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Hirukoたちの旅は終わったのか〜多和田葉子「太陽諸島」

多和田葉子の小説「地球にちりばめられて」(2018年 講談社文庫)、「星に仄めかされて」(2020年 講談社文庫)と続いたシリーズは、2022年の「太陽諸島」(講談社)で完結した。

「太陽諸島」を読んで考えたのは、「感想をどう表現してよいか分からない」。第1作「地球に〜」は新鮮な世界で軽快に読めた。第2作は、動きがスローになったが、活動はあった。しかし第3作の主たる舞台は船上である。

このシリーズの中心にいるのは、<ヨーロッパ留学中に母国の島国が消えてしまった>(「太陽諸島」より、以下同)Hiruko。彼女は、デンマーク人クヌートと出会い、<同郷人を探す旅に出る>。

その過程で、インド人で<男性から女性へ性の引越し中>のアカッシュ、ドイツ人のノラ、エスキモーだが<日本人を自称する>ナヌークと出会う。

ナヌークはHirukoの同郷人Susanooの存在を教え、彼らは<アルルでSusanooと面会するが、彼は一言も発しない>。六人は互いに刺激しあい、Susanooは言葉を取り戻し、<Hirukoの生まれ育った国を訪れる船旅が決まる>。

こうして始まった旅を描いたのが「太陽諸島」である。

船はバルト海を航行するが、その先にアジアの「島国」につながる道は見えてこない。それでも、多様性を象徴するような六人の言葉の中から、「日本」という存在を考えさせられる。

言葉が続かず、助けを求めて検索すると、多和田葉子のインタビュー記事を発見した。本書は、コロナ禍を経て書かれ、連載中にはロシアのウクライナ侵攻が発生した。

国境が意識されるようになり、ロシアという国は別の世界に存在しているかのようになった。当然ながら、Hirukoたちはサンクトペテルブルクで下船し、モスクワ経由シベリア鉄道で消えたと言われる「島国」を訪れることはできない。

彼らの旅は、これからの世界に委ねられたのかもしれない。

サンクトペテルブルクの港を眺めながら、Hirukoはクヌートにこう言う。

<「海は問題を生まない。問題を製造するのはいつも人間。」>
<「海が人間の問題を解決してくれればいいのに。」>

クヌートは応える。
<「鏡に映し出してはくれるけれど、解決はしてくれない。」>

Hirukoたちの旅は終わらない。
<明日のことが分からなくても、わたしたちはまだこのまま一緒に旅を続けていくことができそうだった。>

いや、続けなければならない


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