『悪魔の辞典』 – 日めくり文庫本【6月】
【6月24日】
あ
愛国者 (patriot n.) 部分の利害のほうが全体のそれよりも大事だと考えているらしい人。政治家に手もなくだまされるお人好し。征服者のお先棒をかつぐ人。
愛国心 (patriotism n.) 自分の名声を明るく輝かしいものにしたい野心を持った者が、たいまつを近づけると、じきに燃え出す可燃性の屑物。
ジョンソン博士は、あの有名な辞典の中で、愛国心を定義して、「無頼漢の最後の拠り所」と言っているが、この博識ではあるが、辞典編集者としては二流どこにしかすぎない博士に対して、当然払うべき敬意は十分に払いながらも、私は、失礼ながら、「最後の」ではなく、「最初の」と言いたい。
アカデメイア (Academe n.) 古代の学校で、倫理学と哲学を教えた。⇒高等専門学校
赤ん坊 (babe or baby n.) 年齢も性別も身分もにわかには定めがたい、不格好な生き物で、それ自身は何の情報も感情も解しないくせに、他の人びとの心に激しい愛憎の念を呼び起きない点でもっぱら注意を惹く。赤ん坊で有名なのが昔からいくたりが出ている。たとえば、幼いモーセがその一人だが、モーセに先立つ七百年前の古代エジプトの祭司たちが、オシリスは、子供のころ、水に浮ぶ蓮の葉に託されたおかげで命を失わずにすんだ、という愚にもつかない話を作り上げたのは、疑いもなく、幼いモーセの葦にまつわる冒険からヒントを得たにちがいない。
悪党 (blackguard n.) 市場へ出す箱づめのいちごと同じで、人目を引くように並べたてたもろもろの素質を、つまり、上等な奴が一番上に並べてあるのを、反対の底のほうから開けてしまった男。裏返しにした紳士。
悪人 (malefactor n.) 人類を進歩させて行く最も重要な要因。
悪魔 (Devil n.) われわれ人間のあらゆる災いを創始した者、この世のあらゆる良きものを所有する者。彼を作り出したのは全能の神であるが、彼に生を授け、彼をこの世にもたらしたのは、おんなにほかならない。
——ビアス『新編 悪魔の辞典』(岩波文庫,1997年)24 – 26ページ
この「辞書」は文庫本の巻頭にある「凡例」に書かれているように、「編者の独断と僻見を尺度として然るべき見出し語を自由に選び出して訳出した」もので「日本版として訳語を五十音順に改めた」とありますので、原書のままの項目とその順番には並んでいません。
しかしながらこの項目の配列には、書かれている言葉以上のシニカルが含まれているようで、それは最後の「わ」の項目まで読み進めても変わらないのです。「わいせつ」「賄賂のきく」「和解」「わがままな」「ワシントン市民」「笑い」
/三郎左
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