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「規格外野菜」をめぐる消費者と農家の間の暗くて深い溝の話

規格外の野菜を売ってもらえれば、農家も捨てずに済むし消費者も安く買えてうれしい」みたいな話を聞くことがある。

野菜は工業製品ではないので、市場やJAの出荷規格に合わないものが一定程度できてしまう。20年くらい前の話だが、1反(10a)に5000本大根をまくと正品が4000本(有機だからロス率高し)、1000本の規格外品ができる前提で一本いくらという計算をしていた。正品が多ければ儲かり、台風にやられて半分しか収穫できなければマイナスだ。規格外品は加工に回したり畑にすき込んだりする。

当時、小松菜の出荷規格は長さ25センチだった。30センチくらいまではOKだが、菜っ葉は適期に収穫しないとどんどん生育して一株が大きくなるので、伸びすぎて40センチくらいのものを出す農家もいた(当然返品)。季節にもよるが、小松菜はでかくなると筋っぽくなることがある。25~30センチくらいがやわらかくおいしく食べられる大きさということだろう。

大きさだけでなく、病変の有無、見た目、色など、作物によっていろいろな出荷規格がある。不作時には若干甘くなったりもするが、おおむね規格をクリアしたものが店頭に並んでいる。クリアしなかったものは、基本的に加工されたり廃棄されているが、これに飛びつく流通や消費者がいる。

いわゆる「もったいない」である。

「せっかく農家さんがつくってくれた野菜を廃棄するなんてもったいない。規格外の野菜を(果物を)売ってくれればムダにしなくて済む」というのは美しい正論だ。このあとに「規格外なんだから安価で」という言葉がくっつかなければ。

消費者には「規格外野菜を安価に食べてSDGsに貢献」といういい話だが、実は農家にとってメリットはほとんどない。なぜなら、規格外野菜を出荷する手間も、運賃も、箱も、正品と同じだけかかるからだ。経費が同じなのに安価で出荷できるわけないでしょう、ムリだよね、という単純な話だ。しかし、農業の現場を知らない消費者にそれを想像するのはむずかしい。

また、規格外野菜と言ってもいろんな形や色のものがゴロゴロ入っているのをそのまま出荷OKにはならない。基本的にでかいものは病気や生理障害が起きていることが多く(サツマイモやじゃがいもなどはとくに)、そのリスクを避けるために「でかいの不可」みたいな決まりがあると、規格外品を選果するというわけのわからない作業が発生する。農家のメリットはほんとうになにひとつない。

「あえて農家さんのために規格外野菜を食べるわたしってステキ」的な美しい妄想は農家にはありがた迷惑だ。このような消費者と農家の間に横たわっている、お互いを理解しづらい大きな溝を埋めるのは本来は流通の役割だと思うのだが、流通はそれを知ってか知らずか「もったいない野菜コーナー」とか「SDGsに貢献」とかアピールするので、消費者にはますます伝わりづらい。互いの溝は深まるばかりだ。

スーパーで売ってる普通の野菜や果物を購入し、冷蔵庫で腐らせずに食べるのがもっともSDGsにかなっているとわたしは思う。店頭で「規格外野菜を食べて農家を応援」とかいう美辞麗句を見るたびに、もうちょっとちゃんとした情報を提供してほしいなあと思うのだが、まだまだ先は長そうだ。

追記:りんごや梨など果物の台風被害のキズあと的なものはほんとに「農家を応援」なのでそれは応援してください。今年はそういうのが多そうです。

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