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30年描き続けた夢が詰まったお店。ロックなビールで人が集まる場所をつくりたい【HOPPIN’ GARAGE ブリュワー紹介 RIOT BEER 上地風吾さん】

小田急電鉄小田原線、祖師ヶ谷大蔵駅前の賑やかな通りを抜けた先に、RIOT BEER(ライオットビール)はあります。初めて訪れる方は「ここでビールもつくっているの!?」と驚くかもしれません。それもそのはず。お店は住宅街に突如現れるのです。外からもよく見えるカウンターメインのお店は、スタッフとお客さんの笑顔で溢れていました。

代表の上地風吾(うえち・ふうご)さんは、仲間と共に2018年4月にこのお店をオープンしました。「学生時代にアメリカ留学で出会ったクラフトビールを、日本でも気軽に楽しめるような場所が欲しかった」と上地さんはいいます。

仲間との出会いはビールの醸造セミナー。しかし、上地さんは大学卒業後、すぐにお店をオープンさせたわけではありません。そこに至るまでには長年携わってきた仕事の影響がありました。

「ビールの民主化」を掲げるHOPPIN’ GARAGEでは、全国でビールづくりに取り組むブリュワー・ブリュワリーをご紹介していきます。今回は上地さんに、ブリュワーとしての思いや「ビールの民主化」について聞きました。

30年間夢を胸に抱き続けて、RIOT BEERを開店

上地さんは、高校卒業後アメリカに留学し、そのまま6年間アメリカで過ごしました。帰国後、日本語教師になろうと資格を取得。資格取得までのフリーター期間にアルバイトをしていた医療施設での出会いがきっかけで、介護職に就くことを決意します。

介護の仕事に10年間携わった後起業し、在宅介護を専門とする会社を経営して12年。在宅介護は、要介護者を看取る場面もしばしば。生と死について常に対峙する中で、より強く感じたのは「自分の好きなことを突き詰めたい」という思いだったそうです。

そこで、学生時代からの夢だった、クラフトビールのお店づくりがスタートしました。

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「人生の最期に関わるセンシティブな仕事を22年も続けて、自分が本当にやりたいことにようやく気づけました。介護職もやりがいはありますが、『これが本当にやりたいことなのか』と自分の中で矛盾を感じていて……。

そこでシンプルに自分にとって楽しいこと——ビールづくりを始めてみようと思いました」(上地さん、以下同)

「一度きりの人生だから自分の好きなことをやりたい!」そう考えたときに思い出したのがアメリカ留学時代に出会ったクラフトビールのこと。

自家製レモネードをつくるような感覚で、街のあちらこちらでオリジナルビールがつくれたら楽しそう! と強く思い、祖師ヶ谷大蔵の住宅地にお店をつくりました。上地さんは学生時代からの夢を30年経って叶えたのです。

ビールには“人を集める力”がある

上地さんがお店を始めて気づいたのは、「ビールには“人を集める力”がある」こと。職場でも家庭でもない、みんなが居心地良く集まれる場所をつくりたいと考えました。

「僕はUKロックが好きで、ロゴやラベル、グッズのデザインもUKロックやパンク・ロックテイストにしています。うちみたいな小さなローカルビール店でも、ロゴの情報を知って、世界からお客さんが集まってくれるんです。

サンフランシスコからわざわざ来てくれた方もいましたよ。ロゴを求めてくるお客さんもいるくらいですから、マニアック過ぎるデザインにして良かったですね(笑)。

アメリカにいたとき、大学卒業後に好きなことで起業する人を多く目の当たりにしました。その事業が大きくなると別の人に会社を売って、また別のやりたいことに挑戦するというスタイルがあるんです。

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アメリカから日本に帰ってきて感じたのは、日本は大衆に合わせる文化が定着していて、『自分が楽しいと思うことに打ち込むのが苦手』な人が多いんだなあということ。

ここ最近になって、自分のやりたいことを生業にする人も出てきましたし、世の中には「好きなことで生きていくっていいよね」という空気感ができているように感じます。ただ、僕たちくらいの大人世代には、まだそこまで思い切れずにいる人も多いんじゃないでしょうか。

RIOT BEERは、『好きなことやろうよ、やりたいことをやっていいんだよ』を体現する場所で、それに共感する人たちがうちのビールを求めて集まっているんだと思うんです。ヒップな(流行に敏感な)人たちがクラフトビールを求めている感じがしますよ」

伝統的なビールから旬を取り込んだビールまで

おいしいビールと居心地の良い空間を求めて、多くの人がRIOT BEERに集まります。常時10種類以上もあるオリジナルビールの中から、上地さんにオススメを伺いました。

「お気に入りは『ロクサーヌ』です。僕は伝統的なイギリスビールが好きなんです。優しいモルトの甘みを感じられます。おいしいんだけど今風のビールじゃないから誰も買ってくれないんですよ……。

開店して3年経ちますが、お客さんの求めるビールも大きく変わってきていて。ラガービールのような、いわゆる日本人に親しみのあるビールではなくて、酸味のある果汁と合わせて、ハードコアなビールも増えてきているんです」

編集部は、上地さんがオススメする「ロクサーヌ」をいただきました。

写真3「ロクサーヌ」は多くの人に馴染みのある香りで、喉ごしがとてもすっきりした味わい深いビールでした!

定番の味から店名にあるRIOT(暴動)のように刺激的なビールまで、上地さんの気さくなキャラクターと時折見せるパンクな一面がビールのおいしさをより引き立てます。RIOT BEERではブリュワリーならではの試みとして、パクチー専門店から提供された種を使ったビールなど面白いコラボも行っています。

ビールは自分にとってのコミュニケーションツール

HOPPIN’ GARAGEがテーマとして掲げる「ビールの民主化」。最後に「ビールの民主化」のために上地さんが果たす役割を聞きました。

「ビールは人を集めるコミュニケーションツールだと考えているんですよね。お店で働いている、あるスタッフの話をさせてください。

その子はモデルとしてがんばっています。うちの常連さんのひとりである、某有名アパレルブランドで働く方と店で出会い、その方にイベントに呼んでもらって仕事に繋がったんです。

スタッフはモデルとして今後のキャリアに悩んでいたんですが、イベントをきっかけにひとつのチャンスを掴みそうなんですよ。

外国の方や企業勤めの方、近所に住む方などさまざまな人がビールを介してお店に集まっています。常連さんになる方も多いですよ。

お客さんも自分も、ビールを通してどんどん世界が広がっていく。そこがビールの面白い所ですし、そんな場所を提供し続けたいですね」

前職の経験があったからこそ見えた、本当にやりたいこと。ビールをコミュニケーションツールとして、たくさんの人と繋がりたいと話す上地さんからはワクワクとした気持ちが伝わってきました。

曜日によってお店に立つスタッフさんが変わるので、上地さんやお店のスタッフさんとの会話も楽しみに、RIOT BEERに来てみるのも良さそうです。

次回のブリュワー紹介もお楽しみに!

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HOPPIN' GARAGE(ホッピンガレージ)は、「できたらいいな。を、つくろう」を合言葉に、魅力的な人々の人生ストーリーをもとにしたビールづくりをはじめ、絵本やゲーム、ラジオにイベントなど、これまでの発想に捉われない「新しいビールの楽しみ方」を続々とお届けします。