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【発表記録】「女性のトークン化について」(2023年11月27日)

2023年11月27日、日蓮宗宗務院において第24回日蓮宗教化学研究発表大会が開催され、ここで私は「女性のトークン化について」というタイトルで研究発表をしました。今回は、このときの発表記録として、発表内容の要約を書いていこうと思います。

なお、当日配布した発表資料(スライド)はこちらからダウンロードできます。

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女性のトークン化について

「トークン」(token)とは、「象徴」とか「しるし」という意味を表す英語です。この言葉を聞いて仮想通貨や暗号資産のことを思い浮かべる人が多いかと思いますが、ジェンダーに関連する文脈でも使われています。アメリカの社会学者でありハーバードビジネススクールの教授でもあるロザベス・モス・カンター氏は、男性中心組織において女性が置かれる立場について次のように述べています。

企業の中での女性の経験はその部署での女性の比率によるところが大きかった。少数派あるいは紅一点の女性は、全女性を代表する役割、「トークン」になっていた。

ロザベス・モス・カンター『企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる―』(高井葉子訳、生産性出版、1995年)p.212

このように、カンター氏は男性中心組織のなかでの極めて少数派(いわゆる紅一点)となった女性は「トークン」となり、全女性を代表する役割を担わされるとしています。「トークン」(象徴)という言葉が意味する通り、一個人が全女性の「象徴」となってしまうわけです。

それでは、「トークン」になってしまった個人は、具体的にどのような状況に置かれるのでしょうか。カンター氏の指摘によれば、トークンが置かれる状況の特徴は次のようなものです。

 ①可視性・・・注目の的になる
 ②対照性・・・多数派との違いを強調される
 ③同化性・・・ステレオタイプを当てはめられる

以上3つの特徴を、男性中心組織における女性に当てはめて考えてみると、「トークンとなった女性は常に全女性の代表として注目されるというプレッシャーを受けながら、男性と女性とのあいだの相違点を強調されるなかで疎外感を感じ、さらに社会一般のステレオタイプを当てはめられて個人としては見てもらえない」ということになります。

せっかく女性を登用しても、このような状況のなかではその人の実力を発揮することは困難だと思います。全体に占める割合が30%を超えると、「トークン」ではなく単なる「少数派」となり、上記のような状況に陥ることはなくなるそうです。だからこそ、クオータ制等によって、全体に占める女性の割合を規定することに意味があるわけです。

また、これは私が個人的に経験したことですが、ジェンダーに関する議論のなかで、次のような意見を何度か聞く機会がありました。

過去に会議に出席した女性が問題のある行動や発言をして大変な目にあったことがあるので、女性を積極的に登用することに不安を感じる。

このような意見は、問題行動そのものを「女性が行ったこと」として認識し、その原因も「当人が女性だったから」であると認識してしまっています。私はこの意見を責めたいわけではありません。「トークン」という概念をもって考えれば、むしろ「しかたのないことだった」と思われます。

多数の男性のなかにポツンと女性が入っていれば彼女はトークンとならざるを得ないし、そうなれば彼女の一挙手一投足は女性を代表するものとして注目されてしまうでしょう。〈可視性〉

また、男性で同じような問題行動を起こす人を見たことがなかったら、「女性だからこのようなことをしてしまうのではないか(男性だったらあり得ない)」と思ってしまっても無理はありません。〈対照性〉

ここでさらに、「女性は感情的になりやすい」という女性に対するステレオタイプが頭をよぎり、「やはり女性は会議等の場には向かないのではないか」と思ってしまうこともあるでしょう。〈同化性〉

つまり、女性が起こした問題行動を目の当たりにするという実体験によって、女性の積極的登用に対して不安を抱いてしまったのは、会議等に参加する女性の数が圧倒的に少ないために、その女性が「トークン化」してしまったことが原因であると考えられます。

結果として、この意見から読み取れるような「不安」を払拭するために、「それは女性に対する偏見である」と否定するのは、あまり効果がないと思われます。それよりも、より多くの女性(できれば出席者全体の3割以上)が会議に参加し、彼女らがトークンではなく集団として、また個人として多様性を見せながら発言を繰り返していく姿を男性(多数派)が目撃し、彼女らとの対話を実体験するしかないのではないでしょうか。

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以上が、研究発表「女性のトークン化について」の概要です。最後までお読みいただきありがとうございました。

次回は、この発表をしたあとにいただいた質問について、改めて自分の考えをまとめて書いてみたいと思っております。

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