誕生まで⑨|相反する最善
主治医の懸念点、それは「胎児が小さい」ということ。
この時はあまり理解していなかったが、息子の置かれている状況下では、後々非常に重要な要素になるものだった。
26週の現在、我が子の推定体重は「760g」。
(平均は「900g」ほど)
元々大きい方ではなかったものの、これまでは発育曲線内のちょうど真ん中あたりだった。
しかし、週数を重ねるごとに、徐々に差が開いていき、“発育曲線内にギリギリ入るか否かくらい” になっていて、少し鈍化している感じだった。
妻は大きく生まれたが、私と私の父が割と小さく生まれたので、男の親子三代で同じかな...? 程度にしか考えてなかったが、
「大丈夫だと思うけど、ちょっと注意して経過は見ていきたいかな…」
と主治医から告げられた。
(先ほどの新生児科の医師にも、少し小さいかな...とは言われていた)
細かい懸念点を上げたらきっとキリがない。
ただ、全てにおいて万全を期すため、認知すべきものはして、一つ一つ対応して「最善を尽くす」ということを、改めて医師と共有し合い、その日は終了した。
改めて状況を整理してみる。
胎児にとっては、生後まもなく大手術を控えていることもあり、それに耐えるため、当然身体は大きければ大きいほど良い。
しかし現状、我が子は発育曲線からも外れそうな状況。
それ故に、我が子にとって最善なのは、
「最も成長が見込める『胎内』で『1日でも長くいること』」
である。
しかしその「胎内に1日でも長く...」と言うのは
「母体のリスクが上昇する」
ことを意味する。
前置胎盤自体、本来の出産予定日である「40週」で産むことはなく、母体のリスクを考え、通常「37~38週」で予定帝王切開となる。
ましてや妻の場合は、最も重度の「全前置胎盤」。
大量出血や癒着胎盤のリスクも非常に高く、妻の命も危険にさらされる状況になりうる。
「相反する最善」
とはまさにこのことで、もどかしい。
医療チームもそして私たちも、ここから神経をすり減らしながら闘っていくこととなる。
先述の通り、現時点で「26週」。
出血のリスクがより高まるのは「28週頃から」と言われており、以前にも増して様々なことに細心の注意を払わなければならない。
さらに言えば、通常の妊婦であっても、28週以降はいつ陣痛が始まってもおかしくない状況でもあるので尚更。
よく看護師などが
「赤ちゃんが『生まれたい』と思っているタイミングで陣痛が始まる」
と言うように、生まれるタイミング(ある意味、誕生日も)は、赤ちゃんが決めていると私も何となくだがそう思っているし、コントロールできないところに一喜一憂するのは本来無意味ではあるのも理解している。
だが、
「早産になると我が子は手術が出来ず、そのまま何もできず “死” を迎えることになってしまう…」
という思考は、正直最後までまで頭から消えなかったし、
「懸念や不安といった感情とうまく付き合いながら過ごしてきた」
というのが適切な表現かもしれない。
ただやはり、意識を向けるべきは「コントロールできること」であり、夫婦でも改めて相談した。
上記のことは、引き続き遂行していくということになった。
「+α」だが、妊娠が分かったタイミング(まだ心拍が確認できる前)からずっと毎日二人で話しかけていたが、「胎盤を動かすこと」「大きくなること」「ずっと一緒だということ」を言う回数を増やしたりもした。
そこはポジティブに。
良いと思ったことは最善を尽くして実行する。
我が子にはちゃんと伝わると信じていたし、生まれる前からコミュニケーションというか、きちんと「ことば」で伝えようと思っていたので、この状況も全てお腹の中に向かって話していた。
そうして、本格的に激動の日々が始まっていく…