愛している君へ #3 【ミステリー小説】
前回のお話。
10月25日 ①
僕は、B公園に来ていた。約束の時間はもう過ぎている。
昨日の夜、紘也から『明日、午後1:30な。マジ遅れんなよ』と来ていた。遅れているのはどっちだよとツッコミを入れたいところである。
「あっ。相田君?」
僕の名前は相田羅維都。つまり、呼ばれているのは僕だ。声のする方を見る。
そこにいたのは同じクラスの女子、姫井百合だった。
綺麗。美人。可愛い。天使。
それらは全て彼女を表現するためにあると言っても過言ではない。しかも、成績優秀。噂によれば、記憶力がよく、学校の人の名前を全員覚えているとか、いないとか。
生憎、僕は恋愛に興味がないため、好きという感情を抱かないが、多分大抵の人なら、彼女に恋するだろう。性別など関係なく。
「相田君、どうしたの?」
「あぁ、紘也を待っているんだ」
「なるほどね。後藤君、結構時間にルーズだから、まだまだ来ないかもね」
「アイツから声を掛けておいてこれはないな」
「後藤君からのお誘いだったのね」
姫井はそう言って苦笑いした。
「おーい」
「あっ。後藤君、来たね。じゃあ、私はもう行くね」
「うん。じゃあ」
________
紘也は、肩を上下に揺らしながら呼吸をしている。
「おい!」
「どうした?」
「お前……」
「姫井様と……」
「話し……」
「ていただろ……」
「おう」
「ずりぃよぉ……」
「俺だって……」
「お近づきに……」
「なりてぇよぉ……」
そう言われても、僕にどうにかできることではない。僕はただ、偶然にも去年同じクラスで席が近くの時に話しかけてもらっただけだから。
「そんなに話してみたいなら、自分から行けよ」
「俺の踏み込める……」
「位置に姫は……」
「いないんだよ……」
可哀そうに。
________
紘也は、呼吸が落ち着いてから、話し始めた。
紘也の話によると、急遽、相手の方との時間が変更することになり、僕に連絡するのを忘れていたらしい。そして、僕が公園にいるのを見て、気づいたとのことだった。
「いやぁ、ほんとごめん」
「ほんと。これは、パンケーキの他にも何か奢ってもらわないとダメだな」
「じゃあ、今日、クレープで。相手の方との待ち合わせ場所に行く途中にあるんだ」
「おぉー。いいね。じゃあ、それで。ところで、話してくれる人の名前は?」
「行ってからのお楽しみさ」
別に、今教えてくれたっていいのに。どうせ、会うんだし。
________
最初は、道端で買ったクレープを食べながら、歩いていたが、もうクレープは食べ終えてしまった。(クレープはとても美味しかった)
「なぁ、どこまで歩くんだよ」
「もう少しだって」
そうじゃなくて、行き先を教えてくれ。なんとなく察してきたけど。
そう、話してから、30分は経っただろうか。紘也がやっと
「着いたはず」
と言った。
着いた場所は、大きな洋風の家だ。庭もしっかり手入れされていて、いかにもお金持ちと言った感じの。
紘也はとても驚いていて、
「ここであってるよな?」
と言っていた。
僕は、行き先を伝えられていなかったので、返事はしなかった。というか、できない。行き先を知らないんだから。
元々、僕はB公園で話を聞くとばっかり思っていたしね。
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「ひぇ」
声を掛けたのは、ここのお屋敷のお手伝いさんだ。僕は、その人と面識があるし、紘也が情けない声をあげるとこっちが恥ずかしい思いをする。本当にやめてほしい。
「驚かせてしまい申し訳ございません。恐縮ではございますが、お名前を伺ってからでないと中にお連れすることができませんので、ご協力よろしくお願いします」
「こちらこそ、すみません。それで、お、いや僕が後藤紘也でこっちが」
「相田羅維都です」
「ありがとうございます。羅維都様は数日ぶりですね。あの折はお世話になりました。紘也様は初対面ですね。私は、ここで働いております村上と申します。話は伺っておりますので、どうぞこちらへいらしてください」
紘也はいわゆる?を頭に浮かべたような顔をしてこっちを見てきた。
何か言えよ。言いたいことがあるなら。
________
連れて行って貰ったのはお屋敷の2階だった。
「失礼します」
「どうぞ」
部屋の中にいたのは、40代前半くらいに見える女性だ。本当は、確かもう50代のはず。いや、全然そうは見えないけどね。
そう、この女性は、田中杏の母、田中由香子さんだ。
少し疲れているのか隈が濃くあった。あと、目の周りが少し赤い。まぁ、前に会った時よりはずっといいけど。
「すぐに、お飲み物をお持ちいたしますので、少々お待ちください」
そう言うと、村上さんはいなくなった。
「まずは、こっちの都合で、時間を変えてしまってごめんなさいね」
「いえ。全然、大丈夫です」
僕は慌ててそう答える。そもそも、急に声をかけたのはこっちだし。
「前もお世話になったのに、またこうやって迷惑をかけてしまって申し訳ないわ。羅維都君の隣の子は……。」
「僕は後藤紘也と申します。よろしくお願いします」
「そう、後藤紘也君だったわね。今日はわざわざありがとね」
紘也は、サッと、名刺を取り出した。
「いえ、突然、連絡したのに快く承諾してくださりありがとうございます。もし、よろしければこれを……」
「まぁ。凄いわね」
「いえ。まだまだです」
僕、名刺なんて持ってない。これは、気まずいやつだ。
紘也の野郎、自分だけ名刺を準備しやがって。
「これからが本番ですから。そういえば、羅維都とは、以前からの知り合いなのですか?」
丁度、紘也がそれを言い終えると、ドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します」
「どうぞ」
夫人がそう言うと、村上さんが紅茶とクッキーを持ってきた。
いい匂いがする。とても、美味しそうだ。
僕が目を輝かせているのを見て、夫人が
「帰りまでに持ち帰る用のものを準備しておいて」
と村上さんに言ってくれたのは嬉しかった。
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