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見向きもされない場所にスポットライトを。「弱点だらけのビール」をつくりたい【HOPPIN’ GARAGE Steve* inc. 太田伸志さん】


みなさんは、自分の弱点をどのように捉えていますか。

自分の弱点を隠そうと取り繕い、本来の自分よりも背伸びをして相手に向き合った経験のある人も多いのではないでしょうか。

「僕はスケジュール管理がまったくできないんですよ(笑)。1時間後の予定すら把握していなくて、社員がスケジュールを教えてくれたり、Siriがリマインドしてくれたり。本当にまわりの人に助けられています」

こう話すのは、HOPPIN' GARAGEのクリエイティブディレクターを務める太田伸志さんです。企業や商品などのブランディング、企画デザインを手掛けるクリエイティブカンパニー、株式会社スティーブアスタリスクの代表でありながら、大学講師や作家、唎酒師とさまざまな顔を持つ太田伸志さん。彼は「弱点があるのはすばらしいことだと思う。だからどうか、無理に消そうとしないでほしい」と話します。

一般的に、「弱点は克服するもの」と捉えられがちですが、太田さんはなぜ、弱点をすばらしいと考えるようになったのでしょうか? 

さまざまな肩書を持つ太田さんがどのような人なのか。今の価値観を持つに至ったターニングポイントや、太田さんとビールのエピソードからひもといていきます。

人の「弱点」こそ魅力だと思う

弱点を見せたら、受け入れてもらえないかもしれない。こうして本当の自分を檻に閉じ込めてしまう現代人は、きっと少なくないはずです。太田さんは穏やかな声のトーンで、人は弱点こそ大切だと話します。

「弱点こそ魅力だと思っています。だって、その人ならではの個性ですから。なのに、みんな弱点を隠そうとしていますよね。それって一人ひとりの個性を潰してしまっている気がするんです。

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たとえば、プレゼンをするとき。『人の目を見て話す』『声を大きくハキハキと話す』ことが、いいプレゼンの条件のひとつだといわれますよね。しかし僕は、ひとりごとのようにボソボソと話しながらも、がんばって人に伝えようとしている人のほうが、その人の個性が出ていて魅力を感じます。

一般的に評価される指標は、正直どうでもいいと思ってしまうんです。だから無理に正そうとするのではなく、人間らしさを伸ばしていってほしい。僕が大学で授業をするときは、学生に『本来の自分を無理に消さないでほしい』と伝えています」(太田さん、以下同)

弱点を出すのは怖いこと。そんな固定観念を捨てて、太田さんのように素顔のまましなやかに生きていけたら——。

「ただ、僕も上京するまではスカしてる人間でしたよ(笑)。なにも知らないのになんでも知っている顔をして、弱みなんて出すものかと歯を食いしばって、24歳まで生きていました。なんのために格好つけてたのか、そもそも誰にどう思われたかったのか。今でもよくわかりませんね」

「初心者になれる場所に飛び込む」大切さ

大人になれば、生き方をガラリと変えられるきっかけはそう多くありません。では、太田さんの価値観を変えたターニングポイントとは何だったのでしょうか。

「僕の価値観が変わったのは、上京したタイミングです。仙台で新卒のシステムエンジニアとして就職したんですが、デザインを仕事にしたいと思うようになって、24歳のときに上京しました。

『東京は格好つけている人たちが集まっている場所』みたいに思われることも多いのかもしれませんが、僕は東京こそ他人の目なんか気にせずに、一生懸命生きている人たちが多いのではないかと感じました。ファッションでも、音楽でも、建築でも、デザインでも、どの世界にも一生懸命突き詰めて生きている人たちがいました。

そうした方々との出会いが『飾らずまっすぐに、やりたいことをやっていいんだ』と教えてくれた気がします。彼らは格好つけていたのではなく、本当に格好良かったんです。特に印象に残っているのが、島地さんとの出会いですね」

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島地勝彦(しまじ・かつひこ)さん。集英社で週刊少年ジャンプ全盛期の重役で、集英社で『週刊プレイボーイ』の編集長を務め、同紙を100万部雑誌に育てあげた人です。太田さんは、今年80歳になる島地さんのことを「子どもみたいに好奇心旺盛な人」と表現します。

「島地さんは、常に学ぼうとされる方で、40歳近く離れている僕にも『お前のことを教えてくれ』と質問してくれるような、探究心が豊かな、子どもみたいな方です。大御所であり、望めばやりたいことはすぐに叶えられそうなイメージを持っていたのですが、あらゆる世界に初心者として飛び込んで、自分で一から道を切り拓いていく。

最近では2020年、79歳の誕生日に、西麻布にご自身のバーを新しくオープンさせちゃったみたいです。人生は何歳からでも本気で挑戦できるということを、勝手に学ばせていただいています。

人は、自分の得意分野に身を置いて生きていくほうが、失敗が少ないと思います。でも、自分にとって本当の意味でプラスになるのは、初心者になれる場所に飛び込むこと。あえて自分が弱い立場になるフィールドで生きることで、『教えてください』という謙虚な姿勢で、新しいことをどんどん身につけられるのかもしれません。

一度、島地さんに『今までの人生で、一番楽しかったことはなんですか?』と聞いたことがあります。そしたら『今だよ、今』と。後日、僕はこの言葉をじっくり考えてみたのですが、島地さんはこれまでの楽しかったことを切り離して考えるのではなく、『今は過去の積み重ねでできている』と捉えているのでは、と感じたんです。

つまり、楽しかった思い出を一番多く抱えて生きているのが、『今』ということ。僕もそんなふうに生きていたいです」

カラカラになるまで出し切ったら、最高の一杯が待っている

一日の終わりにビールを飲むことが日課の太田さん。ビールは仕事をがんばるためのご褒美で、仕事中の太田さんは「目の前でにんじんをぶら下げられている馬」のような状態だといいます。そんな太田さんの最高の一杯とは、どのようなものなのでしょうか。

「最高の一杯。今夜飲む一杯ですよ……と島地さんみたいに言えたら格好いいけれど(笑)、サウナ上がりのビールが一番うまいです。とはいえ、ビールを最高においしく感じるためには、サウナに行く前から気持ちをつくり上げていくことが大切です。

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まずは仕事で全力を出し切る。過去、自分のアウトプットの中で、『今日が最高の出来だ』と感じるくらい出し切る。もう何も出て来ないくらい。その後サウナで全身の毛穴が開くのを感じるほど集中して汗を出し切って、水風呂に入る。サウナと水風呂を繰り返して、いわゆる『整う』状態をつくります。

そうしてビアバーに行って、キンキンに冷えたグラスに入った、きめ細やかな泡のフタを被ったビールを味わいます。最高の一杯を飲むために、極上のご褒美を得るために、この一連の流れは絶対に妥協できないですね」

妥協が許されない、最高の一杯。目を輝かせて熱弁する太田さんを見ていたら、最高の一杯がどんなものか、とても気になってきました。

「汗を出してカラカラになったからだに、ビールが染み込んでいくのがわかるんですよ。仕事でもサウナでも出し切ったら、あとは吸収するだけ。水分的な意味はもちろん、インプット的な意味でも、ビールとともに目の前のできごとや、マスターとの話、仕事仲間との話はどんどん吸収されていきます。

スポンジと一緒ですね、仕事で言えば全力を、からだで言えば水分をカラカラになるまで出せば出すほど、その分インプット量が増えるんです。この考え方、今の時代に通用しないだろうな……(笑)。

インプット量が増えるとは言いましたが、お酒を飲むとリラックス状態になるので、いいアイデアを思いついても、その内の9割は忘れています。『とんでもないアイデアを思いついた!』という感覚だけ、次の日に残っていますね(笑)。でもその感覚は、間違いなくからだに少しずつ染み込んでいると思うんです。だから、人生の重要な局面で役立つ力が、毎日のビールで着実に身に付いていると信じています」

完璧主義な人に飲んでもらいたい、「弱点だらけのビール」

上京というターニングポイントを経て価値観が変わり、弱点を愛せるようになった太田さん。最後に、これまでのご自身の人生を踏まえて、新しいビールをつくるとしたら……? と聞いてみました。

「『弱点だらけのビール』ですね。いいホップや麦芽を使うのが主流だと思いますが、あえて『そんな麦芽、誰も使っていないよ』といわれるような、見向きもされていなかった原料の使いどころを見つけたいです。その原料には、人気がある原料にはない特徴がきっとあるはず。そこに価値を見出したい。

『ある一部の人にはとても愛される味を引き出すことができるけど、多くの人には理解されないから使われていないだけ』という材料も、きっとあると思うんです。

パッケージも、子どもが描いた絵のように、たとえヘタでも一生懸命さが伝わるデザインで。『ヘタくそ風』のデザインではなく、そうですね…….。例えば昔の僕みたいにスカしている学生に、一生懸命に、これ以上うまく描けない、自分の限界のところまで描いてもらって、結果『ヘタくそ』になっちゃったというか(笑)。

でもその作品をそのまま世に出したい。誰も使わないような配色などに挑戦して、その結果見えにくくなったり色がにじんだりしても、それを完成品としたいです。その結果、世間の評価が良くないものだったとしても、それは本人が全力を出しきった結果なので、僕は褒めてあげたいですね。美味しいビールをおごってあげたいです(笑)。

原料もデザインも、本来だったらスポットライトが当たらなかったものたちをあえて採用して、弱点をさらけ出す一生懸命なビール、どうですか? そして、この『弱点だらけのビール』を完璧主義な人たちに飲んでもらいたいですね。まずいと言われてもいい、『弱点だらけでまずいかもしれないけれど、それでも世に出たんだぜ!』と言いたいです。でも、それでも絶対においしく感じると思うんだよなあ」

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まだまだ話足りない様子の太田さんでしたが、太田さんのnoteでは、ご自身が描いたイラスト付きのエッセイを連載中とのこと。太田さんの個性的な価値観がよくわかる内容、ぜひチェックしてみてください。

note:

Instagram:https://www.instagram.com/shinjioota/

Twitter:https://twitter.com/shinjioota/

HOPPIN’ GARAGEでは、今後ビールになるかもしれない魅力的な人々の人生ストーリーを紹介をしています。今回紹介した太田さんの人生ストーリーがビールになる日が来るかも⁉ 今後のHOPPIN’ GARAGEにもご期待ください!

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2018年10月に始まった『HOPPIN’ GARAGE』。

HOPPIN' GARAGE(ホッピンガレージ)は、「できたらいいな。を、つくろう」を合言葉に、人生ストーリーを材料としたビールづくりをはじめ、絵本やゲームやラジオなど、これまでの発想に捉われない「新しいビールの楽しみ方」を続々とお届けします。


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「できたらいいな。を、つくろう」を合言葉に、魅力的な人々の人生ストーリーをもとにしたビールづくりをはじめ、絵本やゲーム、ラジオにイベントなど、これまでの発想に捉われない「新しいビールの楽しみ方」を続々とお届けします。