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花鳥風月

 祖母が庭いじりの好きな人だったからか、私も自然と花が好きになった。元々動物が好きだったこともあり、鳥も好きだった。自転車に乗って坂を下るときの風の心地よさも、山際に出ている月の大きさと頭上で輝く白銀色の光も好きだった。
 山が割と身近な地域に暮らしていたこともあって、小学校のレクリエーションで登山することもあった。山桜が満開の春、紅葉が見頃の秋の年2回。最初は馴染みのグループで集合していても、いつの間にか知らない子と話しながら坂を登っている。苦労を共にしていると不思議な友情が芽生える気がする。
 そして、いざ展望台にたどり着いても、私は目が悪いくせに眼鏡が嫌いだから眺めもピンボケだ。その代わり近くはよく見えた。みんなが「あそこに学校見える〜!」とはしゃいでいる間、雨曝しで傷んだ木製手すりの上をアリが歩いていた。人差し指の爪先くらいしかない大きさで生きるって、どういう気持ちだろう。
 私に見られていることに気づいたのか、アリは突然頭を真下にして柵を降り始めた。その先にツユクサが咲いていた。ちょうど今日の天気のように綺麗な青だと思った。小学生の記憶は断片的だけれど、この場面はよく覚えている。
 私は目が悪い。多分遺伝的な要因だと思う。目が悪いと遠いものがよく見えない代わりに近いものや色の綺麗なもの、雲のように地球規模で大きなもの、そんなものばかりがよく見える。星も一等星ならバッチリ。ただ、それ以外全部見えないわけじゃない。私には足が生えているので、自分で見たいものには自分で近づいていくことができる。そう、見たいものは、自分で見にいく。面倒だけど、たまに眼鏡も掛ける。近眼の生き方だけど、私はこれを結構気に入っている。
 大学生になって旅行するようになった。花鳥風月を求めて定期券内をうろちょろすることもあれば、気に入ったアートに会うべく飛行機に乗ったこともある。カフェとかも好きだけど、やっぱり断然、花鳥風月とアートが好きだ。彼らは鑑賞者の身の上なんて一切気にしていなくて、全員に対して平等に接してくれる。
 今度就職で富山県に引っ越す友達がいる。「行ってみたことないな〜」と言ってみると熱烈な歓迎を受けたので、多分行くことになる。富山といえば立山連峰だろうか。今からとてもワクワクしている。
 私が旅先で楽しみにしているものの中でも結構地味なものに、山の形がある。当然だけれど、私の知っている山とは色々全然違うのだ。旅先で「空気が違う」と感じることはあまりないけれど「山が違う」と感じることは結構ある。観光客向けに整備された施設よりも、意外とそういう山水の方に心惹かれてしまうのが私のきっと、ちょっとメンドくさいところなのかもしれない。

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