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本を読む人です。名前は特にありません。 noteでは創作物に対しての感想を主として書い…

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本を読む人です。名前は特にありません。 noteでは創作物に対しての感想を主として書いていきたいと思っております。 よろしくお願いいたします。

最近の記事

短編小説『アンドロイドと心中しようか』2

 生きていたくない、等と最近は思わなくなっていた。  夜中に突然、目が覚めたのは、昼間の陰口を無意識のうちに気にしてしまったからだろうか。  うっすらとまぶたを開ける。左隣には美しい妻の寝顔がある。  俺は孤独じゃない。誰が何と言おうと独りじゃないんだ。  幸次は布団の中で恵《ケイ》の手を握った。  大学生の頃までは上手くやっていた。勉強は好きではないが、成績は悪くはなかった。今思えば、優秀な父の遺伝子に助けられていたのだけなのかもしれない。ただ当時は友人もいた。数少ない若者

    • PSYCHO-PASS 『恩讐の彼方に』 と菊池寛『恩讐の彼方に』を比較して

      PSYCHO-PASSというアニメの映画版に『恩讐の彼方に』という作品があります。 もちろん菊池寛の『恩讐の彼方に』をモチーフにした作品です。 僕が最初に触れたのはアニメ映画の『恩讐の彼方に』 そして今年には菊池寛の『恩讐の彼方に』を読了しました。 以前から2つの作品を比べてみたいと思っていました。 今回は2つの『恩讐の彼方に』を観て読んで感じたことを書いていきます。 菊池寛『恩讐の彼方に』あらすじざっくりとしたあらすじを書いていきます。 市九朗という男が、主人の愛

      • 短編小説『アンドロイドと心中しようか』1

         美しい妻だ。と目黒幸次《めぐろ こうじ》は心の中で呟きながら、妻の手料理を口に運んだ。こんがりと焼けたトーストに、目玉焼きとベーコン、それからシーザーサラダ。幸次の咀嚼音が妻と2人だけの家庭に響く。 「おいしいよ」 「どれがおいしいの?」  やや具体性を欠いた感想だったらしい。幸次はそう思って言い直す。 「シーザーサラダにかかってるドレッシングが美味しいんだ」 「よかったわ。自家製なの」    窓の外からは日が入って来ていない。ここ数日、雲の灰色が太陽を隠してしまっていた。

        • 小説『見知らぬ旗』中井英夫 感想

          幻想小説を読みたいな。ふとそう思って調べると、中井英夫に行き着きました。 メルカリで本書を購入し読み終えて、感想を書くに至りました。 本作は短編集ですので、短編ごとに小さくあらすじと感想を書いていこうと思います。 ※感想ですのでネタバレ配慮等はしておりません。 日蝕の子ら若者たちが太平洋戦争中に連れ出される時代に日蝕が起きる。 太陽が月に侵されるように背徳的な行為へと向かって行く人々を描いた作品。 日蝕の日に起きる怪しい営みと戦中の厭戦的な雰囲気が魅力。 縁日の妖

        短編小説『アンドロイドと心中しようか』2

          小説『バナナフィッシュにうってつけの日』サリンジャー 感想

          ※感想ですのでネタバレ配慮等はしておりません ※アニメ『BANANA FISH』について大きくネタバレしております。ご了承ください。 本書との出会い このバナナフィッシュという興味をそそるフレーズに出会ったのは、アニメが最初だったと思います。 『BANANA FISH』というアニメがあります。 孤独で優秀なブロンド男子とその友人の日本人が活躍するアニメです。 基本的にサスペンスとか、犯罪とか、マフィアの勢力争いの渦中で友情が育まれていくお話で、その作中にバナナフィッシュ

          小説『バナナフィッシュにうってつけの日』サリンジャー 感想

          【エッセイ】野球を見始めて。F騒動

          意外と騒ぐんだなぁ、と思った。 事の起こりは日本ハムファイターズ所属の投手、金村選手がリリーフに回ると言う発表があった事だった。 この金村投手は昨季こそケガもあり、あまり投げてはいないのだが、ファイターズが誇る超有望選手であるというウワサであった。 それどころか先発ピッチャーとして新人王を獲得するだろうと言う話だった。 ファンのみならず、球界OBも絶賛する様なピッチャーだ。 そんな彼がリリーフに回った。 1回~6・7・8・9回と投げる先発ピッチャーではなく、どこかの

          【エッセイ】野球を見始めて。F騒動

          小説『ノルウェイの森』村上春樹 感想

          村上春樹を読みたいな。ふとそう思って『ノルウェイの森』を買いました。僕も村上春樹を読みたいだなんて思うようになったんだなぁと、しみじみ思います。 さて、今回は人物ごとに分けて書いてから、全体としての感想を書いていきたいと思います。 ※感想ですのでネタバレ配慮等はしておりません。 直子本作のヒロインの内の1人。 選択肢の一つ、と僕は捉えました。 直子は死の象徴。多くの方がそう感じているようですが、僕も同感です。 彼女は性的な行為も、流れでワタナベと1度できただけ。 ど

          小説『ノルウェイの森』村上春樹 感想

          お別れホスピタル 最終回 感想

          NHK土曜ドラマ お別れホスピタルが完結しました。 今回はその感想をいくつかの項目に分けて書いていきたいと思います。 ※1話の感想と最終回の感想のみ書いております。 池尻さん今回フォーカスされた人物の1人です。 いつも権利書を数えさせていた池尻さんは、今回で逝去。 大切にしていた権利書を飲み込んで逝くという、彼女らしい最期を迎えました。 最期の前のシーンでは愛犬と触れ合う場面も描かれていました。 この場面で池尻さんがいつも看護師である主人公の腕をつねるのは、愛情表現で

          お別れホスピタル 最終回 感想

          ボカロ曲『it's A Whole World』解釈

          今回取り上げるのは、そーいち氏の楽曲『it's A Whole World』 youtubeやtiktokで耳にしたことがあるかもしれません。 特に「苦手だったテストだって100点だ」という歌詞はtiktokで一時流行したそうです。 しかし製作されたのはなんと10年前。 去年や一昨年に再注目された攻撃的な歌詞が特徴の興味深い楽曲です。 今回はそんな『it's A Whole World』について書いていきたいと思います。 歌詞全文初音ミク wiki より引用 個別解釈

          ボカロ曲『it's A Whole World』解釈

          小説『恩讐の彼方に』菊池寛 感想

          ※感想ですのでネタバレ配慮などはしておりません。 また『恩讐の彼方に』は短編集ですが、今回は表題作のみ取り上げます。 出会い自己紹介でも書かせていただきましたが、僕はPSYCHO-PASSというアニメ作品が好きです。 その映画版に『恩讐の彼方に』というズバリそのままのタイトルを使った作品があるのです。 その劇中でも菊池寛の書いた『恩讐の彼方に』が登場します。 この映画が本書との出会いでした。 それで僕はいつか読んでみたいと思い続け、先日読了いたしました。 しっかりとし

          小説『恩讐の彼方に』菊池寛 感想

          お別れホスピタル 第1話感想

          NHK土曜ドラマ『お別れホスピタル』の感想です。 ※感想ですのでネタバレ配慮はしておりません。 また”死”について扱っているドラマであり”自殺”の描写もありました。 公式サイトはこちらから↓ はじめに本作は療養病棟でのお話です。 今回は”死について”というのをテーマにして始まりました。 主人公は女性看護師さん。 そして本庄さんという余命半年の患者さんについての話が今回のメインです。 本庄さんこの本庄さん、劇中で自殺しています。 理由は判然としません。 モルヒネ等で自分

          お別れホスピタル 第1話感想

          『老人と海』ヘミングウェイ 感想

          ※感想ですのでネタバレ等の配慮はしておりません。 はじめに『老人と海』は3回目の読了となりました。 最初に読んだのは高校生の頃だったかと思います。 難しそうな本に挑戦したくて、読んで、結局よく分からなかったと言う感想を持った覚えがあります。 その後もう一度読んで、今回で3回目という感じです。 自分の中で読み方も変わって来たのかなと思います。 今では読んでよかったと、読後に思えるようになりました。 注目ポイント風景描写 序盤、キューバの港での暮らしが描かれているのです

          『老人と海』ヘミングウェイ 感想

          ラノベの何が悪いんですか?【エッセイ】

          最近、いや昔からライトノベルへの当たりが強い。 特になろう小説と言われるジャンルはたびたびSNSで馬鹿にされていると思います。 例えばターゲット層が透けて見えるとか、タイトルが説明的で読み取らせるつもりがないとか、ライトノベルより○○を読んだ方がいいとか、そう言った指摘です。 僕はこういった批判や偏見に意味があるとは思えません。 そもそも創作において○○は良くて××はダメ、という風に序列をつけること自体が危険だと思うのです。 価値観の押しつけのように思います。 文学

          ラノベの何が悪いんですか?【エッセイ】

          【エッセイ】滅びゆくこの国で

          日本人は随分、特殊な状況に置かれていると思う。 なんて突然言ったら、引かれてしまうでしょうか。 もちろん急に政治の話をするつもりはありません。 それに私のアイコンはお借りしているモノですので、政治の話はできないのです。 ですからこれから書くのは政治の話ではなく、日本の環境と私に関する独り言です。 目下、この国は少子高齢化社会と言われ、人口減少が進んでいます。 僕が小学生の頃から、問題だ問題だと騒がれていましたから、改善もしていないのでしょう。 人口が減るという事は、

          【エッセイ】滅びゆくこの国で

          『罪と罰』ドストエフスキー 感想

          ※ネタバレはあらすじ程度の紹介はコチラ 本を読む人 Diary (hatenablog.com) 『罪と罰』との出会い罪と罰という言葉を初めて聞いたのはいつだったか。 僕はもう覚えていません。 それほどまでにこの本は著名で、私たちの人生に入り込んでいる作品だと思います。 漠然と、人生のどこかでタイトルだけは聞いた、という人も多いのではないでしょうか。 漠然といつか読みたいなと思っていたのですが、ついに読んでみようと決心しました。 死ぬまでに1階は挑戦したいと言う気持

          『罪と罰』ドストエフスキー 感想

          『真昼の悪魔』遠藤周作 感想

          はじめに今回感想を書かせていただく本『真昼の悪魔』は遠藤周作によって昭和55年に刊行されました。 心が乾いていて、善い事をしても悪い事をしても心が満たされない、乾いた心を持つ女医が主人公。 彼女、大河内葉子が一種の傷害教唆をしたり、人体実験をしていく。 勤めている病院に巣食う悪魔として描かれていきます。 この本、というよりこのタイトルと出会ったのはドラマでした。 そのまま「真昼の悪魔」というタイトルで放送されていたのです。 主演の田中麗奈さんや脇を固める役者さんが、

          『真昼の悪魔』遠藤周作 感想