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お家芸の激突に酔う〜歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」(その1)

五月の歌舞伎座は「團菊祭」である。コロナ禍の影響で、3年ぶりの開催となった。「團菊祭」とは、明治の名優、九代目市川團十郎と五代目尾上菊五郎を顕彰する興行で、戦前から始まっている。その名の通り、成田屋と音羽屋の共演であり、お家芸が披露される。

現在の成田屋の代表は、市川海老蔵であり、十二代目市川團十郎白猿を襲名することが決まっている。ちなみに、九代目團十郎には男子がおらず七代目松本幸四郎(今の松本白鸚、先日亡くなった中村吉右衛門の祖父)の長男が養子として市川家に入り十一代目となり、海老蔵はその孫である。(週刊文春5月5・12日号の歌舞伎特集に詳しい記事が掲載されている)

一方の音羽屋は、七代目尾上菊五郎が健在、その息子が「カムカムエブリバディ」で“モモケン“を演じた菊之助。

私が観たのは、5月7日の第二部、海老蔵・菊五郎・菊之助が揃って出演する回である。

前半は、「暫(しばらく)」。市川宗家がお家芸として選定した、歌舞伎十八番の一つであり、東京オリンピックの開会式で、海老蔵がその一部を披露した。

「暫」はスーパーヒーロー物である。舞台中央にいるのは、市川左團次扮する、スーパーヴィランの清原武衡、これの手下が、通称“なまず“の鹿島入道震斎(中村又五郎)と、“女なまず“照葉(片岡孝太郎)。反対勢力を捕え、首を刎ねんとしている。舞台は絵画のようであり、歌舞伎を知らずとも、誰が悪者なのかは一目瞭然である。

そこに「しば〜らく〜」と登場するのが、スーパーヒーローの鎌倉五郎(市川海老蔵)である。両袖に、市川家の家紋を配した凧のようなものをつけ、隈取りとデコレーションを加えた頭部、これぞ“歌舞伎“である。

花道を進み、七三で“つらね“と言われる長口上を述べる。海老蔵は、“オリンピック以来“、“1年ぶりの歌舞伎座“、共演者の孝太郎を“松島屋のお兄さん“と呼ぶなど、観客受けするセリフを発する。スーパーヒーローが愛嬌を振りまくシーンである。

そうして、スーパーヴィランと対峙するわけだが、相手を倒すために、にらみ、見得、奇声、そしてパワーと様々な技を繰り出していく。まさしく、成田屋の荒事大全である。悪者を退治したヒーローは、六法を踏みながら退出する。

海老蔵の魅力を堪能し、見物はなんだか力をもらった気がする。「暫」は、そんなおめでたい祝祭劇なのである


オリンピックでの「暫」


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