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どうやらあの子と自分は違うらしい。(映画「ベルファスト」を観て)

「ベルファスト」
(監督: ケネス・ブラナー 、2020年)

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1960年代、アメリカ公民権運動の流れから、北アイルランドの都市・ベルファストに住むカトリック派が宗教差別を訴えた。しかし逆にプロテスタント過激派の逆鱗に触れ、暴力で反発されたことに端を発したという北アイルランド問題。(結局、この問題は長期化することに。1998年4月に和平合意が成立し紛争終結となる。犠牲者は3,500人を超えた)

本作は、監督と脚本を出掛けたベルファスト出身のケネス・ブラナーさんの幼少期が描かれている。現在映画監督という職業に就いていることもあり、ところどころ当時上映されていた映画のインサートが入る。作品そのものは、北アイルランド問題で揺れる人々の複雑な心境を描いているが、映画の節々には、映画の作り手たちの映画愛、音楽愛が溢れている。

主人公は、一家の母親ということになっているが、物語は9歳のバディ(演:ジュード・ヒル)の目線で展開していく。

作品冒頭で、暴動が勃発。プロテスタント過激派とカトリックの対立構造が鮮明になる。バディの家はプロテスタントだが、過激派の周囲から「カトリック排除に手を貸すように」というプレッシャーをかけられる。

政情不安から失業率が高くなり、家族も貧しい生活を強いられる。そんな中、大工としてロンドンに出稼ぎしていた父親が、「ロンドンの病院を建設する」という長期の仕事を得て、みなでロンドンに移住しないかと提案する。

住み慣れた土地で、家族が力を合わせて生きていくのが理想だ。しかし、理想と現実の間で揺れる大人と子どもたち。彼らがどんな思いで、どんな決断をするのか。家族の中に宿る揺るぎない愛を感じるからこそ、観ていて切なくなる。

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いつだって社会は、マジョリティとマイノリティの対立が続いている。

20世紀後半の諍いは、全く同じような対立構造との相似のように感じられよう。でもそれは大人だけでなく、子どもの方が敏感に読み取るのかもしれない。

こんなシーンがある。

バディ「父さん、僕はあの子と結婚できる?」
父親「できるさ」
バディ「あの子、カトリックだよ」
父親「彼女がヒンドゥー教でも、バプテスト派でも、反キリスト教徒でも、優しくて寛大でお互いを尊敬し合えれば、あの子もあの子の家族も大歓迎だ」

映画「ベルファスト」より

まだ10歳に満たない子どもだ。宗教のことも、正義の是非も、まだ分からない年頃だが、「どうやらあの子と自分は違うらしい」と察してしまう。

そのことが切ないとともに、バディ(つまりケネス・ブラナー監督)の両親の、子どもへ寄せる愛情の大きさを感じるシーンだ。

切なくも、優しく、温かさを感じる。

脚本も手掛けたケネス・ブラナーさんの物語を、ぜひ、じっくりと堪能してほしい。

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2022年の同時期には、「カモン カモン」「パリ13区」など、印象的なモノクロ作品が続きました。色=情報と捉えると、ある意味で情報がグッと少なくなっている映像手法といえます。情報が少なくなることで、登場人物の心情にフォーカスできるのは良いですね。

現在「ベルファスト」はAmazon Prime Videoで見放題配信中。「12日以内で配信終了」とのことなので、興味ある方はお早めに。

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