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【選んで無職日記76】待合場所をカフェにしちゃえばいいのに

2024/9/30

 午前中、車のディーラーに向かう。夏前ごろから一部パーツのリコール対象として連絡が来ており、一度ディーラーに電話したのが二か月前、その頃はまだパーツが日本に入ってきていないから対応出来ないと言われて、結局九月の最終日だ。昨日のうちに電話をしておくと、明日午前中であればすぐに対応できますとのことだったので、重い腰を上げて車で向かった。
 修理は一時間ほどかかるので、その間待合スペースでお待ちください、ドリンクはご自由にどうぞ、お手洗いはあちらにあります、と丁寧に説明してもらったので、カップドリンクの自販機からアイスカフェモカを選んでボタンを押した。
 私は車屋さんのこういった待合のスペースが好きだ。広くて解放感があって綺麗だし、ドリンクは無料だし、暇になったら展示してある新車を見ることも出来る。自ら進んで来たことはないが、両親に付き合って来た時には自動車メーカーが出しているグッズなどの小物なんかまでじっくり見てしまう。
 コーヒーの出来上がりを待ちながら、8月に辞めた会社のことを思い出す。オフィスにも、カップで出てくるドリンクの自販機があった。こういう自販機のコーヒーは何故か苦い。ミルクの量を調節できる自販機もあるのでミルク多めでボタンを押しても同じように苦い。小窓から差し出されたアイスカフェモカはほんの数秒前までかき混ぜられていたようで、カップ内の水流がクルクル回転しながらそっと私の方に出てきた。勿論これも苦かった。

 一時間というのは意外と暇だなと思ったので、事前に持ってきてあったテキストを読みながらマーカーを引く。テーブルが広くて照明も快適なので、勉強するのにもってこいの環境だなと思う。
 文章をぼんやり読みながら、月曜の午前中でそこまで客も多くない店内を見て、カフェにしちゃえばいいのに、と思う。入店してすぐ左手に四人掛けのテーブルが少なくとも五席、修理工場を見ながら座れるカウンター席も八席ほど、それに展示されている車の奥には子供の遊ぶスペースに加えて四人掛けのテーブルがまだ沢山あり、こちらには誰も座っていなかった。
 こんなに広いのに人がいないのはもったいないので、平日の午前中だけとかで時間を区切ってカフェにすれば、もしかしたらコーヒーの収益も得られるかもしれない。そういえば東京だと、ディーラーの建物に併設されてイケてるカフェが付いてたりとか、外資系のおしゃれな自動車メーカーがやっているカフェがあったりとかもする。あれはよい戦略だと思う。実際に流行っているのかどうかは知らないが。

 テキストを読んだり、目の前の大きなテレビでニュースを見たり、ぼうっとしていると一時間があっという間で、本当に丁度一時間きっかりで修理を終えてくれ、しかも車は洗車されてピカピカになっていた。

 ツヤツヤの車体を見ながら嬉しい気持ちでディーラーを後にし、米を買いに近くのショッピングモールに向かう。初めて行くところだったのでナビをいれたが、モールに入って駐車するも入口近くがどこだかわからず、結局遠くのスペースに停めてしまう。
 初めて行くスーパーには何があるのかわからず、ドキドキして楽しい。一見小さめのモールかなと思ったが、実際入ると三階建てで、一階にフードコート、三階にレストラン街があるというちょっと変わった構成だった。
 せっかくだから少し探検、と思って一階から三階までをぐるっとまわってみる。途中ガチャガチャの店があり中に入ると、丁度やりたかった種類が見つかってテンションが上がる。一度回して欲しいものが出ず、二回も回したが両方本命ではなかった。無職なのにガチャガチャに六百円も使ってしまったという後悔が頭をよぎる。
 ショッピングモールに入っている本屋には必ず寄る。有名書店が一棟ビルを構えることもある世の中で、こういった書店は地域密着型として、重要な本の流通ツールだと思う。そこまで広くない店内にどういった本を並べるのか興味があるし、意外な強みがある場合もあったりして面白い。例えば小さな店舗だとおざなりになりがちな哲学系の品揃えが何故かいいとか。芸能人や恋愛系のエッセイはどの店でも売れるのか、妙に広いスペースで展開されておりげんなりすることもあるが、たまにあるニッチな選書にわくわくすることもある。
 今日の本屋は品揃え的には他のショッピングモールに入っているところとあまり変わらない印象だったが、陳列が妙に荒かった。縦横をあまり整列させられずに平積みされていて、なんか逆に珍しいなと感じた。

 プチ探検を完了させスーパーに戻り、水二リットルととコーヒーとオーツミルクのパックをリュックに詰めて、肩イカれるなと思いながら家に帰る。部屋のドアを開けた瞬間に、米を買うのを忘れたことに気づき呆然とする。
 


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