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「いじめに打ち勝つ: 2」

課長からのいじめ

着任当初は、初めての仕事だったので、何をしてよいのか分からなかった。
それでも、問題なく指示をうけた仕事をしていた。

全国から送られてくる情報を集約し、分析の上、項目ごとに
レポートをまとめ、課長に提出することが主な仕事である。

しかし、課の雰囲気がちょっと違っていた。
重苦しい空気に包まれていた。
静かだった。誰も話すものはいない。
淡々と業務をこなすだけだった。

情報は新しく設立された部署で、あらゆる社会情勢について
収集、分析を行い、企業活動に役立てようと設置されたものと聞く。

働く社員は、概ね10人程度だという。
実際は、30人程度で日々仕事をしている。

全国に設置されている拠点から精通した人間を定期的に吸い上げ
入れ替えを行い、業務を行っている。

異動は、2年と決められてるようだ。
部長から末端の社員まで同じである。

初めていじめを目にしたのは、着任後、数週間たったころだった。
全国の拠点から集められた社員の一人が、課長席の横でずっと指示をうけていた。
個別指導をうけていた人は同じ人だ。

それは翌日もその翌日も、毎日になつた。
さすがに、どうしたんだろう?と心配になった。

指示を受ける社員の姿は、日に日に生気が失われ、ただ言われるまま
頷いているように見えた。

ついには、吐き気等、明確なストレス症状を発症するに至り
地元に戻された。

それから直ぐにその矛先が息子に向いてしまった。

最初は、「報告書の書き方が悪い。」課長がこれまで作ったレポートを
元に「このように書き上げるように」と指導をされていた。

指導の通りの定型で提出すると、「自分自身の考えが出ていない。丸写しじゃないか。」と指導を受ける。

課内全員のパソコンに、「○○君は、レポートも、ろくに書けないので指導しました。」と社内メールを送られることもあった。

既に陰湿なパワハラが始まっていた。
課内全員は黙認を決め込んでいた。

部屋を出ると「大丈夫か?」と声をかけられるが、同僚は何も出来ずにいた。

日に日にエスカレートしていった。
「君の能力じゃここにいる資格はない。飛ばすことはいつでもできる。」
など平気で言うようになっていた。

その頃だ。夜、私たちに電話をしてきたのは。
息子の話を長く聞いた。息子自身も話し続けた。
その時、少し落ち着いたのか、
「心配かけるね。もう少し頑張ってみるよ。」
と電話を切った。
私たちは、心配で仕方なかった。
大丈夫だろうか?
何かできることはないだろうか 」

その翌日にタイミングよく、
部長から声をかけられた。

「課長のことは聞いた。少し話を聞かせて貰えないか。」
と声をかけられ、別室でこれまでの経緯を話した。

部長は、課長が部下に対するパワハラ癖を把握していた。
これまで勤務してきた部署でも同じようなことを繰り返してきたらしい。

「今回は私に任せてくれないか。
定期異動で3月に出すことが決まっている。
どの部署でも、その癖を知っていて引き取り手がない。」

「必ず出すから、あと少し我慢してもらえないか。」
「課長には十分に言っておく。君への指示は私が出す。」
「課長に今後接触する必要はない」との話をされた。

息子は、感謝を述べると共に、この部署で頑張っていくことを伝えた。

課長とは、翌日から直接話をすることはなくなった。
「良かった。部長のお蔭だ。」
これで普段通りの仕事が出来ると素直に喜んでいた。

ところが1週間も経たないうちに、ちょっといいかと課長に、強引に別室に連れていかれた。

「よくも部長に告げ口をしてくれたな。俺の経歴に傷がついてしまった。」
「どうしてくれるんだ!」
「お前なんか、いま直ぐこの課から出してやる!」と怒鳴った。
威圧する罵声が続く

その時の自分自身もよく覚えていないと云っていたが、
その上司の強い言動に、恐怖心を感じなかったという。

私は思いだした。高校生の頃、私に立ち向かった時のことを、
あの時の咄嗟の強い自分が相手を圧倒したんだろうと。

「これまで上司という立場を利用して、よくも 毎日 毎日、
いじめてくれたな!」
「俺は絶対許さないからな!」
「この課から出すだと。出せるものならだしてみろ!」
「今すぐ出て行ってやる!」
「今日のことは、すべて部長に報告する。分かったか!」

目の前の課長は、態度が急変した。
強い部下の態度をみて、明らかにいじめていた弱い部下の姿と違う。
と感じたのだろう。
課長の目から涙があふれ出した。
「えっ。」と凝視した。

「申し訳なかった。謝るから、部長にだけは言わないでくれ。」
「いや、言わないで欲しい。お願いします。」
懇願口調になり、泣き出した。

息子は一人部屋を出た。
課員は、大きな声のやり取りにすべてを知った。
いじめに終わりが来たことを。

部長が中心となって、課長に対する再調査、これまでパワハラ、いじめにあった被害者に対して再調査をすることが決まった。
課長は、職を解かれた。

その後、降格処分となり、地方に飛ばされたが、辞職は現在して
いない。

息子から電話が入り、今回の顛末知ることとなった。


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