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闇に彷徨う人々〜ユン・ジョンビン監督『工作 黒金星と呼ばれた男』(2018)

 香港映画に引き続き台湾を、とも考えたが、ここ2年ほどの間に繰り返し見た韓国映画に、ユン・ジョンビン監督『工作 黒金星と呼ばれた男』(2018、以下『工作』)があり、少し書き留めておこうと思い立った。

 内容については、深入りしない。

 朝鮮半島の国際政治を題材にした作品は多く、『JSA』(2000)などは、もはや古典的名作と言ってよいだろう。昨年の東京国際映画祭で上映されたアニメ『トゥルーノース』(2020)は、六本木ヒルズに駆けつけた。現在、全国ロードショー中である。

 『工作』は深刻な内容だが、娯楽性もあり、描かれるのは暗い側面ばかりではない。俳優陣のテンションと品位が高く、繰り返し見るに値する。当方、2019年7月に『シネマート新宿』で見て以来、ネット動画、衛星放送でリピート視聴、その度気づかされるところがあった。

 時代は1990年代。半島政治について、特に、1997年のキムデジュンが当選した大統領選挙の頃の知識があると理解しやすいが、何回か見るとわかって来ると思う。

 諜報戦が骨子となっているドラマである。韓国と北朝鮮が、闇の世界でしのぎを削る。映画館で見たときは上映中、緊張しっぱなしだった。

 スパイ合戦では、中国・北京も重要なロケーションとなっている。半島二国に大陸を加えたトライアングル。この構造が、作品のリアリティを高めている。ただ、実際のロケ地には、台湾も使われているとのこと。

 当方、韓国旅行は4回。そのうち2回、『JSA』の舞台DMZ(非武装地帯)を訪れた。最近行った2018年には、統一展望台から北朝鮮側を臨むことができた。イムジン河とハン河の合流地点の対岸には、北の人や家屋が見えたが、演出されたものらしい。最初に板門店に行ったのは10年前ぐらいで、近年までの間に、ここで小規模な軍事的事件も発生している。

 表面化した軍事トラブルの裏では、ジリジリとせめぎ合いが続いていたはずだ。

 もちろん、当方の旅行は、国際政治のことばかりを考えて過ごしたクソ真面目なものではない。ソウルと釜山しか知らないが、それぞれ素晴らしい都市だと思うし、十分楽しんだ。

 ドラマでは、『冬のソナタ』『愛の不時着』『梨泰院クラス』『夫婦の世界』ぐらいはチェックしているのだ。

 韓国映画は、量産されていることもあり、玉石混交という印象。たくさん見ているから、いちいち挙げるとキリがない。また、映画、ドラマだけでなくKポップ方面にも、多くの女性ファンがいらっしゃるから、当方にコメントする資格はない。

 『工作』には、笑えるところもあるが、ショッキングな場面にも出くわす。しかし、こういう残酷な描写にしても、実際の恐ろしさには到底及ばないのだろう。観客には、想像力が求められる。

 日韓関係は錯綜し、その歴史的評価もデリケートであることは、今さら言うまでもない。目下の情勢も極めて流動的である。テレビやWEBで、学者やジャーナリストがコメントするが、鵜呑みは禁物。自分の目で見ることを心がけたい。

 映像や音楽など媒体も絶対的ではないが、当方貴重なものと考えている。『工作』などを注意深く見ると、迫って来るものがある。映画、ドラマだけでなく、韓国の若い人たちのパワフルな音楽にも、同国の人の価値観やメッセージ性を感じる。

 国際政治のそれらしい分析こそ、距離を置いて眺めるべきものと思う。

 当方の韓国の友人数人は、いずれも親日、日本語はペラペラ。蛇足ながら、美男美女ばかり。彼らに接するといつも、日本人は英語ばかりでなく韓国語をもっと学ぶべきと反省させられる。もちろん、異文化同士の人間、完全に理解し合うのは容易ではない。しかし、普段から互いの言語、食事、文化などに親しんでいると、いつか確かな感触を得られるはずである。

 なお、1979年のパク大統領暗殺事件を扱った『KCIA 南山の部長たち』(2019)も、『工作』と同系統の政治サスペンス。イ・ビョンホン熱演ながら、『工作』のイ・ソンミンが光っている。おすすめです。             以上

 

 

 

 


 

 

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