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【小説】〜スピンオフ亜弥物語〜

手紙

Dear 真奈美&伊知子へ

Dearなんて書いたの何年ぶりやろな…。
高校か中学ぶりかもな。

あの頃は、授業中に手紙書いて、先生にバレんように回してもらってたりしたな。
2人ともやらんかったか?
大した話やないのに。先生に怒られるかもしれんのに、なんだかくだらないこと書いてたな。

今、私は大阪のホテルや。
真奈美のお見舞いに行って、真奈美が半生書いとるの見て、石ちゃんの車で、東京駅まで送ってもらってる間、伊知子の半生聞いて、私も色々考えたわ。

だから、こうして、パソコンで、2人に手紙書いとる。
明日はゲネで、明後日、大阪公演初日やいうのに、こないなことしとる。

不思議やな。
私がこの世界に入ったのは、賞金欲しさにオーディションに応募したからや。
優勝賞金は逃したけどな。
審査員特別賞やった。
自慢ちゃうで。
優勝ちゃうかったからな。
残念ながら、審査員特別賞や。


まさか、こんなに続けるとは、自分でも思ってもいなかったわ。

私は、映画もテレビドラマも好きやけど、舞台がやっぱ1番好きや。

あの緞帳(どんちょう)が開く瞬間が、たまらなく好きや。
舞台袖のあのホコリ臭い匂い。
スモークたいてなくてもスモークのような甘い匂いがする、あの場所。
開演のベルが鳴り、幕が開く一瞬、シーンと静まり返る、あの瞬間は、何回やっても鳥肌がたつねん。
何回も泣きそうになるわ。
だから、やめられへん。


もうすぐ私ら、50や。
びっくりやけど、50歳にそろそろなるやんか。
伊知子も言うてたけど、人生折り返し地点や。
それでな、私も半生書いてみることにしたわ。

でな、私、2人に嘘ついてたことがあんねん。
嘘…いうか、内緒にしてたことがあんねん。

私のおとん、行方不明って言うとったけどな、居場所わかったんよ。
5年くらい前や。
おかんが教えてきた。

おかんは、離婚してなくてな、ちょいちょい連絡は取ってたみたいなんや。

なるほど、それで、うちら引っ越ししても転校しても怖いおっちゃんらが追いかけてくるはずやって思ったけどな。
おかんは、ツメが甘いねん。

うちらを助けるために、おとんから離れて逃げたのに、連絡しとったら、そら、バレるで。
怖いおっちゃんらに、居場所突き止められるはずや。

まぁ、おかんもおとんのこと完全に見捨てることはできひんかったんやろな。

前に、うちのおとんアル中やったって、2人に話したことあったやろ。
暴れたり、借金作ったりしてな。
大変やった。

私が物心ついた頃には、おとんは飲んどった。
毎晩、飲みに行って、酔っ払って帰ってきとった。
ベロンベロンやった。
酒に弱いねん。
弱いのに、誘われたら飲んで、酒に飲まれるねん。

今回、私の半生書こう思ったんやけどな、ちょっとおとんのこと書かせてな。

おとんがなんでアル中になったか、私はずっと疑問やったんや。

ほんでな、おかんに最近聞いたんよ。
おとんのこと。

おとんのこと書くな。

おとん

おとんは、勉強が出来る子やった。
小学生の時も中学生の時も、成績は優秀やったらしい。
特に英語が好きで、得意やったんやて。
おとんは、進学したり、留学することを夢見てたらしいねん。

おとんのおとん、つまり、私からしたら、じいちゃんや。

じいちゃんは、滋賀県の、ある炭鉱で働いてたんや。

ほんでな、おとんが中学2年か、3年の頃や。
炭鉱が閉山になったんやて。

つまり、じいちゃんは無職になったんや。
いや、最初のうちは、職を紹介してもらって、どっかで働いたみたいやけど、続かなかったんか、辞めてしもたんか、そこも潰れたかでじいちゃんは無職になったんや。
まぁ、一気に貧乏になったんやて。

ほんでおとんは、進学することも留学することも出来なくなったらしいねん。

おとんは、学校の先生に言われるまま、中学を卒業して、地元の電気工場に就職したんやて。
勉強出来たのに、高校に行かれへんかったんや。
もう、おとんに夢はなくなったんやろな。
英語に関係する仕事を見つける気もなかったみたいや。
その頃はそんな時代でもなかったんかもしれんけど。
学校の先生が見つけてきた就職先に入るみたいな、そんな時代や。

そこで可もなく不可もなく、ただただ働いて、気づいたら25くらいやったんやて。

そしたらな、周りで「はよ結婚しぃ」「一人前にならへんで」とかな、言われるようになってな。
そこで、私のおかんの登場や。

おかんは、おとんより2歳年上でな。
今やったら、普通やけど、その頃27歳で嫁に行ってないのは、行き遅れ言われてた時代や。

お見合いみたいな形でおとんとおかんは出会ったんやて。
「年上の女房は、金(かね)のわらじを履いてでも探せっていうくらい、ええことや」って周りに言われてな。
結婚したんやて。

今までのところまで読んでてわかるやろ?
おとんに自分の意思はないねん。

あの、進学、留学を諦めた時から、おとんの時間は止まってしもうたんやな。

夢も希望も見出せず、自分の意思も持たず、ただただ周りに言われたことだけして、流されるように、生きてただけやったんや。

仕事帰りに飲みに行こう言われたら、酒も強くないのに、飲んで。
飲んで、気を紛らわしてたのもあるかもしれんけどな。

私が小学2年くらいの時には、日中から飲むようになった。
仕事も行かれへんようになった。

その代わりおかんが働いてた。

一回、おとんを入院させたことあったんや。
私が小4くらいやったかな。

断酒させるためにな。
精神科みたいな、そんな感じのとこやった。

おとん、鍵のかかった病室に入れられたんや。

最初の頃は、手に手錠みたいなのかけられてな、ベッドに繋がれてたらしい。

ほんで、なんちゃらワークいうんもやったんやて。
半年くらいやったかなぁ。入院してたんは。

退院してからも、なんちゃらワークに行ったりしてた。

あぁ、この頃、家族で動物園に行ったことあったな。
京都の方やったかな?
ちょっと遠かった。
めったにないことやったから、嬉しかったな。
初めてかもしれん。
楽しかったな。
ゴリラがおった。
おとん、ゴリラにうんこ投げられてな。
みんなで笑ったわ。

退院からの数ヶ月、この時が1番穏やかな時やったな。


けどな、そのなんちゃらワークの何回目かの帰りに、また飲んできたんよ。
自分の話したり、みんなの話聞いたりするやつ。
その帰りに飲んできてしもたんや。

飲んだことバレないようにしてたけど、バレバレや。

おとんの唯一の趣味が、時々英字新聞買うてきてな、それをノートに写して、翻訳することやったんよ。
古い英語の辞書使って、なんや、一生懸命写しとった。
誰に見せるわけでもなく、なんの徳にもならへんことや。
無意味なことなんやけど、唯一好きやったんやろな。
けど、それも手が震える言うて、飲み出すようになったんよ。
飲めば手の震えが止まるらしくてな。
少しだけ。
少しだけ言うて飲むようになってな。
だんだん増えてったわ。

それでな、誰かに「そんな英語の訳のわからんもん読んだり、書いたりしてないで、競馬新聞読めや」言われてな、競馬をするようになってな。

ここでもまた人の言いなりや。

競馬やったら、今度はパチンコや。
負ければ、金はなくなる。
なくなったら、金借りたらええやろ言う悪知恵与えたやつおってな。
闇金言うんか?
そんな危ないとこから借りてな。
利子がすごいとこや。
気づいたら、凄い金額やった。

優しかったおとんもだんだん暴力を振るうようになった。
暴力いうか、物に当たってたな。
家の中の物、よく壊しとった。

色んなことが上手くいかへんかったんやろな。
いや、上手くいくもなんも、楽しいも楽しくないもなかったんかもしれん。

転々と…

取り立ても凄かったで。
下駄履いたおっちゃんが来てな。
ガンガン玄関の戸叩くねん。
昭和50年代後半やで。
その頃、下駄履くおっちゃんがまだおったんやで。
怖い思いもしながら、下駄って…って、心の中で突っ込んどったわ。

その頃は、電気も払えなくなったり、水道代も払えなくなったり、ガスも止められたりしてな。

あんまりひどくてな、夜中おかんと私と弟で、家を出たんよ。
夜逃げってやつや。
前にも言うたな。

おとんは、その頃、取り立て屋から逃げるために、家に帰って来なかったし、3人でバタバタと逃げた。
逃げた先は、おかんの知り合いの知り合いのラーメン屋の2階や。
まるでガラスの仮面の北島マヤやろ。
その時、そのラーメン屋にあったガラスの仮面読んだんやけど。

今、その話関係ないな。

私、小6の頃や。
もうすぐ学習発表会があってな、劇するはずやったのに、バタバタと引っ越して、転校したから、出られへんようになってもうた。
いっつもや。
中学で引っ越したんも文化祭やる前の前の日くらいでな。
いっつもタイミング悪いねん。

だからかもな。
芝居やってて、みんなで作り上げてく工程が好きやし、本番やれた時の感動は、人一倍強いのかもな。

滋賀から、奈良、大阪、色々引っ越しや転校したなぁ。

転校ばっかりやったからな、いじめみたいのにおうたこともあったんよ。 
中学の頃や。

あの頃、私は人に気、使っとった。
空気読むいうか、周りに合わせたりしとった。

けどな、合わせても嫌われたんよ。
合わせれば合わせるだけ、嫌われた。

はぁ?や。
今思えば、はぁ?なんやけどな、そん時はわからへんかった。

こんなに気使ってんのに、なんで嫌味言われたり、避けられたり、無視されたりすんの?みたいな。

だんだん疲れてな。

もう、ええわってなった。

気使っても嫌われるんやったら、気使わないで、私のまんまで嫌われる方がええ思ったんや。

トイレに集団で行くのもやめた。
みんなが好きや言う少女漫画も合わせて好き、言うのもやめた。
みんなが光GENJIの誰々が好き言うても加わらなくなった。
自分が好きなものにしか好きとは言わんことにした。

1人になったらなったで「カッコつけんなや」とか、色々言うてくるやつもおったし、ムシもされた。

けど、そこで友達も出来た。
好きな人だけが寄ってきた。
ムリに合わせなくてもええ友達が出来た。
本音で話せる友達や。

それは、男も女も関係なかったな。

高校の時、剛いう子と仲良くなってな。
同じクラスやった。

めっちゃええ子でな。
家が農家や言うてた。

あの頃バンドブームでな、バンド組んで、ギターやってたんよ。
ギターもやるけど、家の手伝いもする子やった。

将来は、農家兼業のバンドマンになる言うてたわ。
なんや、農家もしながらバンド活動もするんやて。

米作って、野菜植えて、作詞作曲して、歌歌うんやって、夢みたいなこと言うとった。
歌も上手かった。

今で言えば、二刀流やな。

夢ばっか言うて、死んでもうた。
バイクに乗ってな。
畑に行くとこやったんやって。

トラックにはねられた。

生きるとか死ぬとか

なんか、実感わかなかったな。
けど、何日経っても学校には来なかった。

なんなんやろな。
あんなにええ子やったのに。
夢もいっぱい持ってたのにな。
そのために頑張ってもいたんよ。
ギターの練習も頑張ってたし。
家の手伝いも頑張ってた。

あの頃、暴走族も多かったやんか。
夜中、うっさい音出して、交通ルールも守らんと、危険な運転もしてたやんか。
そういうやつらは死なへんのに、なんで、剛は死んでしまったんか、私は悔しくてな。

神様を恨んだわ。
神様は、ええ子が欲しくて連れてったんかと思った。

泣いたのは、3ヶ月くらい経ってからや。
昭和から平成に変わる頃や。

どこにも剛がいないってことがわかったんやろな。
めちゃくちゃ泣いた。

悲しいし、悔しいし、寂しいし。
わけわからん感情や。


ほんでな。
おとん、居場所わかったって、最初に書いたやんか。

おとんな、死んだんよ。
3年くらい前や。
自ら。
命絶った。

あかんよな。
今まで、全部人の言いなりや。
自分でなんも決めへんで来てて、最後の最後に、自分の意思で決めて、死ぬとか、ありえへんわ。

ほな、もっと前から自分の意思で色々決めろやって話やんか。

夢なくして、なんも頑張らんと、人の言ったように生きてきて、最後に、自分の意思で死ぬって、なんやねん。
おとん、もうなんもしなくても迎えにくるやんか。
なんで?
なんで死ぬねん。
アホちゃう?

死なれた家族は、後悔ばっかりすんねん。

おとんの居場所わかってから、会うまでちょっと勇気いったわ。なかなかすぐには会えなかった。
バタバタしてたのもあるけど、自分の気持ちに踏ん切りがつかんかったのもある。

肝臓が悪くなってて、入退院繰り返すようになってな。
思い切って見舞いに行った。
それから2年、何回か会った。

こっちは、色んな思いを持って、許すも許さへんもわからんけど、複雑な思いを持ちながらも会いに行ってたのにな、おとんは、死んでしもた。

年も年やし、身体も悪くなってたんやから、何も自分から死ぬことないやんか。
おかんに迷惑かけてるとか思ったんかな?
おかしいやろ。
散々迷惑かけてきたんやから。
死んだ方が迷惑やわ。

こっちは、ずっと「なんで?」がついてくんねん。
あの時、ああしとけば良かったかな?とか、もう少しこうしてあげれば良かったかな?とか。
めちゃくちゃ考えんねん。
後悔と懺悔と疑問ばっかり残んねん。

おとんはリセットしたつもりかも知れへんけどな、自分で命絶ったやつは、リセットできひんよ。

おとんに楽しいことはなかったんかなとか思うやんか。
私とか弟が生まれた時、嬉しくなかったんかな?とか思うやんか。
おかんと結婚してて、楽しいことなかったんかなって…。
家族で動物園に行ったことも楽しくなかったんかな?って、思ってしまうねん。

1年くらい、私の頭の中で、ずっとそないなことがぐるぐるしててな、しんどかった。


でな、一周忌の時にな、おかんに聞いたんよ。
おかんは、なんでおとんと離婚せーへんかったんか、結婚して良かったんか、今、なんで笑ってられるんか。

そしたらな、おかん。
おとんは関係ないって言うた。

自分が幸せなのも不幸せなのも不安なのも不安じゃないのも、おとんは関係ないんやて。
全て自分や言うよった。
自分の人生なんやって。

まぁ、関係ないこともないんやけどな。

おかんの名前『マチ子』言うねんけどな、「マチ子が、マチ子になるために、必要なものなんや」て言うてた。

これは、自分で選んで決めてきたことなんやて。

辛いと思うようなことも、大変やと思うこともおかんには必要なことで、大切なことやったって言うとった。

ほんでな、おかん「おとんは、私の大切なアイリスなんや」って言いよったんよ。
私、考えてな。
なんや、アイリス…?
なるほど家電…?
おとんは、なるほど家電?
なんや?
どういうことや?
って考えてたらな「ゲームでもあるやろ。強くなるために必要なアイリスが。武器みたいなもんや。」言うてな。

おかん、それ、アイテムや…。

弟の子からゲーム教えてもらってたから、そこで知ったんやろな。
アイテム。
ちょっと間違うてた。

「おとんは、パーキンソンでもある」って言うたからな「え?肝臓が悪いだけやなかったの?」って聞いたらな「肝臓だけが悪かったんよ」って言いよるねん。
どういうことかまた考えた。
「おとんはおかんにとって、パーキンソンなんや。亜弥もアキト(弟)もおかんにとって、パーキンソンや。みんな必要や」
言いよった。

おかん、それ、キーパーソンや…。

おかんは、おとんに振り回されてた人生なんやと思ってたけど、違かった。
自分で選んで、決めてきた道だったんや。

おとんのこと、救えなかったのは悔しいし、残念やけど、私なりに一生懸命やったって、笑って言うとった。

おかんは、大変な時も笑っとった。
私らを笑わせてくれた。

おかんは、あと何年かで、80歳や。
ちょっとかっこええ思ったわ。
抜けてるとこあるけどな。
かっこええ思った。

まとめ

まとめるで。
長いこと書いてしまって堪忍な。

芝居やってると、色んな人になるやんか。
色んな人生が生きられる。

お姫様になったり、こじきになったり、おばあさんになったり、猫になったり、妖怪になったり、警察官になったり、死体になったり。殺人犯になったりな。

色んな役になって、芝居が終わればリセットされる。
けど、それは芝居だからや。
ドラマ。
フィクションや。

本物の人生は、リセット出来ひん。
自分の命も人の命も奪ったらあかんねん。

まぁ、今回、殺人犯役の私が言うのもなんやけどな。

自分の人生は、ずっと自分を生きていくねん。

私らは主役をほとんどしなかったやんか。
芝居の世界で。
けど、現実の世界は、自分が主人公や。主役や。

自分が決めてきた自分の人生を最後まで生きていくんや。


おかんが言ったように、全部自分が自分になるためだと思うと、ええも悪いもないように思ってきたわ。

まぁ、殺人は良くないけどな。


ほな、もう寝るな。

最後まで読んでくれてありがとう。

PS 私が殺人犯って、ネタバレ書いてしまったけど、堪忍な。
誰にも言うたらあかんで。
さっき、真奈美から石が出たから、退院ってメールが来た。
東京公演、観にきてな。待ってるで。

PSって書くのも懐かしいなぁ。

                 亜弥より


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