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あなたと出会えることは奇跡。

「せっかく中村さんから差し入れてもらえるなら、南方熊楠の本が読みたい!」


彼は、なんの迷いもなく南方熊楠の本を選んでくれた。南方さんの本は読んだことないし、南方さんについてそんなに詳しくないという。ここは南方LOVERの腕の見せどころじゃないの。入門として、一番おすすめの本はすでに絶版だったから、南方熊楠研究者の方に相談して、なんとか1冊ゲットした。それに加えて数冊みつくろって、千葉に向かう。

台風19号の直後で、道中のバスの中から見える風景は、痛々しさが残っていた。なぎ倒されている木々、道に白く残る泥。ブルーシートに覆われた家々。わたしのジョギングコースもすっぽり川に飲み込まれたもんな。

病院の見晴らしのいい対面室で、結構な時間話をした。
南方さんがいかに魅力的か、わたしがプレゼンをし(笑)、あとは、本とか本屋さんのことをはじめ、お互いろいろと語り合ったなあ。こんなに面と向かって話したのははじめてだった。



一緒に仕事しようね!いろいろ企てようね!
そんなテンションで別れた。


その後、わたしは彼に選書と選書文を発注した。コロナ禍の中、企画していたイベントは軒並み断念せざるを得ず、その代わりに、今のわたしには何ができるんだろうと考える毎日。わたしはイベントという形が好きだ。だけど、イベントはひとつの形だ。では、なんの形なのか?その土台には人と人をつなげること、思いがけない縁を作ること。そこに、わたしの仕事のコンセプトがあることに改めて立ち戻ることができた。思いがけない縁を作ること、それを具現化したのがイベントだ。


であれば、イベントではない形を作ることができるのではないだろうか。



そこで、はじめたのがオンラインブックフェア 。毎回ひとつ「テーマ」を設定し、老若男女、ご近所さんから著名な方、日本、いや世界中、たまには地球外の生命体も……と、さまざまな方に選書&コメント、そして小文やイラストレーションを寄せていただく企画。第1回目は映画「タゴール・ソングス」誕生記念、そして第2回目は秋山あいさんの『パンティオロジー』刊行記念! 第2回目は、考現学とアートが掛け算されている「パンティオロジー」というプロジェクトが軸になっているから、さまざまな掛け算を起こしている方に参加していただきたいと思った。だから、イベントづくりが上手くて、クールに人と人をつなげるのに長けていて、何よりも読書量と本に関する知識量、そして愛の深さにかねてより敬服していた彼には是非とも参加していただきたい! と、依頼させていただいた。


フリーランスとしてよちよち歩きのわたし。名もないわたし。
それにもかかわらず、素敵な企画ですね!ぜひ参加させてください!と快諾してくれた。


とっても嬉しかった。


締切日よりも前に
想定外の選書と、彼らしい文章が届いた。
秘めた情熱がほとばしっていた。



とっても嬉しかった。



だけど、届いたプロフィールに「元書店員」と書かれていたのが気になってしまった。わたしは彼の書店員としての仕事に敬服していて、たとえ今は現場に立っていなくても書店員だと感じていたし、また現場で会おう!という気持ちも込めて、「元」じゃなくて「ちょっとお休み中」にしようよって相談したんだ。快諾をしてくれたけど、なんだか押し付けちゃったんじゃないかなとか、今となってはモヤモヤもしている自分もいる。


謝礼金を振り込むのがちょっとこそばゆかった。なんでだろう。
だけど、プロの書店員とお仕事ができたという気持ちで誇らしかった。



ほどなくして、わたしは、千葉市美術館のミュージアムショップの選書の仕事が決まった。彼の地元ということもあり、真っ先に彼に報告した。千葉でも何か一緒にできそうだね!


こんなやり取りが最期になった。
8月9日の夜、彼の訃報が届いた。泣いた。眠れなかった。




いいかい。
人生で出会える人の数はほんの一握りなんだよ。僕たちがこうして一緒に暮らしていることも奇跡に等しい。君が、彼と同じ時代を生きて、同じ職場で働いて、独立した後も仕事を一緒にできたことも本当に奇跡的なんだよ。この出会いにいっぱい感謝しなくちゃ。
彼は君より早くこの世からいなくなってしまったかもしれない。だけど、それはちょっとこの世で過ごす時間にズレが生じただけなのかもしれないよ。

悲しむことより、この奇跡に感謝をして、たくさんありがとうの気持ちで満たしなさい。


teshがわたしの肩を抱きながらこう言ってくれた。



わたしのありがとうを彼に届けるには、
彼との仕事を大切に育てていくことだろう。

彼と出会えた奇跡を噛みしめて、一緒に過ごした時間を大切にがんばろうと思う。


いっぱいありがとうです。





ーー兼頭啓悟様を偲んで。




追伸
心が悲しみでふさがってしまっていたわたしを、元気付けてくれたみんなに心から感謝です。大好き。





いつも読んでいただきありがとうございます。この出会いに心から感謝です!サポートをはげみに、みなさまに楽しい時間と言葉をお届けできるようがんばります。