覧ください。

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