美しい映像と前進する力強さ〜ホアキン・フェニックス主演「カモン カモン」
宇野維正著「ハリウッド映画の終焉」の16本から、もう一作観た。
マイク・ミルズ監督の「カモン カモン」(2021年)である。(Netflixなどで配信)
それなりにアンテナは立てているつもりだが、昨日の「プロミシング・ヤング・ウーマン」含め、認識から漏れている映画が多いことに驚く。
ストーリーはシンプルである。義弟の体調の問題から、妹から9歳の甥ジェシーを預かることになったジョニー。ロードムービー的に展開する二人の生活を、白黒の画面が映し出す。
ジョニーを演じるのは、2019年の「ジョーカー」でアカデミー主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックスである。
ジョニーはラジオ・ジャーナリスト、全米各地に出向き、少年・少女にインタビューし、さまざまな意見を収集する。プロ仕様マイクを使いインタビューする冒頭のシーンを観ると、一瞬これはドキュメンタリー映画かと思う。同様のシーンが、この後も挿入され、作品の世界観を演出する。
モノクロの映像が美しい。ジョニーはジェシーが住む、ロスアンゼルスに赴くが、自身の仕事の関係でジェシーを伴ってニューヨークに戻る。このニューヨーク編とでも呼ぶべきパートで映し出される街は、ウディ・アレン監督・主演の「マンハッタン」に匹敵する都市の魅力を表現している。
“子育て“は、もちろん子供のためなのだが、同時にそれは彼らをケアする大人を成長させる行為でもある。ジョニーは、甥のジェシーと交わることにより、様々な発見をする。また、前述のインタビューもその一部かもしれない。
タイトルの「カモン カモン」、“さぁ、行こう“、“前に進もう“。
子供のジェシーが、こんな言葉を口にする。
“Do you ever think about the future? Uh, yeah. But whatever you planned on happening,
that doesn't happen. Other stuff you never thought of happens. So just - c'mon, c'mon,
c'mon ........“
未来について考えたことある? うーん、あるよ。だけど、起きろと期待したことは、どれも実現しない。思いもよらなかったそれ以外のこと、これが起きる。だから、『カモン カモン』、前に進もう(拙訳)
ジェシー、そしてインタビューに答えた若い人たち、彼らがより良い世界を作ってくれる。そんな希望も持った作品である。
なぜ、この作品が「ハリウッド映画の終焉」なのか。ハリウッドは、“キャンセル・カルチャー“に支配され、“白か黒か“の二項対立の中、“黒“と判定された人は抹殺される。この流れが、先鋭化していくと、ハリウッドはおろか、世界は終焉を迎えるのかもしれない。
宇野氏は本作についてこう書いている。
<ハッシュタグやプラカードに書かれたような言葉ではなく、誰もが自分自身の言葉で、わかり合えない他者との対話ができる日がやってくることを切実に願った作品だ。>