目的やゴールのない、アートな考えで。遠山正道さんの「婚姻のグレジュビール」が再発売!
今回発売される「婚姻のグレジュビール」は、株式会社スマイルズの代表であり、アートコレクターでもある遠山正道さんと共に開発したビール。
名前だけを聞くと、「何のビールだろう?」と思わず感じてしまう、謎に包まれたこのビール。実はこれ、「グレープフルーツ」を使ったビールなんです!
発酵前にグレープフルーツ果汁を添加し、無ろ過とすることで液色は白濁したレモンイエローに。さらにはグレープフルーツピールを使用して、苦味を帯びた大人の甘味が実現しています。
ひとことで言えばグレープフルーツのビールですが、あえて謎めいたコンセプトで包むことで、手に取ったときに想像力がふくらむ、アートのようなビールが生まれました。
想像力が掻き立てられる「婚姻のグレジュビール」。ビールづくりから遠山さんのアート・ビジネス観まで、たっぷりとお話を伺いました。
ビールを何かで割って飲むのが好きだった
──「婚姻のグレジュビール」は、グレープフルーツを使ったビールです。遠山さんは、なぜこのビールをつくりたいと思ったのでしょうか。
遠山さん:昔からレッドアイのようにビールを何かで割って飲むのが好きなんです。長野のりんご酒で割ったり、最近だとクラフトコーラで割ってみたり。
──その中でグレープフルーツを選んだんですね。
遠山さん:そうですね。「何かで割ったビールにしたいな」と考えたときに思いついたのがグレープフルーツでした。
私はグレープフルーツを食べるのがめんどくさいと思っていて。皮を剥かなきゃいけないし(笑)。でも味がおいしいから昔から好きだったんです。それで、グレープフルーツのビールをつくりたいと思いました。
──グレープフルーツと聞くと柑橘系で飲みやすいイメージがありますが、「婚姻のグレジュビール」は、ビールにしてはアルコール度数が6%と高いことも特徴です。
遠山さん:最近、若い人を中心にお酒を昔より飲まなくなっていますよね。二軒目・三軒目までハシゴして飲みに行く雰囲気があまりない。だから、“いきなり一発で仕留める”みたいなところを大切にしたいと思い、度数を高く設定しました。
アルコール度数が高いので、気持ちよく酔うこともできる。そういう少し強めのお酒が欲しいときに選ばれたらいいなと思ってね。
疑問符の多い、アートのようなビールにしたかった
──「婚姻のグレジュビール」という名前とこのデザインだけを見ると、グレープフルーツを使ったビールだとは想像がつかないですね!
遠山さん:そうでしょう(笑)。疑問符が多いビールにしたかったんですよ。
──「疑問符」ですか?
遠山さん:私はアートがとても好きです。アートのおもしろさは、目的やゴールがなく「ただそこにあるだけ」のところ。
よく「アートは問いかけ」って言うけれど、私は問いであるかすらわからないと思っています。ただ存在するだけ。だからこそ無限のコミュニケーションがあり得るんですよね。このビールも、そういうものにしたかったんです。
「婚姻のグレジュビール」というのは、意味じゃなくて言葉の塊としてあればいいのかなと思っています。そこから、「グレジュって何なのかな?」「きっとグレーとベージュのことだよ」とか、「婚姻ってやっぱり現代には不要だよね」というように、いろいろな会話や妄想がお客さんに広がればうれしいなと。
──ちなみに、答えを聞いてしまうようで恐縮なのですが……「婚姻」はどのような発想からきているのでしょうか?
遠山さん:サッポロビールの工場に行ったとき、「発酵前添加」というビール製法を聞きました。発酵前に入れた果汁をビール酵母が取り込み、糖と香りを分解しようとするが、分解されずにわずかに残ったグレープフルーツの面影が麦芽と出会う。その出会うのか出会わないかの見つめ合っているギリギリの瞬間が恋のようだなと思い、「婚姻」と言ってみたんです。「シトラス家」と「モルトファミリー」の婚姻の物語をイメージしています。
▼遠山さんの音声データはこちら
▼「婚姻のグレジュビール」は2019年に発売し、今回再販されました。「シトラス家の花嫁たち」と「モルトファミリーの野蛮人」が参加した発売当時のイベント風景はこちら
すべては「こんなのあったらいいよね」から
──「婚姻のグレジュビール」には遠山さんのアート観がたっぷり詰まっています。遠山さんがアートと一番初めに出会ったのはいつなのでしょうか。
遠山さん:私は芸術系の家系に生まれたので、絵画が家にあったりと、アートが幼い頃から身近にありました。印象的だったのは、小学6年生くらいのときに家族でヨーロッパに行って、モネの『散歩、日傘をさす女』という有名な絵画を見たときです。私はそれを見て涙したんですよね。それが鮮烈な記憶として残っています。
──ご自身で絵を描いたり、アートをつくったりもしていますよね。それはいつ頃からですか?
遠山さん:学生時代、カセットテープのジャケットに趣味で絵を描いて友だちによくあげていたんですよ。その評判が良くて、あるとき先輩が青山で始めたサンドイッチ屋のロゴと店内にかける絵を描くことになって。
その絵を雑誌『POPEYE』が取り上げてくれて、そのあたりから本の表紙を描いたり、絵を描いたりとアートに本格的に取り組み始めました。サラリーマンになってしばらくした1996年には、初めて個展を開催しましたよ。
──すごいです……!
遠山さん:でも私の中では、絵を描いたりアートをつくったりすることと、起業してブランドビジネスをやること、この「婚姻のグレジュビール」をつくることなど、すべてにおいて気持ちは何も変わらないんですよ。「こんなのあったらいいよね」というものをつくっているだけで。
──それだけ「やりたいこと」がたくさんあるのが素敵です。遠山さんはやりたいことが自然と溢れでてくるのでしょうか?
遠山さん:何にもないところから自然と、というのは難しいですよね。何かしらの枠組みなり、俳句でいうところの季語や五・七・五という定めがあるからこそ、それを利用して「やりたいこと」を探せるんだと思います。
今回のビールも、「HOPPIN' GARAGE」という枠組みがあるからできたこと。やっぱり「放っておいたら絵が勝手にできていた」なんてことは何事においても存在しません。きっかけや枠組みは大切だし、それは常に探し続けています。
今は「ピクニック紀」が到来している
──世の中で「アート思考」という言葉が話題になったりと、ビジネスにおいてもアートの価値が見出されたりする時代になりつつあると思いますが、遠山さんはどう思われますか?
遠山さん:そうですよね。最近私は、「ピクニック紀」の時代が到来していると提唱しているんです。
──ピクニック紀?
遠山さん:ピクニック紀は、スポーツみたいに勝敗もないし、ビジネスみたいにミッション・ビジョンもないし、正解もない時代。「幸福」という言葉とすごく近いところにある時代です。
AIが出てきて、モノも溢れ、人がしなければいけないことが減っていくこの時代には、「何が幸せなのか」を自覚できる人が必要になっていきます。私たちはなぜモノをつくるのか。利益の最大化は何のためなのか。
自分たちの本当の「幸福」を自覚し、設計できること。そういうものがめぐりめぐって、結局ビジネスになっていく。その頃には、ビジネスという言葉があるかどうかすらわからないですが。
今、ビジネスの世界にいると、ゴールや目的がないものにはなかなか出会えません。だから、ビジネスマンこそ「ピクニック紀」を意識することが大切なのではないでしょうか。
そんなときにアートのような存在が大切ですよね。日頃、やることに追われているだけじゃなくて、意味がわからないようなことにも触れてみる。ビジネスの人がアートと出会うことで何が起きるのか。その瞬間に立ち会いたいと常日頃から思っています。
言語化できない95%を大切に
──最後に、「婚姻のグレジュビール」を手に取る方へ、どんな風に楽しんでほしいですか?
遠山さん:面構えは端正で、名前は「婚姻のグレジュビール」で意味がわからない。国籍も時代も不明だけど、デザインは洒落てるし、なんだか気になるなと飲んでみる……。
このビールの見た目やネーミングには補助線がないから、甘いと感じる人もいれば酸っぱいと感じる人もいるだろうし、重い、軽いなどいろいろあると思います。それくらい味覚ってあいまいなもの。
だから、ふたりで「甘いね」「苦いね」「逆じゃん!?」といった風に(笑)、自分が感じるまま、思うがままに楽しんでいただければと思います。
──感じ方は十人十色。まさにアートな楽しみ方をしてほしいですね。今日はアートの大切さを身にしみて感じました。ありがとうございました!
あとがき
「わからないもの」を敬遠するのではなく、受け入れ、考え、想像するきっかけにする──。「婚姻のグレジュビール」には、おいしさだけじゃなく今の時代を生きるヒントも詰まっているように感じました。それぞれのグレジュの時間を祝して、乾杯!
****
HOPPIN' GARAGE(ホッピンガレージ)は、お客様との共創によるビールづくりを展開するサッポロビールの新しいブランドです。魅力的な人々の人生ストーリーをもとに多様性あふれるビールを生み出し、そのストーリーを味わいながら飲むという、これまでにないビールの楽しみ方をお届けします。新作ビールを2ヶ月に1回お届けする定期便サービスも展開中です。