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Jサポなら知っておきたい! 競技規則の改正と、Jリーグ27年の歴史

ついに、サッカーのある週末が帰ってきました!

先週末のJ2・J3に続いて、いよいよ今週末にはJ1が再開します。

ワクワクが止まりませんね!

ところで、再開後のJリーグは、開幕した時とはルールが違うことをご存じですか?

実は、Jリーグが中断している間に、国際サッカー評議会(IFAB)が定めるサッカー競技規則が改正されました。

そして、再開後のJリーグには、改正されたルールが適用されます。

そこで今回は、帰ってきたJリーグを余すことなく楽しむために、「審判批評」で知られる石井紘人さんに、今回のルール改正の狙いやポイントについて、教えていただきました。

さらにさらに、インタビューの後半では、Jリーグ公式の新作DVD「Jリーグ メモリーズ&アーカイブス」の制作秘話も伺いました。

Jリーグ27年の歩みを振り返りつつ、最新のルールを覚えて、サッカーが戻ってきた週末を楽しみましょう!

石井紘人(いしい・はやと)
Twitter: @targma_fbrj
▼自身のサイトは『週刊審判批評』。株式会社ダブルインフィニティ代表取締役でもあり、JFA協力、Jリーグと制作したドキュメントDVD『審判~ピッチ上の、もう一つのチーム~』の版元。
▼この度、Jリーグ27年のメモラビリアDVD『Jリーグ メモリーズ&アーカイブス』を制作・発売。
ほりけん(インタビュアー)
▼浦和レッズサポーター。2018年に念願のシーズンチケットを取得し、北と南のゴール裏を行き来。
▼2019年5月より、旅とサッカーを主題とするウェブ雑誌OWL magazineに寄稿中。主な記事に『湘南戦の意味〜「誤審」を越えて〜』『オーストラリアのスーダン人コミュニティとは? 浦和レッズの新戦力トーマス・デン選手のルーツから多文化共生を学ぶ』など。

VAR時代に合わせた改正

――改正された競技規則が、再開後のJリーグから適用されます。昨年の改正に比べるとあまり話題になっていない気がしますが、今回の改正は何がポイントなのでしょうか?

端的に言えば、VARに合わせた改正だと思います。大きく変わったのがハンドリングとPKについてですが、どちらも、VARによって見えすぎてしまうところの基準を明確化しました。

例えば、ハンドリングの際の腕の位置は、普通にサッカーしていたら、そんな細かいところまで誰もわからない。なので、これまでなら明文化せずに審判に委ねてしまった方が良かったわけです。

●ハンドの反則になるかどうかの判断をするために、「腕」は脇の下の一番奥の場所の位置までと定義する
●偶発的にボールが攻撃側競技者の腕や手に当たった場合、当たった「直後」に得点、また、その競技者やチームが決定的な得点をする機会を得た場合のみ罰せられる
(出典:日本サッカー協会「競技規則の改正について」、2020年5月14日

PKにしても、キーパーの足が出ているか出ていないかはさじ加減次第でした。しかし、2019年の女子ワールドカップで明確になったように、どうしてもキーパーが出てしまって、これをやるとキーパーがいなくなってしまうよということで、W杯の途中でルールを多少変えました。

●ゴールキーパーが飛び出して、キックを再び行うことになった場合、最初の飛び出しには注意が与えられ、以降再び反則を犯せば警告される。
●ゴールキーパーとキッカーがまったく同時に反則を犯した場合、キッカーが罰せられる。

つまり、今回の改正は、VARがあるのであれば、このあたりを明確にしておかないと困るよね、ということだと思います。この改正によって、サッカーの競技性やエンターテイメント性が変わるわけではなくて、あくまでもVAR時代に合わせたのだと思います。

改正を知らないと、ブーイングをしてしまいそう

――今回の改正点を見ていて、これを知らないと、サポーターはブーイングしそうだなと思ったポイントが2つあります。1つ目は、試合中のイエローカードをPK戦に持ち越さない、という点。カップ戦でしか起きないので頻度は少ないと思いますが、これを知らずにスタジアムで見ていたら、なぜ退場じゃないんだ?と思うような気がします。

●試合中に選手に示された警告は、KFPM(編注:PK戦)に繰り越されない。試合中、KFPMの両方で警告となった場合、2つの警告が示されたと記録されるが、退場にはならない。

建前としては、試合とPK戦は別物という考えがあります。しかし、僕の中では、これもVAR用だと思っています。例えば、試合中にゴールキーパーが1枚イエローカードをもらい、そのままPK戦に突入したとします。そのPK戦で、2度、前に飛び出してしまうと警告を受けることになりますが、この改正がなければ、ゴールキーパーは退場になります。

●ゴールキーパーが飛び出して、キックを再び行うことになった場合、最初の飛び出しには注意が与えられ、以降再び反則を犯せば警告される。

2度注意されれば、さすがにキーパーも注意をすると思います。しかし、1度目の注意、2度目の警告は下手すればあり得る。審判もそんなことはしたくないけれど、VARは見えてしまう。それをなくすために、試合中のカードを持ち越さないこととしたのではないかなと思います。

この件も含めて、近年は審判に難しい判断をさせないようにする傾向があるように思います。例えば、FKでは壁に攻撃側の選手が入れないようにして、審判のマネジメントが楽になりました。また今季は暫定的な改正で交代枠が5人に増えましたが、交代の回数自体は3回以内に抑えなければいけません。この制限がなければ、時間稼ぎを目的として試合終盤に5回交代させることも起こり得ると思いますが、そうなると審判は、その都度時計を止めたり、選手に出るように促したり、場合によってはカードを出したりなど、難しい判断を迫られます。

PK戦にイエローカードを持ち越さないというのは、これと同じく、難しい判断を迫られる状況を減らすという意味の改正でもあるのかなと思います。

――知らずにブーイングをしそうなポイントの2つ目は、チャンスをファウルで潰されたときに、クイックリスタートやアドバンテージが認められたら、イエローカードは出ないという点。これも、サポーターからすると「さっきのカードじゃねぇのかよ」となりそうな気がしています。

● 相手の大きなチャンスとなる攻撃を妨害、または阻止する反則があって、主審が「すばやい」フリーキックを認めたり、アドバンテージを適用した場合、警告とはならない。

これは、クイックリスタートやアドバンテージによって、ファウルで止められたことの不利益を被らず、チャンスが続いたよね、ということで、カードは出さないことにしたというものです。元々、決定機の阻止については、アドバンテージを適用した場合はファウルをした選手は退場ではなく警告とすることになっており、それと整合性を取ったものです。ただし、ファウル自体がラフなものであれば警告は出ます。

ただ、これについて難しいのは、クイックリスタートの質が低くて、全然チャンスにならなかったときに、攻撃側の選手がどういうリアクションをするのか、です。それによってサポーターの受け取り方も違ってくると思います。この点については、選手がしっかりを把握して、チャンスを作るために続けるのか、相手に警告を出してもらうために止めるのか、考えなければいけない部分だと思います。

Jリーグ27年間の「ベスト盤」

――話は変わりますが、前作DVD「審判」に続いて、Jリーグ公式のDVD「Jリーグ メモリーズ&アーカイブス」を制作されました。こちらのDVDの制作には、どのような経緯があったのでしょうか?

新型コロナウィルスの影響でJリーグが中断となったときに、DVD「審判」を作ったJリーグの方と、何かこの期間に出せるようなDVDはないかなという話をしていました。

これまでのJリーグ関連の映像作品は、基本的には特定のクラブのサポーター向けのものが多いと思いますが、Jリーグファン、サッカーファンに向けた作品が1本くらいあってもいいのではないか、という話になりました。Jリーグの27年間の歴史を追ったベスト盤みたいなものを作れたら面白いなと。

またイニエスタがJリーグに来て、すごくスタジアムに人が増えたというのもあります。もちろんイニエスタは凄いですが、昔で言うと、例えば横浜フリューゲルス(当時)にいたジーニョという選手は、ブラジル代表の司令塔で、ロマーリオとベベットを操っていました。1994年にワールドカップも優勝しています。

折角Jリーグが映像を持っているので、そうした選手のスーパープレーを、もう1度、サポーターやサッカーファンに届けたら面白いんじゃないかというのがスタートでした。

――そうすると、かなり短期間での制作だったんですね。

1か月半くらいで、映像を掘り起こしました。元々僕も普通のファンだったので、自分が持っている昔のDVDやVHSを見返したりもしました。

良いことではないですが、Jリーグの昔の映像は、勝手にYouTubeなどにあがってしまっています。今後Jリーグもきちんと削除していくのだと思いますが、その中でも、VHS時代、1990年代半ばまでくらいの映像はなかなかあがっていない。権利関係としてはもちろんそれで良いですし、YouTubeで見られないとうたうのは適切ではありませんが、今なかなか見られない映像を出していきたいと思って、作っていきました。

ビッグネームから見る、Jリーグの歴史

――シーンの選定はどのようにされたのでしょうか?最初の方は、Jリーグ発足当時に盛り上げてくれた、日本サッカーを一段上に行かせてくれた外国籍選手が主題なのかなという印象がありました。

ビッグネームを追うことで、Jリーグの歴史を追えるのかなと考えました。

今はもしかしたら、「イニエスタが初めてJリーグに来たビッグネーム」みたいに感じている方もいるのではないかと思います。でも、例えば、名古屋グランパスエイト(当時)の監督をされていたアーセン・ヴェンゲルさんの本などにも書いてありますけど、当時のJリーグは、ヨーロッパや南米の超一流の選手たちがごろごろいました。そして、彼らがいたことによってJリーグのレベルが上がり、日本代表のフランスW杯出場へと繋がっていったと、ヴェンゲルさんはおっしゃっていた。

一方で、ボスマン判決やバブル経済の崩壊などもあり、ある時からなかなかビッグネームは来られなくなりました。おそらくストイチコフが最後ではないかと思います。すると今度は、中田英寿さんを筆頭に、日本人選手が海外に出ていくという流れができたと思います。

浦和レッズでいうと、エジムンドもいましたよね。オフトと揉めてしまってすぐ退団してしまいましたけど。エジムンドも本当に凄くて、インターネットで”Edmundo animal”と検索すると、ファンが世界各地にいるので、色々な映像が出てきます。

しかし、これも良くも悪くも、Jリーグ時代のエジムンドの映像は全然出てこない。当時エジムンドはJリーグでもめちゃくちゃ活躍していたけれど、イニエスタの話にはなるけれど、エジムンドの話にはならない。それがすごく勿体ない気がして、今回掘り起こしてみました。

――選ばれたビッグネームのさらにその一部は、テロップなどの特集が施されていました。こちらには基準はあるのでしょうか?

サッカー選手だったら26~28歳、審判だったら42歳前後がピークと言われたりします。人によってはピークが長い人や短い人もいると思いますが、ビッグネームの中でも、選手としてのハイライトの時期を日本で過ごした選手を特集しました。

もちろん、例えばエムボマはどうなんだという話にもなり、海外での評価という意味では少し落ちるのかな、などと揉めながらメンバーを選考していきました。

――なるほど。その基準で、浦和レッズからロブソン・ポンテが選ばれたわけですね。

ポンテは満場一致でした。個人的には、Jリーグにおいて、エジムンド以来の最強助っ人なのではないかなと思います。ドイツで活躍できた中で日本来ましたし、パフォーマンスも素晴らしかった。だから、ポンテはイニエスタくらい凄かったんだよということも伝えたい。

欠くことのできない一幕

――選手にフォーカスしたシーンが多いですが、そうでないシーンもあります。収録する映像は、どのように選んでいったのでしょうか?

ビッグネームを追うということに加えて、Jリーグの歴史を考えて、欠くことのできないシーンを入れました。

前作DVD「審判」を作ったときは、ドキュメンタリーを作るという意識はあまりなく、どちらかというと審判の方のありのままの姿を見てもらう、できるだけ色んな場所に入るということを意識していました。

しかし、今回は、Jリーグ27年の歴史を追いたいと思って作りました。そうなると、例えば、浦和レッズのJ2降格、福田正博さんのVゴールは、浦和にとってはもちろん、Jリーグにとってもひとつの転機だったと思うんですよね。Vゴールは本当に必要なのかとか、Jリーグが大きくなって昇降格ができたとか。

2011年の東日本大震災の直後の、等々力競技場でのベガルタ仙台の試合もそうです。27年の物語を描く上で、外すわけにはいきませんでした。

――2004年のチャンピオンシップも収録されていましたね。

浦議(編注:浦和レッズについて議論するページ)の方にも寄稿させてもらいましたけど、僕の人生、サッカーライターになろうと思ったのがあの試合でした。あれがなければ今もサラリーマンをやっていたかもしれないので、個人的にも入れたかったですね。もちろん、2ステージ制、チャンピオンシップの1つの区切りというのもありますが。三都主アレサンドロ選手のFKでのゴールは、BGMなしで、埼玉スタジアムの臨場感とともに観ていただきたいなと思います。

――ヒーローインタビューを拾われているのも面白いと思いました。

Jリーグの方と話していた時に、ただのゴール集ではつまらないという話になりました。しかし、例えば、サポーターの応援を入れるとなると、あのチームが入っているのにこのチームが入っていない、となってしまって、企画の主旨がぶれてしまう。それならばヒーローインタビューが良いのではないかと思って入れました。

海外のサッカーシーンを見ていると、個性的なヒーローインタビューに出くわします。たしかマイケル・オーウェンだったと思うのですが、まだ10代のときにゴールを決めて、ヒーローインタビューを受けたことがありました。インタビュアーは、「すごいゴールでしたね」というような、ごく普通の質問をしましたが、それに対して「考えられるか?このゴールで僕の人生は変わるんだ!」といった返しをしました。日本でよく聞かれる表現とは全然違うことに衝撃を受けました。

日本でも、例えば城彰二さんは、最近ヒーローインタビューが詰まらない、もっと色んなことを言った方が良いということを著書の中で書かれていました。今回のDVDでも、選手の皆さんに対してはヒーローインタビューでもっと個性を出してほしいというメッセージでもあり、またファン・サポーターの方たちには、ヒーローインタビューももっと楽しもうよ、という思いを込めています。

過去と現在とを繋ぐ

そして、今から振り返っても印象的なヒーローインタビューというのはあります。1995年のレオナルドのインタビューを入れましたけど、今の鹿島アントラーズのファン・サポーターにも刺さることを言っていたんだなと、ちょっと驚きましたね。

――浦和レッズサポーターの僕も、あれは敵ながら印象的でした。過去を振り返るのも面白いなと思ったシーンのひとつです。

この中断期間に、様々なサッカーメディアで、歴代ベストイレブンのような企画を出していたと思います。そしておそらく、現役Jリーガーがベストイレブンに挙げた選手のほぼ全員が、このDVDに収録されていると思います。

例えば、大久保嘉人選手は「スキラッチが凄かった」と言っていました。しかし、大久保選手のファンでも、スキラッチのプレーを知らない人はたぶんいると思います。大久保選手が凄いと言ったのはどんな選手なのか。中村憲剛選手が上手いと評したのはどんな選手なのか。そういう視点からも、Jリーグファンの方にはぜひ観てもらいたいなと思っています。

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ここまでお読みいただきありがとうございます!ここから先は有料部分となりますが、引き続き石井さんにご登場いただき、VARの導入見送りや、「Jリーグ メモリーズ&アーカイブス」の今後の展開について、語っていただきました。

なお、記事単体だけではなく、マガジン(OWL magazine)としての購読も可能です。マガジンをご購読いただくと、国内外のサッカーに様々な角度から迫った記事を、毎月10~15本ほど読むことができます。

先月は、J2再開初戦でゴールを決めた椎名伸志選手(カターレ富山)の超ロングインタビューや、知る人ぞ知るというレベルを超えた樺太サッカーのディープな話など、OWL magazineでしか知ることのできない話が満載でした。

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