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小澤征爾さんが音楽の神に召された〜私を鼓舞してくれた「世界のオザワ」

小澤征爾さんがお亡くなりになった。

新日本フィルを指揮する小澤さんを聴いた後、ロンドンに赴任した。それからは、ロンドンで体験する小澤征爾の音楽だった。

サイトウキネン・オーケストラ、手兵のボストン・フィルを率いてのロンドン公演。ウィーン・フィルを指揮したコンサート。小澤さんのオケのメンバーを包み込むような演奏姿勢に、毎度感銘を受けた。

当時の私は、ロンドンという金融の中心地で、日本人に何ができるのかと問われていた。多くの日本人同僚と共に、日々格闘していた私にとって、小澤征爾のコンサートは特別なものだった。純粋な音楽の素晴らしさを楽しむだけではなかった。日本人である小澤征爾が、クラシック音楽を欧州で指揮し喝采を浴びる、その姿は同邦人として誇らしく、自らを鼓舞するものだった。

2002年、小澤さんはクラウディオ・アバド以降、10年以上空席だったウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任する。日本人が、西洋音楽の頂点とも言えるウィーンのオペラハウスのリーダーになる、とんでもないことである。彼の包容力が楽団員の心を動かした、それも一つの理由だったように思う。

2003年に私は日本に帰国したので、ウィーンにおける小澤征爾の勇姿を観ることはできなかった。妻はウィーンの音楽大学に進学した次女の様子を見に定期的に渡航していたので、歌劇場にもしばしば訪れていた。訃報を受け確認したところ、彼女は小澤が振ったチャイコフスキーのオペラ「エフゲニー・オネーギン」を観ていた。羨ましい。

小澤征爾の著書「ボクの音楽武者修行」(新潮文庫)、若い人には是非読んで欲しい。村上春樹との対談集「小澤征爾さんと、音楽について話をする」(新潮文庫)、小澤さんは多くの言葉を残しているが、その一つがこの本である。

日本人だってクラシック音楽はできるのだ、いや日本人にしか表現できないものがある。それを示したのが小澤征爾であり、そのためには世界に飛び出さなければならない、そのことを体現したのも小澤さんである。

今朝(2月11日)、朝日新聞の朝刊に、村上春樹が“小澤征爾さんを失って“と題し寄稿している。村上さんは、さまざまな思い出を書いているが、小澤さんの次の言葉を紹介している。

<「僕がいちばん好きな時刻は夜明け前の数時間だ」と征爾さんは言っていた。「みんながまだ寝静まっているときに、一人で譜面を読み込むんだ。集中して、他のどんなことにも気を逸らせることなく、ずっと深いところまで」>

自身も夜明け前から小説を書く村上さんは、こう続けている。<「今頃は征爾さんももう目覚めて、集中して譜面を読み込んでいるかな」とよく考えた。そして「僕もがんばらなくては」と気持ちを引き締めたものだ。>

私も頑張らなくては。ご冥福をお祈りする


*最初に買った小澤征爾指揮のCDはサイトウ・キネン・オーケストラと、チャイコスキー“弦楽セレナード“などを録音したものだった



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