見出し画像

もう一冊映画の本〜和田誠「シネマッド・ティーパーティー」

一昨日ご紹介した、馬庭教ニ著「ナチス映画史」は体系だった映画本ですが、今日はフリーな雑文集「シネマッド・ティーパーティ」です。

著者は和田誠、1971年から79年までに各所で書かれた映画に関する雑文を編集した本、単行本は1980年、文庫版は1983年刊です。文庫版あとがきに、本のタイトルについて、<気違い帽子屋ならぬ映画気違いのとりとめないおしゃべり、という気持ちを>託したと書かれています。

気軽に読め、和田さんのイラストも散りばめられた楽しい1冊なのですが、この手の本には次のような効用があると思います。

①未見の映画について

  1. 観たいと思っていた映画について、再度背中を押される

  2. 意識の中になかった映画の存在について教えられ、興味があればウォッチリストに加えることができる

②鑑賞済みの映画について

  1. 大好きな場面について言及され、感動がよみがえる

  2. 記憶の彼方にあったものが呼び出され、頭の中の“大好きな場面“ファイルに格納される

  3. 観たはずなのに、全く覚えがないシーンが登場し、再度見直すかどうか思案させられる


和田さんのこの本は、私にとって、これらの要素のバランスが上手く取られています。

例えば、①ーiiについて言えば、昨日の「ナチス映画史」で登場した、「追想」について書かれていて、益々興味をそそられました。そもそも、「ナチス映画史」で書かれたフランスにおけるユダヤ人迫害、「ヴェルディエ事件」について、私はよく知らなかったのですが、関連映画として紹介されていたのが、フランス映画「追想」。和田さんの文章で、ますます観たくなりました。

②ーii.、結構これはあるので、本書のようなもので、記憶をアップデートしておくのは重要です。和田さんは、ディズニーのアニメ「バンビ」のワンシーン、挿入曲「エイプリル・シャワーズ」をバックにした<ものすごくきれいな雨のシーン>を紹介しています。「あったあった」と思い、YouTubeを検索すると、その場面がアップされていました。<四月には雨は降るけれど、五月の花を持ってくる>と歌われる曲ですが、画面も四月の雨から、激しい雨に変わり、そして美しく晴れた空に。たかだか3分の中に、自然の美しさ、恐ろしさ、そしてそのサイクルがもたらす生命を見事に表現していました。

最後にもう一つ。②ーiii. ですが、和田さんはイラストレーターということもあり、“タイトルとワクワク“というタイトルで1本書かれています。“栴檀は双葉より芳し“と言いますが、和田さんは、<映画を観始めたごくごく初期の段階から、タイトルというものはぼくにとって大いなる興味の対象だった>と書いています。

その中に、ヒッチコックの「ハリーの災難」が登場、世界的な漫画家/画家、ソウル・スタインバーグにタイトル・バックの絵を依頼したとあります。「ハリーの災難」はヒッチコック映画としては異色ですが、私は大好き、ただタイトル・バックの絵はかすかにしか記憶にないのですが、あれがスタインバーグだったとは。

もっとも、スタインバーグを知ったのは最近のことで、そのことは記事にしました。彼の絵について、<既視感を覚えた>と書いたのですが、「ハリーの災難」もその一つかもしれません。「ハリーの災難」〜どこかで見ていた気がするスタインバーグの絵が、和田さんの著作でつながりました。

和田誠は「お楽しみはこれからだ」で、映画本の金字塔を打ち立てましたが、本書のような雑文集もとっても楽しめます



この記事が参加している募集

#読書感想文

189,937件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?