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『カラー・アウト・オブ・スペースー遭遇ー』ネタバレ考察・レビュー

人里離れた山奥で暮らす家族のもとに突如落ちて来た隕石のせいで、果物は異形化、家畜のアルパカは大食いに、そしてニコケイもいつも通り楽しそうに狂うSFホラー。そして今まで何度も映画化されたラヴクラフト『異次元の色彩』の映画化最新作。トマトを手にしたニコケイのノリノリなジャンピングゴミ箱シュートは必見!

『襲い狂う呪い』では強烈な緑、『Die Farbe』では映像をモノクロにした上での紫の強調と、ラヴクラフトの原作では「描写するのが不可能なもので、色と呼ぶこと自体、たとえにすぎなかった」や「識別も不可能な宇宙的色彩」といったように言葉でも明確な表現がなされなかった「色」の映像における表現に過去作は苦心してきたけれど、本作は人間の脳内で錯覚的に生み出される、単色スペクトルとしては「存在しない色」であるマゼンタによる禍々しさを全開に押し出していた。

その色彩のドギツさは流石『マンディ』のSpectreVision。基本は青と赤の脳内融合であるマゼンタなんだけど、ところどころで青が漏れ出ていたりと脳内でマゼンタに変換されない部分を意図的に織り交ぜ、言葉では言い表せない複雑な色彩の融合をビビットに見せつける。それが「宇宙的色彩」であることにこれ以上にない説得力を持たせていて、まさに「色」が本作の主役と言っても過言ではない存在感だった。

アルジェントから影響を受けたと言われるスタンリー監督は過去作『ハードウェア』『ダストデビル』でも過剰な色彩表現を好んでおり、そういった意味では「色」を主題とした本作の監督は適役。長らく遠ざかっていた映画界に自身の持ち味である「色」と、更には『ダストデビル』で実現できなかったニコケイとのタッグでもって復帰したというのが感慨深い。監督が元々組んでいた人たちとは離れなければならなかったのは残念ではあるけれど…。

スタンリー監督がニコケイにリクエストした『バンパイアキッス』のような怪演は本作でも遺憾なく発揮されていて、躁鬱のような両極端なアップとダウンの振り幅ある狂気はピーターそのもの。流石にあちらほどのぶっ飛んだ怪演は見られなかったけれど、特典映像の削除されたシーンでもヘソ出しジャンプとかヘソ出し倒立(失敗してるし…)とか見せつけてて凄く楽しそうだった。

そして孤独と断絶は監督の過去作『ハードウェア』『ダストデビル』でも描かれたテーマで、本作でも同様に主人公家族は社会から自ら孤立して暮らしている。そして外部に助けを求めても何も得ることは出来ず、目に見えない火種として微かに存在していた家族内での断絶もまた隕石落下という目に見えないエイリアンの襲来と同調し顕著化していく。隕石のファーストインパクトで見られる円は『ダストデビル』でも近いものが描かれた孤独なり断絶なりの象徴であり、本作はそういった社会的断絶の中で暗喩的にリンクした「目に見えない何か」が齎す内部的断絶に抗おうとする家族の物語へと舵を切る。

原作は魔女狩り的な異端者狩りの要素が強いように私は思っていて、『襲い狂う呪い』でも『Die Farbe』でも狂っていく家族を外部視点で見た共同体内の異端者を排除(無視)しようとする村八分が描かれていた。本作はそこが大きく異なり、家族内部の視点へと変更していることからも過去作のような内外的関係性以上に、内部的関係性に重きを置いているのは明らか。

お互いがお互いを大事に思っているのだけど、肝心な時にも心はバラバラで意思疎通が図られない。家族で交わされる会話やアルパカという存在、そして本作の舞台設定からも押し付けに近い傲慢を感じ取れる。映像面だけでなく、そんな水面下で家族を蝕む「目に見えないもの」をラヴクラフトの文脈に取り込んだ脚本も素晴らしい。

そして『襲い狂う呪い』と『Die Farbe』では放射能への警鐘の意味合いを強く感じたけれど、本作では(製作国は違うけれど)時期的に近い『スローターハウスルールズ』でも描かれたような社会問題となった水質汚染を特にまわり道をせず、『ジョーズ』的発想を採り入れてストレートに描いてるように感じた。ブラックウッドの『柳』を手にしていることを考えると、その辺りもマヤカシなのかも知れないし、いつも通り放射能なのかもしれないけれど。

原作でも見られた井戸のイメージや、果実、動物、人間と次第に異常を伝染させていく展開も原作を踏襲しているのだけど、他のクトゥルフ作品群における有名な名称、そして旧支配者に対抗するものとしてエルダーサインを用いたりと微妙にクロスオーバー的。今後クトゥルフ三部作として展開していくらしく、もしかしたら何かしらの繋がりを見せることもあるのかも。楽しみです。

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