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福祉職を狙ったストーカーの一例〈後編〉

 ↑前回


 わたしは上司に何度も事情を説明して「担当者を他の職員に替えるか、契約解除にして欲しい」と改めて相談しました。

 しかし、あいにくわたしの職場はこれも福祉あるあるなのですが空前絶後の人手不足。

 担当を替われる人がいないため、結局「様子を見る」という一番最悪の、何ら対応していない対応策をとることになりました。

 契約解除も、そう簡単には出来ません。

 警察や弁護士にも相談しましたが、「今のところ特に事件に発展していないため、動きはとれません。送りつけられてきたメール・手紙・写真は、今後事件に発展した時の証拠になり得るので、保管しておいてください。相手が押しかけてきて面会を強要した時の記録も取ってください。メモや日記も有効です」とアドバイスを頂きました。

 …いや、理性的に考えるなら、確かに「事件にならないと動けない」というのはごもっともなんです。

 でも、事件になってからじゃ遅いんですが…。

 …はい、嫌な予感しかしませんよね。

 お察しの通り、そのご家族はどんどんエスカレートしました。

 わたしの職場へ夜間帯に用件のない電話を何度もかけてきたり、アポ無しで事務所に押しかけてきて長時間居座ったり。

 「次回から〇〇様がお越しになる際は必ず上司に同席してもらって対応します」とご説明しましたが、「女の子と一対一がいい。野郎なんか興味ない。俺は何も間違ったことは言っていない」と一蹴されました。

 なるほど、これが「モンスターはモンスターなんだから話し合いでは解決出来ない」ということか…とわたしは納得しました。

 わたしはひたすら我慢をし続けたせいか、ストレスによる胃けいれんや頭痛や耳痛、耳鳴り、そして離人症に悩まされるようになりました。

 メールボックスを開けてそのご家族からまたメールが大量にきているのを見た瞬間、魂がスーッと体から抜けていく感じがするのです。

 「死にたい」というのを通り越して、もはや「消えたい」気分。

 そして先日、そのご家族はご自分の裸の写真を送りつけてきました。

 さすがのわたしも堪忍袋の緒が切れました。

 これは完全にアウト。

 はっきり言って完全に警察沙汰。

 ニュースになっても全然おかしくありません。

 というかこんな人、逮捕された方が世のため人のため。

 とは言え、そうなるといよいよご利用者様ご本人に対する支援を続けられなくなってしまいます。

 そのため、上が協議した結果、今回までは厳重注意ということになりました。

 …いや、厳重注意に何の意味もないことは、これまでの経過で十分証明されたのでは…? とわたしは思うのですが。

 段階を踏んでいかないといけない、という大人の事情も理解出来ます。

 しかし、「わたしや他の職員の身の安全を守ってくれない職場なんて辞めてやろう」ともわたしは思い詰めました。

 とは言え、今後のことが気がかりな他のご利用者様が大勢いる中、一部のモンスターのためにわたしが潰されるなんて馬鹿馬鹿しい話ですよね。

 今後はわたしではなく上司がそのご家族とメールでやり取りを行う(※もともと、「電話は面倒くさいから連絡手段はメールにしろ」というのがそのご家族からの要求。だからこれまでメールでやり取りをせざるを得ませんでした)という約束を上司に取り付けました。

 それをそのご家族に通告したら逆上されましたが、そもそもわたしはご利用者様の担当者であって、ご家族のこういった対応に時間をとられるのは業務の範疇を超えています。

 もしその分の時間を使えていたら、他の方々と電話やメールや訪問のやり取りが出来たはずです。

 そのご家族自身は「自分は何もおかしくない。アプローチのつもりだった」と主張していますが、そもそも既婚者の身で交際を求めてきていることも含めて全てがおかしいですよ。

 恋と嫌がらせを履き違えている。

 あなたがしているのは恋じゃない。

 嫌がらせです。

 相手がはっきりと告白を断っているのに何度も告白し付きまとい続ける行為は、アプローチではありません。

 相手の人格や尊厳を無視し、見下している。

 恐怖を与えることでコントロールしようとしている。

 「お前の意思など俺には関係ない。お前に拒否権はない。お前は俺に従うべきだ」と言って、相手をボコボコに殴り続けているのと同じです。

 それは恋じゃない。

 暴力です。

 犯罪です。

 …ある意味、この方もまた、「寂しさを抱えた人」や「望みがかなえられない人」であり、福祉的な考え方をするならば「手を差し伸べるべき」なのかもしれません。

 しかし、少なくともわたしはこの方に差し伸べる手など持ちません。

 寂しさを抱えた方も、望みがかなわない方も、世の中には沢山います。

 でも、多くの方々は他人に迷惑をかけたりしません。

 みんな心の中では沢山の悩みを抱えながらも、それぞれの生活を懸命に営んでいます。

 その中で、どうしても躓いてしまう場合もあります。

 わたしの手はそういう方たちに差し伸べたいです。

 それを邪魔するようなモンスターのことまでは構ってあげられません。

 そこまで手は回りません。

 これはわたしだけでなく、あらゆる職種の人に言えることだと思います。

 どの業界の方々も、せっかく真摯に仕事をしていているのに。

 迷惑行為をして仕事を妨害するばかりか、働く人の心身を攻撃してくるモンスターが多すぎる。

 「お客様は神様です」と自ら言ってくるようなモンスターが多すぎる。

 もし神様だとしても出入り禁止にされるべき。

 こんなことがまかり通っていたら、みんなが潰されて、働く人が減り、世の中がうまく回らなくなってしまい、社会全体にとって不利益です。

 中には「罰則なんて作ってもどうせ抑止力になんてならない」という意見を持つ方もおり、その意見は尊重したいところですが、少なくともわたしはこうした迷惑行為についてもっと厳罰化して欲しいです。

 福祉に関するサービス契約書の中に、ご利用者様だけではなくそのご家族についてもどういった迷惑行為があれば強制解約となるのか、もっと明記が必要だと思います。

 契約書に曖昧な言葉で書いてはあるけれど具体性のない表現しかなく強制力が無い、というのが実態なので。

 また、個人情報保護の観点から難しいとは思いますが、あまりに酷い迷惑行為がある方については同業者の間で最低限でもいいから情報をシェアしてお互い注意喚起出来る仕組みも欲しいです。

 わたしの案はきっと机上の空論でしょうし、もしそれらを実現させるなら様々な法整備が必要でしょうから道は険しそうですが、現状に危機感を覚えてくださる方が一人でもいればいいなと思い、今回は主にわたしのケースをご紹介してみました。

 長文となり、うまく結論をまとめられませんでしたが、以上報告です。

 わたしや、今回例として体験談を載せることを快くOKしてくださった方々と同じような目に遭う方が、今後は減りますように。

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