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ファスト映画の対極にあるもの〜「男はつらいよ」は“早送りするとやばい“

6月4日放送の東京ポッド許可局は、「早送り論」と称し、映画やドラマの早送り視聴、“ファスト映画“の話題からスタートした。私はそういった見方はしないが、特に批判するやばい“つもりも無い。私自身、録画したラグビーやボクシングを観る際、ボールがタッチラインを割る、あるいはペナルティーキックでゴールを狙うシーン、ラウンド間の1分間のインターバルなど、早送りすることはままある。

最近の若者が言う“タイムパフォーマンス“の向上を求める行動である。私にはそうした傾向があり、ながら行動はその典型的なものである。旅行などすると、あれもこれも求めがちだが、私の妻は「美術館のはしごなど絶対に許さない」という人なので、自重せざるを得ない。確かに、駆け足で回って得られるのは、数をこなしたオリエンテーリング的な満足感であって、本質的なものが心に残らないケースが多い。

東京ポッドで、プチ鹿島が<早送りは作品を鑑賞するというより、コンテンツを消費する>行動で(それが良いとか悪いという話にはなっていない)、そんな風に<早送りしてみたらやばいもの>として「北の国から」を挙げ、<早送りしたら2分で終わると思うんです>と話す。

土日の朝、私は「男はつらいよ」をTVで流している。もう何周目になるのだろう、BSで放送されているものを、繰り返し再生している。鑑賞しているわけではない、何かをやりながらBGM的に流し、時折場面を注視し面白がっている。何回も観て筋は分かっている。もっと言うと、観てなかったとしても、ストーリーはいつも同じようなものである。それでも、好きなシーンは何度見ても良いし、毎回新たな発見もある。「男はつらいよ」こそ、<早送りしてみたらやばいもの>ではないか。

この日に流していたのは、第32作「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」。竹下景子が初めて登場する作品で、彼女の実家の寺で寅次郎がニセ坊主になる話、私は大好きな一本である。寺の住職、竹下景子の父親役が、2代目おいちゃん役の松村達雄、弟が中井貴一、その彼女が杉田かおるという配役である。

印象的なシーンが沢山ある。ニセ坊主の寅さんに法事で出くわすさくら(倍賞千恵子)、衝撃を受ける場面である。あるいは、住職(松村)が入浴中、娘(竹下)が外で風呂を沸かしている。外の娘に住職は寅次郎との結婚の可能性について水を向ける、ところがそこには寅次郎が居合わす。そこから二人の関係は。。。

山田洋次は落語作家でもあるのだが、本作ではそれが垣間見られる。「宮戸川」「志ん朝初出し」より)という落語の演目がある。帰宅が遅くなり、家から締め出された若者半七は、叔父さん宅に泊めてもらおうと向かう。そこで偶然出会うのは、幼馴染のお花。半七とは違い積極的で、半七と共に叔父さん宅に押しかける。うぶな半七が女連れであることに、叔父さん夫婦は喜び、二人を2階の部屋に上げる。

「男はつらいよ」では、カメラマンを目指し上京した中井貴一、それを追って東京に出てくる杉田かおる。二人は、「とらや」で再会を果たす。仕事で「とらや」に着くのが遅くなった中井だが、おいちゃんとおばちゃんは、中井を杉田が休む2階に上げる。車つね〜おばちゃん(三崎千恵子)が、中井貴一を見て、しみじみと「いい男だねー」。この一言が素晴らしい。さて、2階で二人きりの中井と杉田、天気が急変し、外では雷が鳴り響く。驚く杉田かおる、そして……「宮戸川」の展開と相似系である。

本作では、オーストリアの作曲家、シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」が使われる。そう言えば、竹下景子と寅さんがウィーンを舞台にして共演する作品があったなぁ。竹下景子はシリーズに3度、違う役で登場(これは最多)するが、3作目がウィーンを舞台にした第41作「男はつらいよ 寅次郎心の旅路」。ストーリーとは全く無関係だが、こういった思考が出来ることも楽しさでる。

“ファスト映画“では楽しめない、映画の素晴らしさが、「男はつらいよ」にはある。“早送りするとやばい“、もったいなさ過ぎる〜「男はつらいよ」は“ながら視聴“でどうぞ





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