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お家芸の激突に酔う〜歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」(その2)

(承前)

さて、團菊祭第二部の後半は、「土蜘(つちぐも)」である。 團菊祭で功績が讃えられている、五代目尾上菊五郎が、家の当たり芸を十選び、「新古演劇十種」を制定したが、その中の一つである。市川家の「歌舞伎十八番」に対抗したものであり、それぞれの代表選手として、前半の「暫」と「土蜘」が激突したことになる。

「土蜘」は能を原作とする舞踏劇、舞台装置は「松羽目」と言われる、能舞台を模したものである。まず中心になるのは、病に臥せる源頼光、演じるは七代目尾上菊五郎、主君を気遣う平井保昌に中村又五郎、次女胡蝶に中村時蔵という配役である。

そして注目は、頼光に寄り添う太刀持の音若、菊五郎の孫、菊之助の息子の七代目尾上丑之助、8歳である。祖父も父も名乗った名跡を背負い、堂々たるセリフ回し、所作を見せてくれる。

夜がふけ、舞台上は頼光と太刀持だけになるのだが、丑之助の目が徐々に閉じていき、私は「えっ、寝てる?!」と思ったのだが、後で妻に、「そんなわけないじゃない。眠りに入っていく演技が上手かったのよ」とバカにされた。

そんな時、花道の七三にすっと浮かび上がったのが一人の僧侶。いつ登場したのか、気配が全くなかった。これが、尾上菊之助。頼光の病を治す祈祷を施す僧なのだが、これが実は土蜘の精で、頼光を殺めようとしているのだった。

祈祷を施し舞う、菊之助が凄い。実は人間ではないので、奇怪な動きがしばしば現れる。それを、あくまでも美しい踊りの中に、散りばめる。そんな中、丑之助演じる太刀持が、怪しの存在であることを見破る。土蜘の精は正体を表し、菊之助の気合が体から発散され、頼光らとの戦いとなる。

尾上家三代の揃い踏み、見どころ満載の舞台である。

後半は、頼光に切られ手負いとなって逃げた土蜘を追い詰めていくのだが、土蜘退治を祈願して、石神に舞を奉納する巫女が登場する。これが、中村時蔵の息子、梅枝。そして、石神役(実は小姓)を演じるのが、梅枝の息子、小川大晴6歳。無難に舞台を務め、父演じる巫女におぶわれて退場する。

前半に時蔵が秋の美しさを舞で表現し、後半では梅枝と息子が共演。こちらは萬屋三代である。

毎日新聞の夕刊に、当代菊五郎が「聞き書き」を連載しているが、5月9日付夕刊で、1949年5月、六歳の五代目丑之助として石神役を演じたエピソードが書かれていた。皆、子供の頃から、大看板の脇で演じつつ、主役級の役を体で感じていく。これぞ英才教育である。

「土蜘」は、音羽屋・萬屋両家の今の力を存分に楽しませてくれた上に、芸の継承を観せてくれた。

芸の継承、次なるイベントは、コロナ禍で延期となっている、海老蔵の團十郎襲名、息子堀越勸玄の市川新之助襲名だが、来年の五月團菊祭のタイミングで実現するのだろうか。期待して待とう




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