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内田光子with マーラー・チェンバー・オーケストラ(その2)〜上皇上皇后両陛下とともに

(承前)

休憩時間中、妻に「今日は上皇后陛下いらしてないね」と話していました。内田光子のリサイタルに来ると、結構な確率でお姿を拝見していたからです。会場内に入り、そろそろ後半のスタートという時、客席の一角がざわめき拍手が起こりました。次第にほとんどの観客が立ち上がり拍手、上皇后陛下が入場されたと思いきや、この日は上皇陛下もご一緒、ご夫婦での鑑賞でした。上皇后陛下はいつものように素敵で、上皇后様は客席に向けニコニコしながら手を振られている、お二人の姿が印象的でした。

ステージに登場した内田光子も、まずは両陛下に向けて会釈をされ、その後客席に向かってお辞儀されました。

モーツァルトのピアノ協奏曲第27番は、第25番が作曲された1786年から5年の後、1791年に作られました。この5年の間に、父レオポルドが死去、モーツァルトの借金は膨らみ、天才音楽家の人生に影が忍び寄って来ました。第27番は1月に完成するのですが、同年の12月にモーツァルトは神に召されます。

モーツァルトの音楽の魅力の一つは、明るく華やかな中に、時折顔を見せる切ない旋律が心を揺さぶってくる側面です。この27番変ロ長調の第1楽章の中に時折顔を出す短調のメロディー、明るさの中に秘めれれる悲しみに感動しない人はいないのではないでしょうか。

第二楽章はラルゲット〜「ゆっくりと、しかしラルゴよりやや早く」(広辞苑より)。これはひたすら美しく、第一楽章において揺れ動いた気持ちを浄化するかのようです。

そして最終の第三楽章はまるで、魂を解放するかのように鳴り響きます。そして、これらを現世に再現してくれる内田光子とマーラー・チェンバー・オーケストラ!!!

最近、“ギフテッド“という言葉を聞くことがよくあります。異常に高い能力のある人を指す言葉ですが、“ギフテッド“であることは、必ずしも本人の幸せにつながるわけではないとも言われます。モーツァルトは、そんな不幸を抱えた“ギフテッド“だったのではないでしょうか。モーツァルトの音楽を聴いていると、心地よさを感じながら、まれに心臓をわしづかみにされるような気がするのは、その才能の発露が表現されているとともに、誰にも理解できない苦悩天才が共鳴するからかもしれません。

盛大な拍手がくり返される中、内田光子がアンコールで弾いたのは、クルターグの「遊戯」から“Play with Infinity“、一気に二十世紀に引き戻されてコンサートは終了しました。

終演後も、観客の多くは上皇上皇后両陛下がお帰りになるのを、拍手と温かいまなざしで見送りました。モーツァルトと両陛下、なんだかとても幸福な気分でサントリーホールを後にしたのでした


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