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高校生が出会った“樹村みのりの世界“(その4)〜「あざみの花」所収、「パサジェルカ」

(承前)

“女性“、“子供“といったテーマに加え、樹村みのりから想起するのが第二次世界大戦中の、ユダヤ人虐殺“ホローコースト“です。高校生の時代、私はおぼろげな知識としては知っていましたが、より具体的なものとして意識させられたのが、樹村みのりの「パサジェルカ(女船客)」です。

この作品は、マンガ少年の1979年12月号〜1980年2月号にかけ連載されました。(参考リスト) 私は高校3年生の時に、リアルタイムで読んでいたのです。なお、本作は「マルタとリーザ」と改題され、単行本「あざみの花」に収録されています。

物語は、樹村みのりのオリジナルではなく、マンガの冒頭で原案はポーランドの作家、ソフィア・ポスムイシの「パサジェルカ」という小説であることが提示されます。さらに、小説を原作とした同名映画がアンジェイ・ムンク監督の手で製作され、未完のままムンク監督が逝去したものの、1時間程度の映画として公開されたことが示されます。

私はこの映画を見ていませんが、樹村みのりのマンガは映画に触発されたものであることが窺えます。

夫の転任地南米に向かうべく、欧州からの客船に夫ワルターと共に乗船していたリーザ。途中寄港した港から乗り込んできた中に、見覚えのある一人の女性の顔を見つけます。

ドイツ人リーザは、第二次世界大戦中、ユダヤ人の強制収容所で働き、当時収容されたいた女性、マルタのことを想起したのでした。そして、物語は強制収容所における日々へと戻っていきます。

強制収容所と聞くと、残忍な大量虐殺のことを思い浮かべますが、収容所の日々においては、看守とユダヤ人との間は、やはり人間同士の交流があり、それは必ずしも単純なものではなかったのです。

この作品の取材旅行にも見えるのが、本作の前に置かれた「かけあし東ヨーロッパ」(プチコミック1979年11月号)です。東西欧州に明確な線が引かれていた当時、モスクワ経由の旅行記なのですが、ハイライトはやはりザクセンハイゼン収容所の訪問です。樹村さんは<13歳の時から強制収容所のことしか考えたことがありません(同作より)>と語り、アウシュビッツ訪問を考えていたのですが、旅程の関係で東ベルリンに近い場所に行かれたのです。

この単行本にはもう一作、表題作「あざみの花」(コミックトム1981年〜82年)が収録されています。私は本作を今回初めて読んだと思いますが、これも“冤罪と死刑“という重いテーマを扱っています。

初めて読む作品が出てきたところで、本シリーズは一旦終了します。近い将来、“樹村みのりの世界“を再訪するとは思いますが


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