大事なことはプロセス(映画「野球少女」を観て)

昨年日本でヒットした作品のひとつとして、ドラマ「梨泰院クラス」は筆頭に挙げられるだろう。

主人公のパク・セロイを演じたパク・ソジュンさんの熱演はさることながら、僕はセロイが開いたお店「タンデム」のシェフ、マ・ヒョニを演じたイ・ジュヨンさんに見入ってしまっていた。トランスジェンダーという難しい役の中で、「タンデム」の浮き沈みを象徴するような言動や表情を見せて、自然とドラマに入れたような気がする。

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という感じで、すっかり彼女のファンになっていたので、彼女が主演を務めた映画「野球少女」の日本公開決定はとても嬉しかった。(韓国での公開は2019年なので、2年遅れで日本にやって来たことになる)

Wikipediaなどを参照し、時系列を雑に整理すると、

2019年:韓国で映画「野球少女」公開
2020年1〜3月:梨泰院クラスが韓国ケーブルテレビで配信
2020年3月末〜:梨泰院クラスがNetflixで全世界配信
2021年3月:日本で映画「野球少女」公開
2021年9月:Netflixで映画「野球少女」が配信開始

それぞれの撮影期間など詳しいことは分からないが、とりわけ日本のイ・ジュヨンさんファンにとっては、「梨泰院クラス」のヒットと無関係ではいられないだろう。どうしてもマ・ヒョニとの接続を意識してしまう。(僕は韓国ドラマ事情に詳しくないので日本公開の事情は分かりません。助演を務めたイ・ジュニョクさんやクァク・ドンヨンさんが実は人気ということが背景にあるのかも?)

映画館では見逃してしまっていたので、早々とNetflixで配信されていたのは有り難かった。早速視聴した感想をつらつらと書いてみる。

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プロ野球選手を目指す天才野球少女・スインの成長を描く物語だが、いたって、ありきたりなストーリー展開である。

正直な話、途中で視聴を辞めようかと悩んだ。

それでも最後まで観てしまったのは、やはりイ・ジュヨンさんの存在感が特別であることがあるだろう。クールな中でも、時々緩める表情が何とも愛らしい。作品自体、彼女のファンに支えられたというのもあると思う。

いわゆるスポ根というか、高校生の青春や夢を描く話だ。実在した出来事を描いたという触れ込みはあるものの、作品のクオリティとして厳しいと言わざるを得ない。

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この作品における平凡さを分解すると、

・スインの成長の描き方が雑である
・「努力が報われる」というフォーマットがありきたりである

という2点に集約される。

ただ後者に関しては、やはりスポーツが持つ強みというか真実性のようなものを改めて確認できたという意味で、僕にとっては発見もあった。

「目立てば良い、結果が出れば良い」という風潮が目立つ世の中。目標に向かって誠実に努力している人が「馬鹿らしい」という見做されることがある。不器用で、最終的に不利益を被るような人たちのことだ。

スインも徹底的に不器用である。

「女性である」という身体的能力のハンデや偏見を背負いながら、野球を続けていく。それでも誰よりも熱心に練習する。何もかもを犠牲にして、ひたすら大好きな野球のために力を注ぐ。(ちなみに、この辺りの「なぜ野球に執着するのか」というのはあまり描かれていないような気がしている。「別に諦めても良いじゃん」とところどころ思わせるが、そこに対するフォローはほぼない)

ネタバレになるので結末の言及は避けるが、やはり、最終的に「努力って大事だな」というところに行き着く。プロセスを省略しながら結果を求めてはいけないのだ。

さらにもうひとつ挙げるとすると、長所の認識なのだと思う。

スインは女性投手だが、やはり男性に比べると身体的能力は劣るため球速をあげるには限界がある。じゃあ何を長所として伸ばすべきか……という場面で「回転数のある球を投げられる」というところに行き着く。いわゆるキレだ。これに「特別な」変化球を加えることで、打者を撹乱させることができる。

メジャーリーグでも活躍した上原浩治さんは、メジャーでは決して球速が速かったわけではない。変化球も1種類だけだ。だが球のキレが彼の投球を支えた。メジャーリーグに移籍したときには、年齢も30歳を超えていた。ハンデだらけの中で、しっかりと実績を作ることができた。それは彼が、長所をきちんと認識していたからに他ならない。

スポーツは、努力が報われるとは限らない。

そんな甘い世界ではないわけで、運や才能も重要になる。

だけど誠実な仕事を続けていけば、見てくれる人・応援してくれる人は必ず出てくる。それはスポーツの世界に身を置いてなくても大事だと分かるだろう。

「ふつう」の話だ。だけど「ふつう」とは、やはり強いのだ。

改めて「ふつう」の強さに感服できるような映画だった。

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