見出し画像

偏見への反抗!『ダークナイト(1981)』ネタバレ考察・感想・レビュー

案山子ホラーの原点とされる作品。

知的障がいのある心優しい青年ババを殺人犯に仕立て上げて殺害したクソむかつく自警団のオッサン四人組。そいつらが何者かによって一人ずつ消されていく案山子ホラー。Blu-ray付属のリーフレットによると、案山子を中心に据えた最初のホラー映画らしい。

案山子ホラーとは言いつつも、ジャケ画像から想像されるような案山子の化物みたいなのは出てこない。知的障がい者に偏見を持ち、自分たちのコミュニティから排除しようとする田舎特有の陰湿さと魔女狩り的な排他主義を「正義」だと妄信することこそが本作の描く恐怖。

犬に襲われそうになった仲良しの少女をババは助けようとしただけなのに、偏見によって事実が「ババが少女を襲った」へとねじ曲げられる。そのことによって、常々ババを排除したいと考えていた自警団の面々がババ殺害の大義名分を獲得してしまう。無抵抗なババに『ロボコップ』のような無慈悲な銃乱射を浴びせ殺害するも、裁判では証拠不十分で4人は無罪。裁判直後に悪びれることもなく笑顔で酒を酌み交わす4人の胸糞感がエグイ!というか昨日から『コンプライアンス』→『シカゴ7裁判』→本作と、胸糞映画三連続で見てしまったせいで何か変なテンションになった

本作は、この不公正な処刑と独善的な正義への反抗の物語。ババを殺した自警団たちは一人ずつ消されていくのだけれど、何者による復讐なのかは明確には描かれず、ラストで真実(のようなもの)を匂わす程度に留めているのが不思議な余韻を創り出している。

そこに大きく起因するのが自警団4人の描かれ方。ババ殺害直後に、「ババが少女を襲った」ことが虚偽だったと知らされた時の4人の表情変化によって、彼らが完全無欠な悪人ではないことがわかる。罪のないババを殺害してしまった罪悪感で落ち込みつつも、裁判で無罪とされたことが彼らの心の平静を保つ赦し(「正義」の再獲得)となり、その後は、自分たちを引きずりこもうと過去から迫ってくる罪悪感と、裁判により再獲得した「正義」のせめぎ合いの心的状態に置かれることになる。

罪悪感を抱えた自警団とババの死によるショックに囚われる少女。更に自警団側は飲酒をしているため、本作の殺害シーンは全て「信頼できない視点」による主観的なものとなっている。ここに、ラストで匂わされるもの以外にも罪悪感が身を滅ぼす怪談的な解釈を許す幅を持たせているのが凄く好き。

大男ババと少女の触れ合いはどこか『フランケンシュタイン』を想起させるし、魂を運ぶかのような強風のタイミング、不可逆の風車、ただそこにいる非現実を遠景でとらえる『回転』のような静かな恐怖等々、面白いところが多かった。そして、全て偏見や身勝手な印象で真実が創り出されていく裁判なり世の中なりと、自警団たちの「罪悪感による幻想」が創り出した「真実」が構造として呼応し、ババ同様に主観が創り出した客観に自警団たちが殺されていくという展開がお見事。犬から少女を救ったババがラストシーンで反復されてることからもそういった意図が読み取れる。

もともとテレビムービーとして製作されたらしい本作ですが、劇場公開作品と言われても遜色ないほどに出来の良さだった。これは日本でDVD化されていないのが不思議な埋もれた傑作。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?